立ち退き交渉・建物明渡請求
2026/09/16
立ち退き交渉を不動産業者が行うのは非弁行為?依頼するメリットや注意点は?

建物の建て替えや収益改善を進める中で、入居者に立ち退きをお願いしたいと考える貸主は少なくありません。しかし、いざ交渉を始めようとすると「不動産業者に任せられるのか」と悩む場面もあるでしょう。日頃から管理を依頼している業者であれば、そのまま交渉も任せたいと感じる方も多いはずです。
一方で、立ち退き交渉は借主の生活に大きく関わるため、慎重な対応が求められます。思うように話が進まないと、不安や負担が大きくなりやすいのも実情です。
本記事では、不動産業者が立ち退き交渉を行えるのかという疑問に対し、法的なルールや注意点を整理します。併せて、実務での適切な進め方や相談先についても解説します。読み進めることで、ご自身で対応すべき範囲と専門家に依頼すべき場面が整理できるでしょう。
【この記事で分かること】
- 不動産業者が立ち退き交渉を代行できない理由と非弁行為に該当する判断基準
- 不動産業者に依頼できる業務の範囲と違法リスクを避けるための注意点
- 立ち退き交渉の進め方や弁護士に依頼するメリットと適切な役割分担
不動産業者が立ち退き交渉をすることはできない
立ち退き交渉を進めるに当たり、不動産業者に代行を依頼したいと考える方も多いでしょう。しかし、不動産業者が貸主の代理として借主と交渉を行うことはできません。
その理由は、弁護士法72条により、弁護士または弁護士法人でない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことが禁止されているためです。立ち退き交渉は、契約の終了や金銭条件の調整といった法的な権利義務に関わるため、法律事務に該当すると考えられています。
この規制は、専門知識を持たない者が交渉を行うことで、当事者に不利益が生じるのを防ぐ目的があります。例えば、不適切な条件で合意してしまうと、後からトラブルになる恐れがあります。
管理会社であれば対応できるのではないかと考えるケースもありますが、交渉や代理行為に踏み込むと非弁行為となる点に注意が必要です。適切な対応を行うためには、業務の範囲を正しく理解しておく必要があります。
非弁行為に該当すると刑事罰が科される
非弁行為に該当した場合、弁護士法第77条により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科される可能性があります。これは単なるルール違反ではなく、刑事責任が問われる行為です。
また不適切な方法で行われた交渉は、合意内容が無効と判断される恐れもあります。その結果、問題が解決しないばかりか、かえって紛争が長期化するケースも考えられます。
さらに、非弁行為を行った不動産業者は社会的信用を失う可能性があります。貸主にとってもリスクが大きいため、適法な手続きで進めることが重要です。
そもそも非弁行為とは
非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを指します。弁護士法72条では、このような行為を原則として禁止しています。
この規定は、専門性の高い法律業務を適切に管理し、当事者の利益を守るために設けられています。ここでは、具体的な判断基準について詳しく解説します。
弁護士または弁護士法人かどうか
法律事務を取り扱えるのは、弁護士または弁護士法人に限られています。弁護士は司法試験に合格し、司法修習を経て弁護士会に登録することで資格を取得します。
このような厳格な要件が設けられているのは、高度な専門知識と倫理観を担保するためです。不十分な知識で交渉を行うと、依頼者に不利益が生じる恐れがあります。
例えば、法的に不利な条件で合意してしまったり、不要なトラブルを招いたりする可能性があります。こうしたリスクを防ぐため、法律事務は弁護士に限定されています。
「法律事件」「法律事務」かどうか
非弁行為に該当するかどうかは、その業務が「法律事件」および「法律事務」に当たるかで判断されます。法律事件とは、権利義務に関する争いや疑義があり、新たな法的関係を生じさせる案件を指すと解されています。
立ち退き交渉は、契約の終了や金銭条件の調整を伴うため、法的紛争性を有するケースが多く見られます。そのため、訴訟に発展していない段階であっても法律事件に該当する可能性があります。
