立ち退き交渉・建物明渡請求
2026/09/14
建物明渡請求とは?訴訟の手続きと流れ・実務の費用を解説

契約違反やトラブルが続く借主への対応に悩んでいませんか。何度も注意や交渉を重ねても改善されない場合、精神的な負担や管理コストは大きくなります。賃料の滞納や近隣トラブルが続くと、キャッシュフローの悪化や物件価値の低下にもつながるでしょう。
しかし、交渉だけでは解決できないケースも少なくありません。そのようなときに検討されるのが、建物明渡訴訟という法的手段です。適切な手続きを踏めば、借主に退去を求めることが可能となる場合があります。
本記事では、建物明渡請求の基本から訴訟の進め方、検討するべきタイミング、費用の目安まで体系的に解説します。読み終えたときには、ご自身の状況でどのような対応を取るべきか判断できる状態を目指します。自力での対応に限界を感じている方にとって、有効な選択肢を整理するきっかけとなるでしょう。
【この記事で分かること】
- 建物明渡請求とはどのような手続きなのか
- 交渉による合意が難しいとき、訴訟に進むかを判断する基準
- 建物明渡訴訟は具体的にどのような流れで進むのか
建物明渡訴訟とは?
建物明渡訴訟とは、賃貸借契約や使用貸借契約が終了したにもかかわらず借主が退去しない場合に、貸主が裁判所に対して明け渡しを求める手続きです。法的手段によって解決を図る点が大きな特徴といえます。
ここでいう明け渡しとは、借主が物件から退去し、室内を空の状態にして貸主へ返還することを指します。単に鍵を返すだけではなく、占有を完全に解消することが必要です。
訴訟では、貸主が原告、借主が被告となり、それぞれが主張と証拠を提出します。その内容をもとに裁判所が判断し、明け渡しの可否や条件を判決で示します。判決には法的拘束力があるため、任意に退去しない場合でも強制執行へ進むことが可能です。
任意交渉と異なり、裁判所の判断が介在することで実効性が高まります。ただし、すべてのケースで請求が認められるわけではありません。契約内容や経緯など個別事情が重視されるため、事前の準備が重要となります。
建物明渡訴訟を検討するべきタイミング
建物明渡訴訟は、費用や時間がかかる手続きであるため、慎重な判断が求められます。まずは交渉や話し合いによる解決を試みることが基本です。
しかし、何度対応しても改善が見られない場合や、借主が退去を拒否し続ける場合には、訴訟を検討する必要があります。特に、内容証明による催告や通知を行っても状況が変わらないケースでは、法的手段に進むことが現実的です。
以下では、具体的にどのような状況で訴訟を検討するべきかを整理します。
借主の契約違反が是正されないとき
借主に契約違反がある場合でも、直ちに契約解除や退去請求ができるわけではありません。まずは改善を求める機会を与える必要があります。その上で是正されない場合に、契約解除と明渡請求を検討する流れとなります。
代表的な契約違反には、以下のようなものがあります。
- 賃料の長期的な不払い
- 用法違反
- 無断増改築
- 無断転貸
- 暴力団排除条項違反
- 近隣からの苦情の多発
これらの違反が継続し、貸主と借主の信頼関係が維持できない状態と評価される場合、契約解除が認められる可能性があります。この考え方は「信頼関係破壊の法理」と呼ばれています。
一方で、軽微な違反や一時的な滞納だけでは、解除が認められにくい傾向があります。たとえば一度の支払い遅れのみでは、直ちに契約終了とすることは難しいでしょう。
そのため、督促の履歴や苦情の記録など、違反の継続性や重大性を示す証拠を蓄積しておくことが重要です。適切な手順を踏むことで、訴訟に進んだ際の判断にも影響を与えます。
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ケース別・建物明渡訴訟が認められる条件
建物明渡訴訟は、タイミングだけで判断されるものではありません。法的な要件を満たしているかどうかが重要となります。借主の権利は借地借家法によって強く保護されているため、貸主の都合だけで退去を求めることは難しい場合があります。
また契約違反・貸主都合・契約形態などによって、認められる条件は大きく異なります。裁判所は個別事情を重視して判断するため、一律の基準があるわけではありません。以下ではケースごとに、どのような条件で明渡請求が認められる可能性があるのかを整理します。
【借主の契約違反】信頼関係の破壊
借主に契約違反がある場合でも、それだけで直ちに契約解除が認められるわけではありません。重要となるのが「信頼関係破壊の法理」という考え方です。これは、貸主と借主の信頼関係が破壊され、契約を継続することが困難といえるかどうかで判断するものです。
たとえば家賃の滞納が1カ月のみであれば、単なる一時的な支払い遅れと評価されることがあります。このようなケースでは、すぐに契約解除とするのは難しいでしょう。一方で、3カ月以上の滞納が続いている、過去にも繰り返し遅延がある、催告しても連絡が取れないといった事情がある場合には、信頼関係が破壊されたと評価される可能性があります。
また契約違反に対応する際には、いきなり解除するのではなく、催告や改善要求を行うことが必要です。督促の履歴ややり取りの記録を残しておくことで、後に訴訟となった場合の重要な証拠となります。
ただし、どの程度で信頼関係が破壊されたと判断されるかはケースごとに異なります。期間や回数だけで機械的に判断されるものではないため、慎重な対応が求められます。
【貸主都合の退去】正当の事由と退去通知
借主に契約違反がない場合でも、貸主の事情により立ち退きを求めることがあります。この場合に必要となるのが「正当の事由」です。借地借家法第28条では、更新拒絶や解約申入れには正当の事由が必要とされています。
正当の事由が認められるかどうかは、複数の事情を総合的に考慮して判断されます。主な判断要素は以下の通りです。
