1.アパートなどの賃貸物件は立ち退きを要求されることがある
アパートなどの賃貸物件に居住していると、物件の大家から立ち退きを求められることがあります。特に、築年数が長期間経過した物件に居住しているケースでみられます。
実は、大家だからといって無条件に立ち退きを要求することはできません。物件の借主は賃貸借契約によって保護されており、入居者の立ち退きに関してはさまざまな法的制限があります。
しかし、入居者のなかには法的知識が十分ではなく、必要な補償を得られないまま話を進められてしまうこともあります。立ち退きの要求に際しては、弁護士に相談のうえ法的知識を確認し、相手の提示する条件が妥当かどうか検討する必要があります。
2.アパートの立ち退きには正当事由が必要
アパートに居住する権利は、入居時に締結した賃貸借契約で守られています。そのため大家側から立ち退きを求めるには、やむを得ないと認められる「正当事由」が必要です。
では、どういった理由が正当事由に該当するのでしょうか。
2-1 契約期間の満了
契約期間の満了は、立ち退きを求められるきっかけの一つです。
ただし、契約期間の満了による賃貸借契約の終了ができるかどうかは「普通借家契約」「定期借家契約」のどちらで契約しているかによって異なります。
契約種別 | 契約更新の拒絶 |
普通借家契約 | 別途正当事由が必要 |
定期借家契約 | 期間満了で無条件解除できる (更新を前提としていない) |
一般的な賃貸住宅の契約では、更新が前提の普通借家契約で契約していることが多いでしょう。この場合、更新の際も借主の権利は保護されており、更新を拒絶する場合は別途正当事由が必要です。「期間満了だから」といって無条件に立ち退きを求めることはできません。
参考:借地借家法第二十八条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
一方の定期借家契約では、契約する時点で契約期間が決まっているため、期間の満了にともない契約を終了させ、退去を求めることができます。
2-2 建物の老朽化等で住み続けるのは危険なとき
建物の老朽化などが原因で、居住の継続に危険をともなう場合も、立ち退きを求める正当事由として認められます。
ただし、ただ建物が古くなってきただけでは正当事由として認められません。「建物の損傷や浸水で居住を続けることが難しい」「耐震性能が大きく劣化し居住の継続に危険をともなう」といった危険性が高い状態であることが必要です。
また、災害によって建物が損壊・滅失して使えなくなった場合は、賃貸借契約の終了事由に該当しえます。
2-3 大家が該当物件に住む必要がある
大家や、大家の家族が賃借中の物件を住居として利用しなければならないときも、正当事由として認められることがあります。
ただしこちらは無条件に認められるわけではなく、ただ「引っ越し先が必要」というだけでは正当事由に該当しません。ほかに住むところが見つからない、その物件でなければならないといった理由が必要です。以下のようなケースが代表的です。
【正当事由として認められやすい事情】
- 通院している病院が近くにある
- 子供の学区を変更したくない
- 介護が必要な両親の家に近い
- 経済的余裕がなく賃貸住宅を契約できない
以上のような事情があれば、正当事由に該当する可能性はあります。
2-4 入居者に問題がある
入居者自身に問題があり、賃貸を続けることが難しい場合も、立ち退きを要求できる正当事由となります。例えば、次のような行為があると退去の要求が認められやすいです。
【立ち退き要求の根拠となる問題行為】
- 該当の物件を無許可で第三者に又貸ししている
- 家賃を長期間にわたり滞納している
- 大家やほかの入居者への重大な迷惑行為がある
- 物件を犯罪に利用している
- その他重大な契約違反がみとめられる
ただし、法的には賃貸借契約は借主と貸主の信頼関係のうえに成り立つものと解釈されます。「信頼関係を破壊した」とまではいえない軽微な問題行為では、立ち退きを認められない可能性が高いでしょう。
例えば、騒音による苦情がでている、ゴミ捨てマナーが悪いといった程度では正当事由に該当しないケースがほとんどです。