また法律事務とは、法律上の効果を発生または変更する行為を指します。具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 更新拒絶や解約通知の作成
- 催告書の作成
- 立ち退き条件の交渉
- 合意書の作成
これらは全て、権利義務に直接影響を与える行為です。そのため、弁護士以外が関与すると非弁行為と判断される可能性があります。
鑑定とは
鑑定とは、法律の専門家としての見解や判断を示す行為を指します。例えば、立ち退きの可否や条件について法的な意見を述べることが該当します。
誤った判断を示した場合、依頼者に大きな不利益が生じる恐れがあります。そのため、専門資格を持つ弁護士のみが行える業務とされています。
代理とは
代理とは、依頼者に代わって交渉や手続きを行うことを指します。立ち退き交渉では、借主と直接やり取りを行い、条件の調整を進める行為が該当します。
このような代理行為は法律事務に当たるため、弁護士以外が行うと非弁行為となる可能性があります。
仲裁・和解とは
仲裁とは、当事者間で解決できない紛争について第三者が判断を下し、解決を図る手続きです。一方、和解は当事者同士が話し合いにより合意を目指す方法を指します。
立ち退き交渉では、条件の調整や合意形成が重要になります。これらの行為は法律事務に該当するため、弁護士が関与することが求められます。
報酬を得る目的かどうか
非弁行為の判断においては、報酬を得る目的があるかどうかも重要な要素です。ここでいう報酬とは、現金に限らず物品や謝礼なども含まれます。
また直接的な報酬がなくても、業務の結果として利益を得ることが見込まれる場合は該当する可能性があります。例えば、立ち退きが成功した後に管理契約を継続することが前提となっているケースなどが考えられます。
このように、形式的な受領の有無だけでなく、実質的な利益関係があるかどうかも判断の対象となります。意図せず非弁行為と評価されることを防ぐためにも、注意が必要です。
業としているかどうか
非弁行為は「業として」行われる場合に成立します。ここでいう業とは、反復継続性と事業遂行性の両方を備えた状態を指します。
反復継続性とは、同種の行為を繰り返し行う意思があることです。一度の行為であっても、今後も継続して行う意図があれば該当する可能性があります。
事業遂行性とは、その業務を行うための体制や社会的基盤が整っていることです。不動産業者は日常的に物件管理を行っているため、立ち退き交渉を継続的に行える環境にあると評価されやすい傾向があります。
そのため、不動産業者が立ち退き交渉に関与すると、業としての法律事務と判断されるリスクが高くなります。適切な範囲を超えた関与は避けることが重要です。
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不動産業者の非弁行為が認められた判例
不動産業者による立ち退き交渉が非弁行為に該当するかについては、最高裁平成22年7月20日決定が重要な判断を示しています。この事案では、弁護士資格を有しない業者が、貸主から依頼を受けて多数の賃借人に対し立ち退き交渉を行っていた点が問題となりました。
具体的には、業者が借主に対して立ち退きの必要性を説明し、退去条件や立ち退き料について交渉を行っていたほか、場合によっては強い態度で説得を行うなど、実質的に紛争解決に関与していました。争点は、これらの行為が弁護士法72条のいう「その他一般の法律事件」に関するものかどうかです。
裁判所は、立ち退き交渉が賃貸借契約の終了という権利関係に関わるものであり、法的紛争性を有し、「法律事件」に当たると評価しました。そのうえで、業者が報酬を得る目的でこれらの交渉を行っていた点を踏まえ、法律事務に該当すると判断し、非弁行為であると認定しています。
この判例から、単なる事務的なサポートを超えて、借主との条件交渉や説得に関与する行為は、非弁行為と評価される可能性が高いことが明確になりました。実務においても、不動産業者がどこまで関与できるのかについて慎重な対応が求められています。
※参考:最高裁判所第一小法廷 平成22年7月20日決定 刑集64巻5号793頁.
