この記事では、親権を決める際のトラブルや注意点を紹介します。
・親権とはどのような権利なのか
・どうすれば親権者になれるのか
・親権者を決める方法
・離婚後に親権者を変更する方法
・父親や専業主婦が親権者になる条件
離婚の際の親権に関する疑問や、解決方法が分かる内容ですので参考にしてください。
1.親権とは
まず、親権とはどのような権利なのか簡単に説明します。
親権は、子どもが18歳になるまで親が負うべき責任や義務の総称です。民法の規定により、婚姻中の親権の行使は両親が共同して行いますが、離婚後は夫婦どちらかを親権者として定める必要があります。
親権は「身上監護権」「財産管理権」の2つの権利(義務)で構成されています。
1-1身上監護権
身上監護権は、未成年の子どもの健全な成長のために親が負う権利(義務)のことです。子どもを手元で保護し育てるために必要な権利で、以下の4つの要素に分類できます。
権利の種類 | 詳細な内容 | 根拠となる法 |
---|---|---|
監護および教育の権利義務 | 親権者は、子の利益のため監護および教育をする権利を持ち義務を負う。 | 民法第八百二十条 |
子の人格の尊重など | 監護・教育をするに当たり子の人格を尊重しなければならず、年齢と発達の程度に配慮しなければならない。また体罰や子の心身の発達に有害な言動をしてはならない。 | 民法第八百二十一条 |
居所の指定 | 子は、親権者が指定した場所に居所を定めなければならない。 | 民法第八百二十二条 |
職業の許可 | 子は、親権者の許可がなければ職業を営むことができない。 | 民法第八百二十三条 |
1-2 財産管理権
財産管理権は、未成年の子どもに代わって親が財産を管理する権利(義務)のことです。主に以下の内容が該当します。
- 子どもが受け取ったお年玉や贈与を受けた財産の管理
- 子どもが借りたお金など未成年が単独でした契約の取り消し
1-3 親権と監護権は分ける場合もある
一般的には、親権はどちらかの親が包括的に持ちますが、身上監護権のみ独立した監護権者を設定できます。監護権者に定められた方の親が、子どもと一緒に居住し養育を行います。
ただし離婚届には監護権者の記入欄はありません。口約束では後にトラブルに発展する可能性があるため、離婚協議書を作成し証拠が残る形で定めておくことが望ましいでしょう。
2.親権者になるための条件
話し合いで親権者を決める場合、条件は特になく、夫婦間で合意さえできれば問題ありません。
話し合いがまとまらず、調停や裁判で親権者を定める場合は、どちらがふさわしいか選ぶための一定の基準があります。
2-1 子どもへの愛情や結びつき
子どもを健全に育てるために、子どもへの愛情や結びつきの強さが評価されます。愛情そのものは目に見えないため、基準となるのは婚姻期間中の子どもに対する接し方です。具体的には、以下が判断材料として考慮されます。
- 子育てに関わってきた実績
- 子どもと過ごした時間の長さ
- 家事や学校行事、保育園の送迎などに参加していたか
2-2 子どもの年齢や意思
子どもの意思が親権者の決定にどの程度反映されるかは、年齢が大きく関係します。具体的には、子どもが満15歳以上の場合、家庭裁判所が親権者を決定する際に子どもの意思を確認しなければなりません。
一方、乳幼児や未就学児については「母性優先の原則」があり、母親が親権者となるケースが多いです。ただし、自動的に母親が指定されるのではなく、子どもの世話にどの程度参加していたかなど、さまざまな要素を考慮し総合的に判断されます。
子どもが2人以上いる場合、「兄弟(姉妹)不分離の原則」により、2人とも同じ親権者が指定されることが一般的です。
2-3 親権者の心身の健康状態
心身の健康状態も重要な要素です。例えば重篤な病気を抱え入退院を繰り返していたり、精神疾患を患っていたりすると、子の養育に耐えきれず親権者にふさわしくないと判断されることがあります。
「持病がある=親権者になれない」わけではありませんが、子どもの世話ができる程度には健康状態が良好であることが求められます。
2-4 住宅や学校などの生活環境
子どもを安定的に養育するために、周囲からの援助や居住エリア、子どもの人間関係などは極力変化がないことが望ましいとされます。
