この記事では、以下の内容を紹介します。
・生活保護制度の概要
・借金があっても申請できるのか
・生活負担軽減のための自己破産について
生活保護と借金についての疑問を解決できる内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
1.生活保護とは
生活保護を正しく利用するために、どのような制度なのかを知っておきましょう。
生活保護制度は、厚生労働省によって以下のように定義されています。
「生活保護とは、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。)」
※出典:生活保護制度|厚生労働省
健康で文化的な最低限度の生活の保障と自立を支援するために作られたもので、居住地を管轄する福祉事務所で相談や申請ができます。
※参考:生活保護法|e-Gov法令検索
生活保護制度の詳細の内容については、厚生労働省のWebサイトで詳しく情報が公開されています。
1-1 生活保護を受給するためには
生活保護は、自力での生計の維持が困難な方のための制度なので、誰でも受給できるわけではありません。
1-1-1 預貯金や土地などの活用できる財産がない
生活保護は、能力や資産を全て利用してなお、自力で生活を維持できない方を対象としています。
現金、自分名義の預貯金、有価証券、自動車、不動産などを所有している場合は、まずは、これらを生活費として活用することを試みます。
ただし、預貯金の金額が最低生活費の半分以下である場合や、自宅の売却価格やローンの状況によっては、生活保護の対象になることがあります。
※参考:生活保護法第四条(保護の補足性)|e-Gov法令検索
1-1-2 家族や親族からの援助が受けられない
生活保護の申請者に家族や親戚がいる場合、原則的に生活保護による支援より身内からの援助が優先されます。民法では、直系血族および兄弟姉妹は、互いに付与する義務が定められているからです。
生活保護費の支給には審査があり、3親等以内の扶養義務者に扶養の可否を確認する「扶養照会」が行われます。家族や親族が援助してくれる場合、生活保護の支給対象外です。
ただし例外はあり、過去に扶養義務者からの虐待があった場合や、長期にわたり音信不通の場合などは、扶養照会が行われないこともあります。自治体によっても対応は異なるため、申請を検討している場合は窓口に問い合わせてください。
※参考:生活保護法第四条(保護の補足性)|e-Gov法令検索
※参考:民法|e-Gov法令検索
1-1-3 働いて収入が得られない
働いて十分な収入を得られない場合も、生活保護受給の対象です。病気やけがなどで働けない場合や、働いても生活を維持するのに十分な収入に届かない場合は申請が可能です。
働いている方については、毎月の収入が最低生活費よりも低い場合に、不足分を補う形で生活保護を利用できることがあります。
生活保護はあくまで自立を促進するための制度です。そのため、「働ける状態だが働きたくない」という理由では生活保護は受給できません。
※参考:生活保護法第四条(保護の補足性)|e-Gov法令検索
1-2 借金があっても生活保護の相談は可能
借金がある場合でも、生活保護を受給できる場合があります。相談時に、借金があることを伝え、上述の要件を満たしていれば申請が可能です。
ただし、住宅ローンがある場合、残債の金額や残りの返済期間によって支給が受けられないこともあります。詳細は、居住地の福祉事務所に確認してみましょう。
2.生活保護を受給すると借金はどうなる?踏み倒しはできるのか?