不動産業者に依頼できる作業と注意点
不動産業者は立ち退き交渉そのものを代理することはできませんが、一定の範囲で貸主をサポートすることは可能です。重要なのは、交渉や代理といった法律事務に該当する行為を避け、役割を適切に切り分けることです。
例えば、以下のような業務は不動産業者に依頼できるケースがあります。
- 借主の移転先となる物件の提案
- 立ち退き後の物件売却に関する手続き
- 不動産業者による物件の買い取り
- 書類の受け渡しや連絡の取次ぎ
これらはあくまで事務的・補助的な業務にとどまり、借主との条件交渉や意思決定に関与しない点が重要です。一方で、退去条件の提示や立ち退き料の交渉などに踏み込むと、非弁行為に該当する恐れがあります。
管理業務の一環として対応している場合でも、内容によっては法律事務と評価される可能性があるため、曖昧な対応は避ける必要があります。適切な範囲で不動産業者を活用しつつ、交渉や書面作成は弁護士に依頼することが安全です。
立ち退き交渉の進め方
立ち退き交渉は、一定の手順に沿って段階的に進めることが一般的です。貸主自身で行う部分と、不動産業者や弁護士に任せる部分を明確に分けることで、トラブルを防ぎやすくなります。事前に役割分担を整理し、適切な対応を選択することが重要です。
借主に立ち退きの意思表示をする
立ち退き交渉の第一ステップは、借主に対して更新拒絶や解約の意思を明確に伝えることです。通知は口頭でも可能ですが、後のトラブルを防ぐためには書面で行うことが望ましいとされています。
通知においては、以下の内容を明確に記載する必要があります。
- 立ち退きを求める理由
- 契約終了日
- 退去期限
- 問い合わせ先
また借地借家法に基づき、契約満了の1年前から6カ月前までの間に通知する必要がある点にも注意が必要です。通知が遅れると更新が成立する可能性があります。
なお、通知書の作成は法的判断を伴うため、貸主自身または弁護士が行う必要があります。誠実な姿勢で丁寧に説明することが、その後の交渉を円滑に進めるための前提となります。
借主の事情を聞き、具体的な条件を交渉する
意思表示を行った後は、借主の事情を踏まえながら具体的な条件について話し合いを進めます。立ち退き交渉では、貸主の都合だけでなく、借主の生活や事業への影響も考慮することが重要です。
実務では、立ち退き料の提示や移転先の提案などを通じて合意を目指します。立ち退き料の水準は一律ではなく、物件の種類や利用状況、地域性などにより大きく異なります。居住用物件と事業用物件では、一般的に事業用の方が高額になる傾向があります。
また不動産業者は移転先物件の紹介などで支援できますが、条件交渉そのものを任せるなら弁護士に依頼する必要があります。専門家が関与することで、法的リスクを抑えながら現実的な解決策を検討しやすくなります。
交渉が順調に進めば合意に至りますが、条件が折り合わない場合には長期化する可能性もあるため、柔軟な対応が求められます。
合意に至ったら条件をまとめた書面を作成する
借主との間で条件がまとまった場合は、合意内容を必ず書面として残すことが重要です。口頭のみの合意では、後から認識の違いが生じ、トラブルに発展する恐れがあります。
書面には、解約合意の内容や退去期限、立ち退き料の金額と支払方法などを明確に記載します。これにより、双方の合意内容を客観的に確認できる状態になります。
なお、これらの書面作成は法律事務に該当するため、不動産業者に依頼することはできません。適切な内容とするためにも、弁護士の関与が望まれます。
交渉が難航した場合、裁判も視野に入れておく
交渉がまとまらない場合には、立ち退きを断念するか、裁判手続きを検討する必要があります。建物明渡請求訴訟を提起することで、最終的な解決を図ることが可能ですが、時間や費用がかかる点には注意が必要です。
また裁判では正当事由の有無などが厳しく判断されるため、必ずしも貸主の主張が認められるとは限りません。そのため、早い段階で弁護士に相談し、見通しを確認しておくことが重要です。
場合によっては、物件の売却といった別の選択肢も検討する必要があります。状況に応じて現実的な対応を選ぶことが、結果としてリスクの軽減につながります。
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立ち退き交渉を任せたいなら弁護士に依頼するのがおすすめ