2-5 立ち退き料が支払われる
立ち退き料を支払うことで、入居者の損害を十分に補償するのであれば、正当事由に該当するとして退去の要求は認められます。前述したようなやむを得ない理由があるわけではないが、オーナー側の都合で退去してもらわなければならないケースでは、立ち退き料を支払って解決することが一般的です。
というのも、賃貸借契約では、次のような事情で入居者に出て行ってもらわなければならないことがしばしば起こるためです。
【賃貸経営でよくある例】
- 建物を建て替えなければならない
- 土地を更地にして売却したい
- 子供や親に物件を使わせたい
- 賃貸経営の赤字が膨らんでおり廃業したい
裏を返せば、こうした大家都合での退去要求に対しては、立ち退き料を払って損害を補償するよう求めることができます。
3.アパート立ち退きの通知が来たときの流れ
アパートの立ち退きについて連絡が来た場合、今後どのような流れになるのでしょうか。詳しく紹介します。
3-1 弁護士に相談する
まずは、アパートの立ち退きに詳しい弁護士に相談してみましょう。というのも「相手方からの要求が正当か」「立ち退き料が適正な金額で提示されているか」などは、法的知識がなければ判断できないためです。
仮に電話や訪問などで直接コンタクトがあった場合も「こちらから再度連絡する」といったん保留にし、弁護士に相談してみてください。
また、以下の行動は今後の交渉で不利になる可能性があるため、自己判断で行わないようにしましょう。
先に引越し先を決める | 立ち退き料を受け取れなくなる可能性がある。 |
立ち退きの同意書に署名する | 賃借人に不利な条件が定められていることも。 立ち退き料がもらえなくなる可能性が高い。 |
行動を起こすことで状況が悪化することもあるため、立ち退き料の金額が提示される前に弁護士に相談できると理想的です。
「とりあえず署名だけもらえれば悪いようにしない」とサインするよう促されることもありますが「弁護士に相談する」とだけ伝えて状況を変化させないようにしましょう。
3-2 立ち退き料を検討する
立ち退きの要求が届いたら、弁護士と相談しつつ妥当な立ち退き料の金額を検討しましょう。
アパートの立ち退き料には明確な相場や法律による基準は存在せず、法的には支払い義務もありません。そのため、支払っている家賃や立ち退きまでの期間などを考慮し、当事者間の交渉によって金額を決定します。
判例上、アパートの立ち退き料の決定には、以下の要素が考慮されやすいです。
- 引越しにかかる費用
- 引越し先の確保に必要な初期費用(仲介手数料や敷金など)
- インターネット契約や電話回線の開通にかかる費用
- 子供の転校や引越しのストレスなどに対する迷惑料
まずは、引越しや新たな住居の手配にかかる費用を概算し、弁護士と相談して請求額を検討してみましょう。
3-3 交渉
要求したい内容がまとまったら、大家と立ち退きに関する条件の交渉を行います。このとき、弁護士が代理人として代わって交渉いたします。
なぜなら、大家側はできる限り立ち退き料を払いたくないと考えていることが一般的で、入居者に対して不利な条件を提示してくることも多いためです。この際、弁護士のサポートが不可欠でしょう。
また弁護士に相談することで、立ち退き料以外の条件についても有利に交渉をすすめられます。退去までの期間に十分な余裕を持たせるなど、生活への影響を最小限にできる可能性が高くなります。
3-4 調停や裁判
話し合いで解決できないケースでは、調停や裁判によって解決しなければならないこともあります。この場合、入居者側から手続きすることは難しいため、大家から調停や裁判を起こされることを待つ必要があります。
4.アパートの立ち退き要求に応じるときに気をつけること
大家側の事情をくんで立ち退きに応じる際も、条件面でいくつか注意しなければならないことがあります。
4-1 敷金について確認する
入居時に預けている敷金について「返還されるのか」「いくら戻ってくるのか」を確認しておきましょう。
というのも、大家側の要求に応じて退去する場合、建物の取り壊しを控えていて部屋の原状回復が不要なことがあるためです。この場合、敷金は満額返還されることもあります。