生活保護を申請したり、受給が始まったりすると借金がなくなると思っている方もいるかもしれません。生活保護を受給すると借金はどうなるのでしょうか。あわせて踏み倒しが可能なのかを紹介します。
2-1 借金の返済義務はなくならず引き続き取り立てられる
生活保護の支給が始まっても、借金の返済義務はなくなりません。生活保護制度と個人の借り入れは無関係だからです。
借金は、お金を借りている債務者と、お金を貸した債権者の間の民事上の契約です。一方、生活保護は社会保障としての国と個人の間の金銭のやり取りなので、全くの別問題といえます。
借金を滞納している場合、生活保護を受けているかどうかに関係なく取り立ては継続します。取り立てをやめさせたい場合や、借金を整理したい場合は別途対策が必要です。
2-2 借金を滞納し続けると給料・財産などが差し押さえられる
生活保護の受給が開始したからと言って、返済が猶予されるわけではありません。放置していると、以下のようなリスクが発生します。
- 返済期間が伸びる分利息が加算され借金が増える
- 滞納によって遅延損害金を含む金額の一括返済を要求される
- 裁判所から訴状や支払督促が届く
- 給料や財産などを差し押さえられる
生活保護費は、受給者を保護する観点から差し押さえが禁止されています。そのため、給料の差し押さえのように、支給時に債務の返済分が控除されることはありません。ただし、一度預金口座に振り込まれた生活保護費は個人の預貯金です。こちらは差し押さえの対象です。
対策として、裁判所に「差押禁止債権の範囲変更申立て」の手続きができます。差し押さえによって、生活に大きく支障が出る場合に、差し押さえの範囲を減額するよう裁判所に申し立てができます。
※参考:生活保護法第五十八条(差押禁止)|e-Gov法令検索
※参考:差押禁止債権の範囲変更申立てQ&A |裁判所
3.バレると打ち切り?生活保護受給後の注意点
生活保護の受給が決まると、定期的にお金を受け取れます。ただし、生活保護費はあくまで暮らしを維持するためのものなので、用途には制限があります。規定を守らないと支給が打ち切られる可能性もあるため、ルールに従って保護費を使うことが大切です。
ここでは、生活保護受給後に注意したいポイントを紹介します。
3-1 生活保護費で借金を返済しない
生活保護費は、借金の返済のためには利用できません。生活保護費で補助される内容は以下の通りです。
生活を営む上で生じる費用 | 扶助の種類 | 支給内容 |
---|---|---|
日常生活に必要な費用 (食費・被服費・光熱費等) |
生活扶助 | 基準額は、 (1)食費等の個人的費用 (2)光熱水費等の世帯共通費用を合算して算出。 特定の世帯には加算があります。(母子加算等) |
アパート等の家賃 | 住宅扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
義務教育を受けるために必要な学用品費 | 教育扶助 | 定められた基準額を支給 |
医療サービスの費用 | 医療扶助 | 費用は直接医療機関へ支払 (本人負担なし) |
介護サービスの費用 | 介護扶助 | 費用は直接介護事業者へ支払 (本人負担なし) |
出産費用 | 出産扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
就労に必要な技能の修得等にかかる費用 | 生業扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
葬祭費用 | 葬祭扶助 | 定められた範囲内で実費を支給 |
※図表引用:生活保護制度|厚生労働省
借金の返済など、規定以外の用途にお金を使った場合、不正受給となることがあります。生活保護が打ち切られる可能性があるため注意してください。
3-2 生活保護受給中は新たな借金はできない
生活保護受給中の新たな借金は、「収入」と判断される可能性があり、借り入れた金額に応じて保護費が減額されます。
借金をした事実を福祉事務所に黙っていると、不正受給となり生活保護打ち切りの対象になります。
なお、発覚せずに借金をすることはほぼ不可能です。福祉事務所は、生活保護受給者の金融機関の口座情報を取得できるため、少額の借金でも発覚してしまいます。
4.借金を返済するための対処法「債務整理」
仮に生活保護を受給できても、借金問題の直接的な打開策とはならないのが現実です。借金返済の負担を軽減したい場合、借金そのものへの対策が必要となります。
こうした場合に考えられる選択肢の一つが、「債務整理」です。ここでは、債務整理の概要と、返済の免除を受けられる自己破産について詳しく紹介します。
債務整理についてより詳しい内容を知りたい方は、以下の記事を参照してください。
債務整理とは?3種類のメリット・デメリットや生活への影響を解説