立ち退き交渉を第三者に任せたいと考える場合、適法に代行できるのは弁護士に限られます。不動産業者は物件の提案や手続き補助は可能ですが、借主との条件交渉や代理行為は行えません。そのため「交渉をまるっと任せたい」というニーズに対応できるのは弁護士です。
また立ち退き交渉は法的判断を伴う場面が多く、自力で対応すると負担が大きくなる傾向があります。弁護士に依頼することで、法的リスクを踏まえた対応が可能になります。ここでは、具体的なメリットについて詳しく解説します。
交渉そのものを代行できる
弁護士に依頼する大きなメリットは、借主との交渉を代理人として一任できる点です。弁護士は法律事務を取り扱うことが認められているため、非弁行為に該当することなく、条件交渉や合意形成を進めることができます。
また通知書や合意書などの書類作成についても一括して依頼できるため、手続きの一貫性が保たれます。貸主自身が対応する場合に比べて、やり取りの負担や精神的なストレスを軽減できる点も特徴です。
不動産業者との違いは、交渉や法律判断を含めて対応できるかどうかにあります。弁護士であれば、立ち退き交渉の中核部分を任せることが可能です。
立ち退き交渉をスムーズに進められる
弁護士が関与することで、立ち退き交渉が円滑に進む可能性があります。借主の事情や状況を踏まえたうえで、現実的な解決策を提示できるため、無理のない合意形成につながりやすくなります。
例えば、立ち退き料の提示だけでなく、引越し費用の負担や家賃減額の提案、移転先の確保といった複数の条件を組み合わせることで、双方にとって納得感のある着地点を探ることができます。
また弁護士が代理人として交渉に入ることで、借主側にも専門家が関与しているという認識が生まれ、話し合いの進め方に一定の緊張感が生じることもあります。これにより、感情的な対立を避けながら冷静に交渉を進めやすくなる点もメリットの一つです。
ただし、すべてのケースで早期解決につながるとは限らないため、状況に応じた対応が必要です。
正当の事由を正しく判断できる
立ち退きを実現するためには、借地借家法第28条に基づく「正当の事由」が必要とされます。これは単に貸主の事情だけでなく、借主の利用状況やこれまでの経過、建物の現況、さらには立ち退き料の有無などを総合的に考慮して判断されます。
この判断は非常に専門性が高く、個別事情によって結論が大きく異なる点が特徴です。正当事由が十分でない場合には、立ち退き請求が認められない可能性もあります。
弁護士に依頼することで、これらの要素を踏まえた適切な見通しを立てることができ、どのような条件であれば交渉が成立しやすいかを検討しやすくなります。また立ち退き料を補完要素としてどのように位置付けるかといった判断についても、実務に基づいた対応が可能です。
立ち退き料の適正価格が分かる
立ち退き料の金額は一律に決まっているものではなく、物件の種類や利用状況、地域性などに応じて大きく変動します。また正当事由との関係も深く、立ち退き料の提示によって不足する要素を補うことが求められる場合もあります。
このような背景から、適正な金額を判断することは容易ではありません。過大な金額を提示すれば貸主の負担が大きくなり、反対に過少な提示では交渉が進まない可能性があります。
弁護士に依頼することで、これまでの実務経験や判例の傾向を踏まえた現実的な水準を検討できるため、交渉を進めやすくなります。結果として、無理のない条件で合意に至る可能性を高めることにつながります。
まとめ
本記事では、不動産業者が立ち退き交渉を代行できない理由や非弁行為の考え方、実務における適切な役割分担について解説しました。立ち退き交渉は法律事務に該当するため、交渉や書面作成を不動産業者に任せることはできず、任せるなら弁護士に依頼する必要があります。
また不動産業者は移転先の提案や手続き補助といった役割を担い、弁護士は交渉や法的判断を担当するという形で、役割を分けることが重要です。こうした整理を行うことで、不要なトラブルを避けながら交渉を進めやすくなります。
立ち退き交渉は個別事情による影響が大きく、判断が難しいケースも少なくありません。ライズ綜合法律事務所では、迅速かつ円満な解決を目指した対応に加え、不動産鑑定士との連携により適正な立ち退き料の算出にも対応しています。
まずは無料相談を活用し、現在の状況を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。専門家に相談することで、適切な進め方が見えてくるはずです。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。