一方で、物件が賃貸物件として利用され続けるときは、通常どおり原状回復のために精算が行われます。
トラブル防止のため、退去に際して原状回復は必要なのか、敷金がどの程度返還されるのかは必ず確認しましょう。
4-2 契約内容をよく確認する
立ち退きの際に署名する契約書の内容は、しっかりと読み込んでください。話し合いで合意した条項が反映されているか、署名する前に確認しておきましょう。
例えば、立ち退き料の金額や敷金の返還などの支払い条件や、退去日の日付、荷物の撤去についてなどです。
とくに、退去日には注意してください。期限を超えて居座ってしまうと、立ち退き料を受け取れなくなる場合もあります。
5.アパートの立ち退きに関する注意点
アパートの立ち退きについて、注意が必要なポイントを紹介します。知らなければ立ち退き料を請求できなくなることもあるため、参考にしてください。
5-1 アパートの立ち退きは拒否できる
アパートの立ち退きは拒否することもできます。補償が不十分だと感じるのであれば、立ち退きを拒み、新たな条件の提示や立ち退き期間の延長を希望することも可能です。
ただし、相場を大幅に逸脱した立ち退き料を要求するなどの対応をすると、相手方が訴訟に持ち込む可能性もあります。現実的な範囲で条件を検討しましょう。
5-2 築40年以上の物件でも立ち退き料が発生する可能性はある
先ほど少し紹介したように、建物の老朽化は立ち退きを求められる正当事由の一つです。
ただし、ただ建物が古い場合や、建て直しを行うという理由だけでは、正当事由とは認められません。築40年を超える物件であっても、住居として問題なく使用できるのであれば、取り壊しを理由に退去を求めることはできません。
この場合は立ち退き料を請求できる可能性があるため、弁護士と相談してみましょう。
5-3 アパートの立ち退きには交渉が必要
アパートの立ち退きを求められると「そういうものか」と納得してしまいそうですが、条件次第では交渉が必要です。ときには立ち退き料を一切払ってもらえずに退去を要求されることもありますので、言われるがままに手続きをするのは危険です。
アパートの立ち退きは、転居先探しや引越しの手配をともなうため、精神的・経済的負担は決して小さくありません。きちんと補償を受けるためにも交渉が必要です。
5-4 立ち退きを求めて訴訟を起こされることがある
立ち退き料や各種条件に関して話し合いがまとまらない場合、大家側が調停や訴訟を申し立てるケースがあります。
訴訟に発展すると、解決までの期間が伸びて精神的負担も大きくなるため、ある程度は大家側の要望を受け入れることも大切です。
ただし、立ち退き料ゼロ円で条件を提示され「受け入れてくれなければ訴訟にするしかない」と告げてくる場合、訴訟を交渉のカードとして利用している可能性もあります。こうしたケースも一人で判断するのは難しいため、交渉に慣れている弁護士に相談のうえ、方針を決定しましょう。
まとめ
アパートを立ち退くときは弁護士に依頼をしてください
アパートの立ち退きの連絡がくると、入居者側は非常に多くのことを確認しなければなりません。
- 立ち退き料はいくら請求するのか
- いつまでに退去しなければいけないのか
- 敷金は返還されるのか
- 引越し先の選定や引越し業者の手配はいつやるか
これらを全て自分だけで決めるのは負担が大きいです。そのため、より楽に、かつ有利な形で解決できるよう、弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。弁護士を選定する際は、立ち退き交渉の経験がどの程度あるかを重視してみてください。
弁護士法人ライズ綜合法律事務所は、立ち退き交渉の知識・経験を備えた弁護士が多数在籍しており、相談者様の問題解決をお手伝いしています。
「突然立ち退きの要求が来て困っている」「提示額が少なすぎるのに立ち退き料の増額に応じてくれない」など、お困りのことがあれば当事務所にご連絡ください。状況とご希望を伺い、最適な解決方法をご提案します。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。