法律コラム

  • TOP
  • 法律コラム
  • 債務整理
  • 債務整理後に住宅ローンは契約可能?債務整理と住宅ローンにまつわる疑問にお答えします

債務整理

2023/03/13

債務整理後に住宅ローンは契約可能?債務整理と住宅ローンにまつわる疑問にお答えします

住宅ローンは家を購入する際に多くの人が利用します。過去に債務整理をした人の場合「住宅ローンが組めるのか」「審査で落とされるのではないか」と心配なこともあるかもしれません。 今回は、住宅ローンと債務整理の関係について、債務整理中の住宅ローンの扱いなども含めて紹介します。参考にしてください。
債務整理後に住宅ローンは契約可能?債務整理と住宅ローンにまつわる疑問にお答えします

1.債務整理とは

債務整理とは法的手段によって、借金の減額や免除、支払いの猶予など、負担の軽減を目指すことです。具体的には、債権者との交渉のほか、裁判所の各種制度や法律を利用し、債務者の経済的な建て直しを図ります。

現在、債務整理の手段として広く行われているものは次の通りです。

  • 任意整理
  • 破産手続(自己破産)
  • 個人再生手続
  • 特定調停

それぞれ詳細を見てみましょう。

1-1 任意整理

任意整理とは、債権者との交渉によって返済の軽減を目指す方法です。主に、消費者金融や信販会社、銀行からの借金など、高利かつ無担保の借り入れが対象となります。任意整理で減額の対象となるのは、借り入れのうち利息部分と、滞納による遅延損害金が主です。債権者の同意を得ることが難しいため、基本的に、元本のカットはできません。

任意整理では、最初に債権者に照会を行い債務の金額を確定させたうえで交渉を行います。将来的には3年から5年で完済できるよう、支払いの調整を求めるのが一般的です。

なお、任意整理はその名の通り「任意」での交渉のため、債権者側に応じる法的義務はありません。状況によっては断られる可能性もあります。

1-2 破産手続(自己破産)

次に、破産手続、いわゆる自己破産です。自己破産は、複数の債務を抱えている場合や金額が大きく返済できないケースで、債務についての免責を得る法的手続きです。裁判所に申し立てを行い、免責許可決定が出れば債務の支払い義務がなくなります。

ただし、一定額以上の預貯金や不動産などの大きな財産がある場合は、債務を清算するためにその大きな財産を手放さなければなりません。なお、自己破産には支払いの免除が受けられない「免責不許可事由」がいくつかあります。ギャンブルや浪費で作った借金についてはこれに該当するため、免責されないこともあります。

また、悪意で他人に加えた損害の賠償債務や、税金の滞納分も免責の対象外であるため、注意してください。

1-3 個人再生手続

個人再生とは、裁判所に申し立てて行う債務整理手続の一つです。破産とは異なり、債務の全額免除ではなく圧縮を目的としています。

具体的には、圧縮後の債務を3年(延長が認められれば5年)で返済できる再生計画案を裁判所に提出して、裁判所から再生計画の認可決定を得ることによって、債務の圧縮をすることができます。債務の原因がギャンブルなどの浪費の場合も利用可能です。

個人再生には「住宅資金特別条項(住宅ローン特則)」という制度があります。住宅ローンについてはそのまま支払うことを内容とする再生計画を定めることにより、持ち家を手放さずに借金を減額できます。

1-4 特定調停

特定調停とは、借金の整理を目的とした調停(裁判所が間に入る話し合い)のことです。借金に対して、利息の減額や分割払いでの返済ができるよう、債権者と交渉を行います。交渉の内容自体は任意整理と類似していますが、裁判所に申し立てが必要な点が異なります。

特定調停で合意がまとまったときに作成される調停調書には、債務名義(強制執行の法的根拠となる文書)としての効力があります。合意のとおりに支払いを行わない場合、強制執行が行われることもあります。

 

2.債務整理したあとでも住宅ローンは契約可能

過去に債務整理を行った経験がある場合でも、住宅ローンの契約は不可能ではありません。ただし、これは債務整理をしてから一定期間経過する必要があります。なぜ一定期間経過しないと住宅ローンを組めなくなるのか、債務整理が住宅ローンに与える影響にどのようなものがあるのか、詳しく解説します。

2-1 債務整理したあとはいつから住宅ローンを組める?

そもそも、なぜ債務整理後の住宅ローン契約に期間の制限があるのでしょうか。これには、個人信用情報機関が管理している信用情報が関係してきます。

現在日本には三つの個人信用情報機関があり、個人の経済活動の履歴をデータベース化して管理しています。各金融機関は、業種に対応した個人信用情報機関のデータを参照して審査の参考にしているため、住宅ローンの申込者が債務整理をしたことがあるのか確認可能です。

個人信用情報機関の記録は、内容に応じて保存期間が決まっています。債務整理の記録は、債務が完済または消滅してから5年~7年記録されているため、この期間に住宅ローンの審査を受けても、金融機関は債務整理経験者であると把握できます。

各金融機関は住宅ローンの審査の基準は明らかにしておらず、条件によって審査に通過できるかもしれません。ただし、基本的にはこの期間は契約できないと思ったほうがよいでしょう。

2-2 住宅ローンの借り換えはできる?