4-1 債務整理とは
債務整理とは、法的な手続きや交渉によって債務(借金)の返済負担を軽減する方法の総称です。債務整理には「任意整理」「自己破産」「民事再生(個人再生)」の3種類があり、それぞれ以下のように内容が異なります。
任意整理 | 民事再生 (個人再生) |
自己破産 | |
---|---|---|---|
裁判所への申し立て | なし | 必要 | 必要 |
借金の削減額 | 債権者と交渉による (おもに利息・遅延損害金分) |
1/5~1/10程度 | ほぼ全て |
元本の減額 | できない | できる | できる |
手続き後の返済 | 必要 ※3~5年で完済 |
必要 ※3~5年で完済 |
原則なし ※一部免除されない債務あり |
任意整理と民事再生(個人再生)は、手続き後も返済が継続するため、安定した収入が必要です。そのため、生活保護受給者が債務整理をする場合、一般的には自己破産が選択肢となります。
4-2 借金問題を解決する「自己破産」
自己破産は、破産法に規定されている債務整理手続です。裁判所に破産を申し立て、免責許可決定(債務の免除を受ける裁判所の許可)が出れば、借金の支払い義務がなくなります。
ただし、税金や罰金などは破産法に規定されている非免責債権に当たるため、返済義務はなくなりません。
自己破産には、所有している財産の金額などに応じて次項の3種類の手続きがあり、状況を考慮して裁判所が決定します。
自己破産のより詳しい情報は、以下の記事で紹介していますので参照してください。
自己破産とは?メリット・デメリットや条件、自己破産後の影響を解説
4-2-1 同時廃止事件
同時廃止事件とは、申立人に大きな財産がなく、免責許可決定に問題がない場合の手続きです。手続きの開始が決定した時点で債権者に配当すべき財産がないことが確認されるため、終了が早いことが特徴です。
財産と債務を清算する必要がなく、破産管財人の選出なども行われないため、裁判所に納める予納金(手数料)が安く済みます。個人が破産手続きを行う場合、その多くが同時廃止事件になります。
4-2-2 管財事件
申立人にまとまった金額の財産がある場合は管財事件となります。財産の管理や調査・清算・配当などを行う破産管財人の選出が必要です。同時廃止事件と比べて予納金は高くなり、手続き終了までも長くなります。
4-2-3 少額管財事件
申立人に少額の財産がある場合の手続きが「少額管財事件」です。自己破産を弁護士に依頼すると少額管財事件になることが多く、破産管財人が行う手続きの一部を弁護士が行うことで、予納金が安くなります。
4-3 自己破産のデメリット
自己破産の手続きを行う方の多くが財産を持っていません。そのため、金銭面でのデメリットは少ないでしょう。
ただし自己破産をすると、引っ越し後の入居先を見つけることに影響が出る場合があるほか、いくつか懸念点があります。具体的に、どのような点が問題なのか詳しく紹介します。
4-3-1 賃貸住宅の契約に影響が出る場合がある
賃貸住宅を契約する際は、保証会社との保証委託契約が必要なケースがあります。この際、自己破産した経歴があると、一部の信販会社系の保証会社の審査に通りにくいことがあります。
転居先が見つからない場合は、信販会社系の保証会社が関係しない物件を探すか、弁護士に相談することが望ましいです。
4-3-2 クレジットカードやローンが約5年~7年利用できなくなる
自己破産をすると、個人信用情報機関に「金融事故情報」が登録されます。これが、いわゆるブラックリスト入りです。
自己破産によって登録された事故情報は、手続き完了から5~7年の間は残るため、この間はローンの契約や、新たなクレジットカードの作成は難しくなります。
4-3-3 価値のある高額の財産は清算される
自動車や不動産など、金銭的価値のある財産は清算され、債権者への配当に充てられます。そのため、手元に残すことはできません。
ただし、前述の通り家財や財産を何もかも失うわけではなく、生活するために必要最低限のものは残せます。
4-3-4 官報(国の機関紙)で公告される
官報は、国が発行している機関紙のことです。自己破産など裁判所に申し立てをした債務整理手続きを行うと、住所と氏名が公開されます。
一般の方が官報を見ることは稀ですが、知人や職場の方が見ることがあれば、自己破産を行った事実が知られる場合があります。
4-3-5 一部の職業に就くのに制限がかかる
自己破産の手続き中は、一部の職業への就業が制限されます。例を挙げると、宅地建物取引士などの士業や保険の外交員、古物商や警備員などです。
ただし、自己破産したからといって資格が剥奪されることはありません。
4-3-6 免責されない債務がある
先ほど触れたように、自己破産しても免責されない債務が一部あります。以下のものが代表的です。
- 滞納した各種税金
- 養育費や婚姻費用