また、親権者を選ぶ基準には、子どもと過ごせる時間の長さも考慮されます。仕事などで一緒にいられる時間が短い場合、近所に子育てをサポートしてくれる祖父母などがいるかも重要なポイントです。
2-5 離婚後の経済能力
子どもが生活するための十分な経済力を備えているかも確認されます。ただし、必ずしも配偶者より収入が低いと不利というわけではありません。経済面に不安がない方が好ましくはありますが、親権者でない親から養育費を受け取れるためです。
借金を繰り返す・ギャンブルにお金をつぎ込む・浪費するといった金銭面の悪癖がある場合、親権者にふさわしくないと判断されることがあります。
3.離婚時に親権者を決める方法
離婚時に親権者を決める方法はいくつかあります。夫婦間での話し合いが最優先されるため、いきなり訴訟に持ち込むことはできません。具体的には、以下の順に話し合いや手続きが進むことになります。
【親権者を決める方法・手続】
- 夫婦での話し合い
- 離婚調停
- 審判・訴訟による裁判所の判断
それぞれ詳細を見てみましょう。
3-1 夫婦での話し合い
親権者を決める場合は、上述の通り原則的には夫婦間の話し合いが最優先されるため、まずは当事者間の協議から始めます。というのも、関連法規に次のようなルールが定められているためです。
- 夫婦が協議上の離婚をする時はその一方を親権者と定めなければならない(民法八百十九条)
- 離婚届には子どもの親権者を記載しなければならない(戸籍法七十六条一号)
離婚届には、未成年の子の親権者を記載する欄があり、空欄だと受理してもらえません。しっかりと夫婦で話し合い、子どもの幸せを考えて合意の上で親権者を決められないか検討してみましょう。
参考:民法第八百十九条|e-Gov法令検索
参考:戸籍法第七十六条|e-Gov法令検索
3-2 離婚調停
話し合いで親権者が決まらなければ、次は離婚調停で決めることになります。離婚調停の申し立てから終了までの流れは次の通りです。
3-2-1 ①必要書類・費用を用意する
離婚調停の申立に必要な書類と費用は以下の通りです。
【申立に必要な書類】
- 申立書およびその写し(1通)
- 標準的な申立添付書類(夫婦の戸籍謄本や年金分割の情報通知書など)
【必要な費用】
- 収入印紙代(1,200円)
- 郵便切手代(申立先の家庭裁判所によって異なる)
- 戸籍謄本など添付書類の取得費用
3-2-2 ②家庭裁判所に離婚調停を申し立てる
費用と必要書類を用意したら、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。郵送で申し立てることもできますが、自分で手続きする場合は窓口に持参することをおすすめします。内容に不備があっても窓口で訂正の仕方を教えてもらえるためです。
離婚調停を申し立てる家庭裁判所は、相手の所在地の管轄家庭裁判所、または夫婦で定めた場所です。
調停は家庭裁判所の調停室で行われます。担当となるのは、男女2人で構成される調停委員です。夫婦が顔を合わせないよう、交互に調停員と話をしていく方法が採用されています。
調停を実施する期間は特に定められていませんが、2022年の司法統計によると、離婚調停のうち約8割が、終了までに3ヶ月から1年の期間をかけて行われています。
3-2-3 ③家庭裁判所の調査官による調査が行われる
親権について争う場合、心理学や教育学など専門知識のある家庭裁判所の調査官が、調査を行うことがあります。
【家庭裁判所調査官による調査の内容】
子どもとの面談 | 父母同席のもと、生活状況や両親への気持ちを聞き取る。 子どもが一定以上の年齢なら調査官と子どもが一対一で行う。 |
---|---|
家庭訪問 | 普段生活している家に家庭訪問を行い、子どもの生活状況を確認する。 |
保育園や小学校などの調査 | 子どもの担任教師や保育士に普段の様子などを聞き取る。 |
面談や家庭訪問は複数回にわたり行われることもあります。
3-3 家庭裁判所の判断
調停でも話し合いがまとまらない場合、離婚訴訟や審判を経て裁判所が親権者を決定することになります。
調停が不成立に終わった場合、一般的には訴訟に移行しますが、まれに家庭裁判所が審判によって親権者を指定することがあります。審判の結果に納得できなければ、家庭裁判所に対して異議申立てが可能です。異議申立てを却下する審判が出た場合には、さらに、高等裁判所に対して、即時抗告が可能です。即時抗告がされると、管轄は高等裁判所に移管され、最終判断を仰ぐことになります。