では、住宅ローンの借り換えはどうでしょうか。個人再生の住宅ローン特則を利用した場合などは、住宅ローンはそのまま残るため、借り換えできると考える人も多いでしょう。

しかし、こちらも個人信用情報機関に債務整理の履歴が残っていると難しいといわざるを得ません。「借り換え」であっても、借り換え先の金融機関にとっては住宅ローンの新規契約と何ら変わらないためです。

借り換えローンの審査では、収入や年齢などの一般的な条件はもちろん、信用情報も調査します。債務整理の履歴が残っている状態では、借り換えも難しいケースが多いでしょう。

2-3 債務整理は配偶者には影響しない

債務整理をしたら家族に影響が出るのではないか、と心配される方は少なくありません。しかし、例えば夫が過去に債務整理を行っても、妻の借り入れやクレジットカードの作成などには影響しません。

信用情報が影響するのは、あくまで本人の経済活動です。上記の場合に、例えば妻の名義で住宅ローンを借り入れるのであれば、とくに問題はありません。

ただし、夫婦で収入合算を行う場合や、夫が連帯保証人になりたい場合、ペアローンを利用するときは審査に通らない可能性があります。これらの方法で共同して家を購入する場合は、住宅ローンの審査で二人分の信用情報を調査するためです。

3.債務整理したあとに住宅ローンの審査に通過するためにすることとは

債務整理をした過去がある場合、経済状況が回復しきっておらず、住宅ローンの審査に臨む際に不安がある人も多いでしょう。では、債務整理したあとに審査に通過するためには、どうすればよいでしょうか。

3-1 一定の期間が経過するまで待つ

前提として、個人情報機関に債務整理の記録が残っている間は、本人名義の借り入れはほぼ不可能です。そのため、債務整理の情報が抹消されるまでは申し込まないようにしましょう。

債務整理の情報が残っているか心配な場合、対象の個人信用情報機関に問い合わせることで確認できます。整理した債務に対応する個人信用情報機関に確認してみてください。

住宅ローンなど銀行の債務 全国銀行個人信用情報センター(KSC)
クレジットカードの債務 CIC
消費者金融の債務 日本信用情報機構(JICC)

※元債権者の加盟先を確認すると確実です。

情報開示には、郵送やスマートフォンの専用アプリなどを利用します。機関によって手続き方法は異なるため、詳細はそれぞれの個人信用情報機関の公式WEBサイトを確認してください。

3-2 夫婦でペアローンを組む

過去の借金の影響で経済状況に不安があり、単独名義のローンが組めない可能性が高い場合、ペアローンを使用することも一つの手です。ペアローンで債務整理経験者のほうの借入金額の比率をなるべく少なくすれば、審査に通る可能性が上がるかもしれません。

ただし、ペアローンではどちらかが返済不能に陥ると、もう一人が住宅ローン債務全体を返済しなければならなくなります。ケガや病気、離婚などのリスクに備えておくことが大切です。また、夫婦の収入を整理したうえで、無理なく返済できる借入額に抑えられるよう借入額を検討しましょう。

3-3 債務整理した金融機関には申し込まない

個人信用情報機関から債務整理の記録が抹消された後でも、債務整理をした金融機関で住宅ローンの申し込みをすることはおすすめできません。

金融機関は、信用情報のほかに独自の顧客データを保有しているケースがあり、この情報は年月が経過しても抹消されない可能性があるからです。そのため、金融機関にもよりますが、債務整理を行った金融機関とは再度契約することはかなり難しいでしょう。

これは金融商品の種類が異なる場合も同様です。例えば、金融機関のカードローンに対して債務整理を行った場合、同じ金融機関の住宅ローンは申し込めない可能性が高くなります。

また、金融機関が異なっても、保証会社が同じでは審査通過は難しいでしょう。なるべく審査通過の可能性を上げるためには、債務整理をした金融機関とこれから申し込み予定の金融機関、それぞれの保証会社を調べてみることをおすすめします。

ローン審査の履歴も個人信用情報機関に登録されますので、見込みの低い申し込みでのちのち不利にならないよう注意してください。

 

4.住宅ローン返済中の債務整理

返済中の住宅ローンが残っている場合に債務整理をすると、住宅ローンや家はどうなるのでしょうか。詳しく見てみましょう。

4-1 住宅ローンも債務整理可能

住宅ローンも、他の借金と同様に債務整理が可能です。ただし、住宅ローンを対象とする場合は家を手放すことになるケースがほとんどです。債務整理の方法別に3つのパターンを見てみましょう。

