法律コラム

慰謝料請求

2023/12/12

養育費の相場はどのくらい?金額の決め方とよくある質問に答えます

子供がいる夫婦が離婚する際、取り決めておかなければいけないのが養育費についてです。養育費の金額や支払い条件は離婚前に定めることが一般的ですが、金額が法律で決まっているわけではありません。そのため、養育費の相場がいくらなのか分からない人もいるでしょう。 そこでこの記事では、養育費の一般的な相場と増額できる要件、よくある質問について解説します。
養育費の相場はどのくらい?金額の決め方とよくある質問に答えます

1.養育費とは

養育費とは、簡単にいうと離婚後に発生する子供を育てるのにかかる費用です。子供を監護している親は、監護していない親に対して養育費を請求できます。

養育費には、例えば以下のような費用が含まれています。

  • 子供の生活費
  • 学費など教育費
  • 医療費
  • 交通費
  • 娯楽費やお小遣い

便宜上、養育費を受け取る側の親を「権利者」と呼びますが、厳密にいうと養育費は子供の権利です。養育費の支払い条件や金額は法律で定められていません。そのため「何歳まで払うのか」「金額はいくらか」といった内容は父母の協議によって決定します。

1-1 婚姻費用との違い

養育費と似た言葉として「婚姻費用」があります。養育費との違いは「配偶者の生活費が含まれるかどうか」です。

婚姻費用は、夫婦間の扶養義務を根拠としているため、夫婦のうちどちらかが無職のケースなどは、もう片方が婚姻費用を負担することとなります。婚姻費用には子の生活費だけではなく配偶者の生活費も含まれるため、養育費と比較すると高額になりがちです。

支払いのタイミングも異なります。婚姻費用は夫婦が離婚すると、それ以降支払う必要はなくなりますが、養育費は離婚後に発生する費用です。

 

2.養育費の決め方

養育費の金額や支払い条件は法的に定められていないため、夫婦間の協議によって決定します。その際に何を決めるのかは、夫婦によってさまざまです。しかし、後々揉めないためには、最低限以下の項目は話し合っておきましょう。

  • 養育費の金額
  • いつまで支払うのか
  • 支払いのタイミン
  • 振込先

養育費に関する約束は口頭でも成立しますが、支払いが滞った際にトラブルになる可能性があるため書面に残しておくことをおすすめします。話し合いがまとまらない場合、養育費請求の家事調停を利用しましょう。

相手の支払い能力や誠実さに不安があり、養育費が支払われないのではないかと不安な場合は、「強制執行認諾文言」付きの公正証書にしておくことがおすすめです。公正証書は公証人の立ち会いのもと作成するため、通常の契約書と比べて証拠能力が高く、強制執行認諾文言を付与できます。

これにより、差押えなどの強制執行に必要な「債務名義」となり、支払いが滞った際に訴訟や調停の手続きをしなくても財産を差押え可能です。

 

3.養育費の相場

養育費は法律で金額等は決められていませんが、裁判所が司法研究の一環として公開している「養育費算定表」という目安があります。ここでは、算定表のデータや平均値など、裁判所の公開情報を紹介します。

3-1 養育費算定表から見る相場

養育費算定表は、家庭裁判所の司法研究をもとに作成されたものです。父母の年収と子供の年齢・人数から養育費を簡易的にまとめたもので、多くのケースで養育費算出の参考にされています。この表のデータをもとに、養育費の相場を見てみましょう。

子供を養育していることが多い母子家庭の世帯年収の平均額は373万円です(厚生労働省)。そのため、権利者の年収を母子家庭の世帯年に近い350万円(自営なら256万円)と仮定し、支払義務者の年収(給与所得者)ごとに養育費の金額を紹介します。

参考:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所

3-1-1 年収300万円

支払義務者の年収が300万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 2万円~4万円
子2人(どちらも14歳以下)
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ)
子2人(どちらも15歳以上)
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-2 年収400万円

支払義務者の年収が400万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 2万円~4万円
子2人(どちらも14歳以下) 4万円~6万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ)
子2人(どちらも15歳以上)
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-3 年収500万円

支払義務者の年収が500万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 2万円~4万円
子2人(どちらも14歳以下) 4万円~6万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ) 6万円~8万円
子2人(どちらも15歳以上)
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-4 年収600万円

支払義務者の年収が600万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 4万円~6万円
子2人(どちらも14歳以下) 6万円~8万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ)
子2人(どちらも15歳以上) 8万円~10万円
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-5 年収800万円

支払義務者の年収が800万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 6万円~8万円
子2人(どちらも14歳以下) 10万円~12万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ)
子2人(どちらも15歳以上)
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上) 12万円~14万円
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-6 年収1,000万円

支払義務者の年収が1,000万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 8万円~10万円
子2人(どちらも14歳以下) 12万円~14万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ) 14万円~16万円
子2人(どちらも15歳以上)
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上) 16万円~18万円
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-7 年収1,500万円

支払義務者の年収が1,500万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 14万円~16万円
子2人(どちらも14歳以下) 20万円~22万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ) 22万円~24万円
子2人(どちらも15歳以上) 24万円~26万円
子3人(全員14歳以下)
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上) 26万円~28万円