参考:離婚|裁判所
4.離婚後に親権者を変更する場合の手続き
親権者を離婚後に変更することも可能ですが、離婚時とは違い話し合いでの変更はできません。
家庭裁判所の調停と審判の手続きで変更は可能ですが、認められるケースは稀です。ここでは、具体的な親権者変更の手続きを紹介します。
4-1 家庭裁判所に親権者変更調停を申し立てる
まず、親権者変更調停の手続きをします。申立先は、相手の所在地の家庭裁判所か、夫婦で定めた場所の管轄家庭裁判所です。
申立に必要な書類と費用は以下の通りです。
【申立に必要な書類】
- 親権者変更調停申立書
- 標準的な添付書類(申立人と相手方、子の戸籍謄本など)
【必要な費用】
- 収入印紙(1,200円)
- 郵便切手代(申立先の家庭裁判所により異なる)
- 戸籍謄本など添付書類の取得費用
調停が成立した場合、新たな親権者になった人は10日以内に市区町村役場へ親権変更の届出を行います。その際、父母の戸籍謄本が必要です。
参考:親権者変更調停|裁判所
4-2 不成立の場合は親権者変更審判に移行する
調停不成立の場合、自動的に「親権者変更審判」に移行し、裁判官がさまざまな要素を考慮し最終的な判断を下します。
【親権者変更審判の判断材料】
- 親権者を変更する理由
- 養育状況や経済状況
- 子どもの年齢や性別・就学状況
- 子ども本人の意向
審判の結果が出たら、新たな親権者は10日以内に市町村役場に親権変更の届出を行います。
4-3 親権者決定後に親権の停止・喪失を求めることができる
親権者の決定後に、親権の停止や喪失を求めることも可能です。親権者による親権の行使が不適当だと考えられ、子どもの利益が害された時のための制度です。こちらも、家庭裁判所での手続きが必要となります。
親権の効力を失わせる手続きは3通りあります。
制度の種類 | 詳細な内容 | 根拠となる法 |
---|---|---|
親権停止 | 親権の行使を最長2年間できないようにする。 | 民法第八百三十四条の二 |
親権喪失 | 親権を親権者から喪失させる。 | 民法第八百三十四条 |
親権放棄 | やむを得ない事情がある場合に親権を放棄し親権者を辞任する。 | 民法第八百三十七条 |
参考:家庭裁判所における子供に関する手続|裁判所
参考:民法|e-Gov法令検索
5.離婚の際の親権に関するよくある質問/対処法
離婚の際の親権に関する、よくある質問と対処法を紹介します。
5-1 父親も親権者になれますか?
【回答】
父親でも親権者にはなれますが、令和4年度の統計では母親が親権を獲得するケースが9割を越えています。
【対処】
親権者の決定に当たっては、子育てにどのぐらい参加していたかが重視されます。
- 離婚前から育児を積極的に行う
- 祖父母その他家族の協力を得て養育体制を整える
- 母親の子育てに問題があることを証明する
など、親権獲得にあたって有利な条件を整えておくことが大切です。
参考:令和4年司法統計年報3家事編第23表|最高裁判所事務総局
5-2 専業主婦なのですが親権者になれますか?
【回答】
離婚後は、親権者でない親から養育費を受け取れるため、専業主婦でも親権を獲得できます。経済状況が整っているとより有利になるため、無職で離婚する場合は早めに仕事を探しておきましょう。
【対処】
専業主婦で親権者になりたいのであれば、以下のように子どもの生活基盤を整えておくことが大切です。
- 日頃から育児に積極的に取り組む
- 就業の準備をしておく
- 子育てをサポートしてもらえるよう祖父母などに相談しておく
- 離婚後の住環境を整える
- 養育費についての取り決めをしっかりとしておく
- ひとり親向けの助成制度や扶助制度を利用する
5-3 母親が親権を獲得できない場合があると聞きました。具体的なケースを教えてください。
【回答】
以下のようなケースは、母親であっても親権を獲得できないことがあります。
- 子どもと別居している
- 日常的な虐待やハラスメントを行っていた
- 心身の健康状態に不安があり育児が困難である
- 経済状況が著しく不安定
- 父親の方が育児をしており子が父親との生活を希望している
【対処】
前述の専業主婦のケースと同じく、子どものための生活基盤をしっかりと整えておくことが大切です。
5-4 不倫をしていたのですが親権者になれますか?