【任意整理】
住宅ローンそのものを任意整理の対象とすることはほぼありません。というのも、自宅が担保になっていることから、金融機関が任意整理に応じないためです。返済できなければ、自宅に設定されている抵当権が実行され、競売で自宅が売却されたのち借入金が回収されます。

また、住宅ローンの利息は低く、利息分をカットする任意整理の効果が薄いことも住宅ローンが任意整理の対象から外れる理由の一つです。任意整理を行う際は、住宅ローンはそのままに、その他の借金を整理することが一般的です。

【自己破産】
住宅ローン返済中に自己破産を行うケースでは、破産手続きの着手時点で住宅ローン債権者が有する抵当権が実行されるため、破産手続開始決定が出される前であっても、住宅は競売により売却されます。一方、住宅ローンを完済している場合には、不動産も破産手続きでの清算の対象となります。

破産手続開始決定の時点で破産者が(住宅ローンの負担がない)不動産を有するときは、破産管財人が破産者の不動産を管理処分することになります。破産管財人とは、破産手続きにおいて破産者の財産について管理処分権を有する者のことをいいます。裁判所は、破産手続開始決定時に、外部の弁護士を破産管財人として選任します。破産管財人は、管理処分権に基づいて、破産者の有する不動産を新しい買主に売却をして、売却により換価した金銭を各債権者に配当します。

【個人再生】
個人再生の住宅ローン特則の制度を利用すると、住宅ローンはそのままに他の債務を圧縮できます。詳細は後述します。

4-2 自宅が共同名義の場合の自己破産

自己破産するケースでは、共同名義の場合であっても家がまとめて売却される可能性があります。

ローン完済前の不動産には、住宅ローン債権者の抵当権が設定されています。住宅ローンの契約には、抵当権を実行できる事由がいくつか設定されており、そのうちの一つが破産や個人再生手続きの開始です。そのため、自己破産の手続きを始めた時点で、家を売却するための競売の準備が始まります。

これはペアローン、親子ローンなど、共同名義の住宅の場合も同じです。一般的には、ローン約定上、連帯債務者の破産は、破産者ではない他方の共同名義人(債務者)との関係でも、期限の利益喪失事由に形式的に該当します。
もっとも、事実上は、従来どおり他方の共同名義人(債務者)が約定通り払い続ければ、債権者にも特段の損害はなく、競売申立てまではされない可能性がありえます。
ただ、例えば、他方の共同名義人(債務者)が高齢で無職ということであれば、別の保証人を立てるように求められたり、残ローンの一括返済を求められる可能性があります。
法的に、期限の利益喪失条項に該当することを避けるのであれば、個人再生に切り替えるか、借り換えをして債務者を交代させるしかありません。
破産をする場合の現実的な対処としては、債権者と事前交渉して、破産はするが、他方の共同名義人(債務者)が約定通りローンを支払い続けるので、一括請求を避けてほしいと事前に説明して理解を求めておくことになります。

 

5.住宅ローン特則を利用すれば自宅を残して債務整理できる

個人再生には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)という制度が用意されています。これは、簡単にいうと住宅ローンをそのまま支払い続けることで、自宅を手放さずに済むというものです。自宅に住みながら他の債務を圧縮できるため、経済的メリットが非常に大きいといえます。

一方で、住宅ローン特則では住宅ローンはそのまま残ります。そのため、そもそも住宅ローンが理由で経済状況が悪化しているケースなどではあまり効果がありません。住宅ローンの支払いそのものは問題ないが、そのほかの借金のせいで困窮している場合などに、効果が高いといえます。

なお、個人再生の手続きは、住宅ローンを滞納して債権者の競売手続きが始まっているケースでも利用できることがあります。ただし、この場合、個人再生の申立てには期限があるため、弁護士に相談のうえ手続きが可能か検討しましょう

 


まとめ

債務整理とは、法的手段を利用するなどして借金を整理する方法です。債務整理を行うと個人信用情報機関に記録が掲載されますが、記録の保存期間を過ぎれば住宅ローンの借り入れはできます。

また、住宅ローン返済中でも債務整理は可能です。任意整理または個人再生の手続きを行う場合は住宅ローンを支払いながら住宅を残すこともできるため、状況に応じて適した手段を検討しましょう。しかし、最適な選択肢を検討し手続き・交渉を行うのは、専門的知識がないと難しいのが現実です。

ライズ綜合法律事務所では、債務整理の知識・経験を豊富に備えた弁護士が多数在籍しており、皆様のトラブル解決をサポートしております。「借金が払えなくて苦しい」「家を残して借金を整理したい」このような場合はお気軽にご相談ください。

 

このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。

page top