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-1-8 年収2,000万円

支払義務者の年収が2,000万円の場合、子供の人数別の月額養育費は次の通りです。

【月額養育費の目安】

月額養育費
子1人(14歳以下) 20万円~22万円
子2人(どちらも14歳以下) 28万円~30万円
子2人(15歳以上と14歳以下1人ずつ) 30万円~32万円
子2人(どちらも15歳以上) 32万円~34万円
子3人(全員14歳以下) 34万円~36万円
子3人(1人のみ15歳以上)
子3人(うち2人が15歳以上)

※権利者の収入を350万円(自営業者の場合256万円)と想定

3-2 ひとり親がもらっている養育費の平均額

厚生労働省の統計資料に、子供の数ごとの養育費の平均金額があります。令和3年の平均値は以下の通りです。

【子供の人数別養育費の平均額(1世帯あたり、月額)】

母子世帯 父子世帯
1人 4万468円 2万2,857円
2人 5万7,954円 2万8,777円
3人 8万7,300円 3万7,161円
4人 7万503円 (該当データなし)
5人 5万4,191円 (該当データなし)

参考:17 養育費の状況-令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告|厚生労働省

 

4.養育費が相場よりも高くなるときの要素

養育費は、前述の算定表の数値に近い金額となることが多いのですが、場合によっては相場より高くなる、増額請求ができるといったこともあります。では、どのようなときに相場より高くなるのか、詳しくみてみましょう。

4-1 子どもを監護する親の収入が低くなる

子供を監護する親の収入が低い場合や、金額を取り決めた当初の金額より下がった場合には養育費の金額が高くなることがあります。

例えば、子供を監護している親がケガや病気で働けなくなったり、勤め先が倒産して無収入になったときなどが代表的です。このように、収入が減少し、子供の生活費が不足すると、追加で請求できる可能性があります。

4-2 監護をしない親の収入が上がる

子供を監護していない親の収入が上がると、養育費増額の要因となることがあります。子供の養育費の決定には父母の収入が大きな要因となっており、収入が大きく増加した場合などは、その分の養育費の増額を求められる可能性があります。

4-3 子どもが病気になる

子供が大きな病気にかかったケースなども、養育費増加の要件です。

子供が病気にかかると、通院や入院により医療費が増加します。看護をしていない親にもその分を負担するよう求めることができるため、養育費として請求可能です。また、監護している親が看病で働けず収入が減少すると、子供の生活費が足りなくなります。この点も、養育費の増額を求める根拠となります。

4-4 子どもが高校や大学に進学する

子供の進学により教育費がかかったときも、その分養育費を増額できる可能性があります。例えば、子供が大学に進学しその分の学費が発生すると、養育費という形で監護していない親に負担を求めることが可能です。

前述の算定表でも子供が15歳になったタイミングで養育費が増加しています。なお、請求できるのは授業料だけでなく、教材費や進学先の寮費なども対象です。

 

5.養育費に関するよくある疑問

養育費に関してのよくある疑問を紹介します。

5-1 一括払いは可能?

養育費の受け取り方に決まったルールはないため、父母両者の同意があれば一括で受け取ることも可能です。

養育費の支払いは10年以上の長期に渡ることも多く、支払義務者に環境の変化があると、途中で途絶えてしまうこともあります。こうしたときに備えて、あらかじめ全額または1年単位など一定期間分を受け取ることで、確実な養育費の確保が可能です。

ただし、まとまった養育費を受け取るとなると金額も相応に大きくなります。支払義務者の経済状況によっては受け取りが難しいかもしれません。

5-2 監護親のほうが収入が高いときの養育費は?

子供を育てている監護親のほうが収入が高い場合でも、養育費は受け取れます。子供を養育することは父母双方の義務であり、収入が監護親より少なくともその点は変わりません。ただし、算定表をみても分かるように、養育費の金額は両者の収入に大きく依存します。監護親のほうが収入が高いと、相場より高い養育費を請求することは難しいでしょう。

5-3 養育費は途中で増額できる?

養育費の支払い条件は父母の間で決められるため、双方の同意があれば途中で受け取る金額を増額できることもあります。自分や子供の状況が変化し、子育てにかかる費用が増えたときは増額を打診することも選択肢の一つです。

ただし、協議で金額を変更できるのは増額するケースだけではありません。支払義務者の収入の減少により、減額を求められることもあります。

 

6.養育費の相場は状況によって異なる!弁護士に相談を

養育費は父母の収入や子供の人数、年齢などによって決まるため、ケースごとに金額は異なります。通常は紹介した養育費の算定表に近い金額に収まることが多いのですが、この金額は法律で決まっているわけではありません。そのため、当事者間で協議した結果、相場よりも高い、もしくは低い養育費になるケースもあります。

子供が病気にかかっている場合や学費が多くかかる場合は増額されることもあるため、支出の金額を整理し、現実的な金額を算出してみてください。

ただし、適正な金額を当事者間だけで明確にするのは難しく、十分な養育費を確保できない可能性があります。そのため、弁護士に相談したうえで金額を決めることがおすすめです。

ライズ綜合法律事務所は、夫婦や家庭の法律問題に精通したプロフェッショナルが多数在籍しています。自分の場合はどの程度の養育費になるのか知りたい方は、お気軽にご相談ください。

 


このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。

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