【回答】
離婚の原因と親権者にふさわしいかどうかは別問題のため、不倫をしていても親権者になれるケースはあります。ただし配偶者への暴力やハラスメントがあった場合や、子どもより不倫相手を優先していた場合は、親権者として不適格と判断される可能性があります。
【対処】
子どもに愛情を注ぎ、積極的に育児に参加した実績を作っておきましょう。
5-5 配偶者が離婚前に子どもを連れて実家に帰ってしまいました。どうすればいいのでしょうか?
【回答】
速やかに弁護士に相談し「子の引き渡し調停」を申し立てます。
【対処】
子どもを連れて行ったことが親権者の決定において不利になるかどうかは、連れて行ったタイミングによって異なります。
別居の際:不利になりにくい。
別居後:不利になりやすい。
別居後に相手方配偶者の下で生活中の子どもを連れて行くことについては、連れ去りの態様があまりにも悪質な場合には、未成年略取罪に当たるケースがあります。
参考:子の引渡し調停|裁判所
参考:刑法|e-Gov法令検索
5-6 親権者ではないのですが子どもと一緒に住むことは可能でしょうか?
【回答】
親権者でない場合でも、監護権者を独立して定めれば子どもと一緒に住むことは可能です。
【対処】
親権者を決定する際に、親権者と監護権者を分けて決めておきます。話し合いで合意できない場合は家庭裁判所に調停を申し立てることも可能です。
5-7 妻が親権者で子どもを引き取ったのですが子どもと会えますか?
【回答】
子どもを監護していない親には面会交流権があるため、定期的に子どもと会ったり、電話などで交流を持つことができます。
子どもに対する暴力や連れ去りなどの可能性がある場合を除き、親権者の独断であらかじめ定められた面会交流を拒否することはできません。
【対処】
面会交流の頻度など条件がまとまらない時は、面会交流調停を家庭裁判所に申し立てることができます。
参考:面会交流調停|裁判所
5-8 子どもの戸籍はどうなりますか?
【回答】
親権者になっても、自動的に子どもの姓と戸籍は変更されません。変更の際は以下の手続きが必要です。
【対処】
手続きの流れは以下の通りです。
- 親権者が筆頭者の新たな戸籍を作る
- 家庭裁判所に「子の氏の変更許可手続き」を申し立てる
- 市町村役場で子どもの戸籍を自分の戸籍に移す
「子の氏の変更許可手続き」は、父母の苗字が異なる場合に、子どもが名乗る苗字を変える時に必要です。一度変更した後に名字を元の名字に戻したい時も、再度同様の手続きが必要となります。
参考:子の氏の変更許可|裁判所
5-9 離婚後に親権者が亡くなった場合の親権はどうなるのでしょうか?
【回答】
親権者が死亡した場合でも、もう片方の親に自動的に親権が移行するわけではありません。親権者を変更したい場合、次の手続きが必要です。
【対処】
生存しているもう一方の親が、家庭裁判所に「親権者変更」の審判を申し立て、許可を得ます。親権者になれる人がいない場合、親権者に代わる未成年後見人を選任することも可能です。
6.親権を得るためにはさまざまな条件をクリアする必要がある!
未成年の子どもがいる夫婦の場合、親権者を定めなければ離婚ができません。親権者をどちらにするか話し合いで決まらない場合、トラブルに発展するケースも多いです。親権を譲りたくないという気持ちがあるなら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
ライズ綜合法律事務所は、相談実績20万件以上を誇る民事専門の法律事務所です。離婚要因の一つである不倫問題の専門チームがあり、不倫に対する慰謝料請求に力を入れております。
夫婦カウンセラーの有資格者も多く在籍しており、適正価格での慰謝料請求をサポートしております。配偶者の不倫でお困りの人は、ぜひお気軽にご相談ください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。