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償債務
- 故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償債務
- 罰金
例えば、配偶者に対して支払うべき婚姻費用を滞納している場合、自己破産で免責許可決定を得たとしても、滞納中の婚姻費用は免責されず支払義務が残ります。
※参考:破産法第二百五十三条(免責許可の決定の効力等)|e-GOV法令検索
4-3-7 保証人が一括返済をしなければならなくなる
自己破産で免責された借金に、保証人や連帯保証人をつけていた場合、保証債務は自動的に免責されません。債務者(借主)が自己破産した場合は、保証人が一括返済を求められます。保証人が借金を返済できない場合、保証人自身が債務整理の手続きを取る必要があります。
なお、自己破産の場合、保証人ではない家族が自己破産をした本人に代わって返済をすべき法的義務はありません。
4-4 自己破産ができる条件
自己破産は、誰でも可能な手続きではありません。免責許可決定を受けるにあたり、どのような条件が設けられているのか、詳しく見てみましょう。
4-4-1 債務が支払えない
自己破産するには、裁判所から債務の支払いが不可能であるとの認定を受けなければなりません。仮に、毎月数十万円の返済が必要な場合でも、十分に支払えるだけの資力があれば、破産手続開始決定は下りません。
借金の理由や総額、現在の収入や生活状況などを総合的に判断して決定されます。
※参考:破産法第十五条(破産手続開始の原因)|e-GOV法令検索
4-4-2 免責不許可事由にあたらない
破産法に定められている免責不許可事由に該当する場合、免責が許可されない余地があります。
免責不許可事由はいくつかありますが、個人の自己破産では、以下の事項がしばしば問題になります。
- 免責不許可事由の例
- 借金の原因がギャンブルである
- 手続きの際に財産隠しや換金を行った
- 信用取引で財産を取得している
ただし、免責不許可事由に該当する場合でも、免責を許可することが相当であると判断される場合、債務が免除されます。個別のケースによって異なるため、不安があれば弁護士に相談してみましょう。
※参考:破産法第二百五十二条(免責許可の決定の要件等))|e-GOV法令検索
4-4-3 非免責債権ではない
前述の通り、自己破産の手続きをしても返済が免除されない債務があります。税金や国民年金保険料、一部の損害賠償債務、婚姻費用や養育費、罰金などは免責の対象外です。
5.生活保護受給中に自己破産する際の注意点
保護費の受給中に債務整理をする際は、生活保護のルールを破らないよう注意が必要です。どのような点に注意すれば良いのか詳しく見てみましょう。
5-1 生活保護と自己破産を申請するタイミングを検討する
自己破産と生活保護の順序は特に決まっておらず、同時に手続きをすることも可能です。ただ、自己破産の費用が支払えないため、生活保護の支給開始後に手続きをしたい場合などは、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
5-2 過払い金を受け取る際は福祉事務所に届け出をする
過払い金とは、借入金の返済につき、法律上の上限利息を超えて払い過ぎがされた、本来払う必要のない返済金のことです。所定の条件に該当する場合、クレジットカード会社や消費者金融などに過払い金を請求できることがあります。
ただし、過払い金は、原則上、収入と判断されます。過払い金が手に入る場合には、事前に福祉事務所に届け出することが大切です。過払い金の届け出がない場合、後に、不正受給があったとみなされるおそれがあるので、過払い金の届け出を欠かさず福祉事務所にしましょう。
過払い金が発生している見込みが高い場合、生活保護の申請の前に請求手続きをしておきましょう。過払い金が戻ってきても生活が維持できない場合には、生活保護を申請することをおすすめします。
6.生活保護は借金があっても申請することは可能!生活を立て直すために弁護士に相談しよう
生活保護は、借金があっても申請できますが、生活保護の受給が始まったからと言って借金の支払いが免除されるわけではありません。借金を解決するには、別途対処が必要となります。
債務整理をする場合、書類の作成や裁判所での手続きなど専門的な作業も多いため、サポートしてくれる弁護士を探すのがおすすめです。
ライズ綜合法律事務所は、債務整理の分野で5万件超の相談実績を誇る事務所です。専門知識を備えた専門家がそろっており、生活の建て直しをサポートしています。
今ある借金をいくら減額できるのか、無料で調べられる借金減額診断のサービスを開始しました。借金問題でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。