|
項目 |
内容 |
|
使用の必要性 |
貸主・借主双方の使用の必要性の程度 |
|
従前の経過 |
契約の経緯やこれまでの関係性 |
|
利用状況 |
実際の建物の利用方法 |
|
建物の現況 |
老朽化や安全性の問題 |
|
財産上の給付 |
立ち退き料の有無や金額 |
たとえば、貸主が自己使用の必要性を有している場合や、建物が著しく老朽化している場合には、正当の事由が認められる可能性があります。ただし、それだけで足りるとは限らず、立ち退き料の提示によって補完されるケースも少なくありません。
また普通借家契約では更新拒絶の通知時期にも注意が必要です。契約期間満了の1年前から6カ月前までに通知を行わなければ、法定更新となり契約が継続します。通知漏れは大きなリスクとなるため、事前にスケジュールを確認しておくことが重要です。
【定期借家契約】事前の通知
定期借家契約では、契約期間が満了すれば原則として契約は終了します。しかし、期間満了だけで自動的にトラブルなく退去が進むとは限りません。そのため、法律上は終了通知の義務が定められています。
契約期間が1年以上の場合、借主に対して契約終了の通知を行う必要があります。通知の時期は、期間満了の1年前から6カ月前までとされています。この通知を怠ると、借主が契約終了を認識できず、トラブルに発展するおそれがあります。
たとえば、借主が契約内容を十分に理解していなかったり、話し合いで延長できると考えていたりするケースもあります。このような認識のずれが、退去拒否につながることもあります。
そのため、通知は口頭ではなく書面で行い、内容や時期を明確に残しておくことが重要です。適切な手続きを踏むことで、不要な紛争を未然に防ぐことができるでしょう。
【使用貸借契約】契約書の有無や使用・収益の目的の達成
使用貸借契約とは、無償で物件を貸し借りする契約のことです。賃貸借契約と異なり、金銭の支払いが伴わない点が特徴です。そのため、返還請求の条件も異なります。
貸主が返還を求めることができる主なケースは、以下の通りです。
- 契約期間が満了した場合
- 使用や収益の目的が達成された場合
- 借主が死亡した場合
たとえば、一定期間のみ居住する目的で貸していた場合、その目的が達成されれば返還を求めることが可能です。また使用貸借は相続の対象とならないため、借主の死亡によって契約が終了する点にも注意が必要です。
さらに、契約書の有無によって判断が難しくなることがあります。口頭で成立する契約であるため、期間や目的が曖昧なケースも少なくありません。このような場合、返還時期を巡ってトラブルになる可能性があります。
そのため、契約書を交わしていない場合でも、今からでも条件を明確にした書面を作成することが望ましい対応です。契約内容を整理しておくことで、後の紛争リスクを軽減できます。
建物明渡訴訟までの流れ
建物明渡訴訟は、いきなり裁判に進むわけではありません。通知や交渉といった段階を踏んだ上で、最終手段として訴訟に至る流れとなります。事前対応の適切さが結果に影響するため、各ステップを理解しておくことが重要です。
以下では、実務で一般的に行われる流れを順に解説します。
借主への通知を送る
建物明渡請求に進む前には、まず借主に対して通知や催告を行います。この段階は非常に重要であり、適切な手順を踏んでいない場合、後の訴訟に影響する可能性があります。
契約違反がある場合には、まず改善要求を行うことが基本です。一度の注意で終わらせるのではなく、複数回にわたって改善を求めることが求められます。それでも是正されない場合に、信頼関係が破壊されたと評価される段階へ進みます。
その上で送付するのが催告書と契約解除通知です。催告書とは、一定期間内に義務を履行しなければ契約解除や法的措置に進む旨を通知する書面です。いわば最終通告としての役割を持ちます。
催告書には以下の内容を明記する必要があります。
- 違反している具体的内容
- 是正のための対応内容
- 対応期限
- 応じない場合の措置(契約解除など)
またこれらの通知は内容証明郵便で送付することが重要です。送付した事実や内容を証明できるため、裁判での証拠として機能します。期限までに是正されない場合、契約解除の効力が生じる流れとなります。
一方、貸主都合で退去を求める場合には、更新拒絶の通知が必要です。契約満了の1年前から6カ月前までに通知を行う必要があり、この期間を過ぎると契約が継続してしまう点に注意が必要です。
借主と交渉をする
通知を行った後は、借主との交渉を進めることになります。訴訟は時間や費用がかかるため、可能であれば交渉による解決を目指すことが望ましい対応です。
契約違反が原因の場合、借主に違反内容を説明した上で、改善の意思があるかを確認します。たとえば賃料の滞納であれば、分割払いによる返済計画を立てることで解決するケースもあります。この段階で合意できれば、訴訟に進む必要はありません。
貸主都合の場合は、立ち退き料や退去時期について協議を行います。借主の生活に配慮した姿勢を示すことで、交渉が円滑に進むことがあります。強硬な対応は、かえって態度を硬化させるおそれがあるため注意が必要です。
合意に至った場合は、必ず書面で契約を締結します。合意書には以下の内容を明記します。
- 退去日
- 立ち退き料の金額と支払方法
- 明け渡し方法
- 違反時の対応
なお、交渉で解決できない場合には、民事調停を経る方法もあります。それでも合意に至らない場合、訴訟の検討へ進むことになります。
建物明渡訴訟を提起する
契約解除が成立しても、直ちに借主を退去させることはできません。強制的に明け渡しを実現するためには、建物明渡訴訟を提起する必要があります。
訴訟では、明け渡し請求に加えて未払い賃料の支払いを求めることも可能です。請求内容は状況に応じて整理する必要があります。
訴訟提起に当たっては、以下の書類を準備します。
- 不動産登記事項証明書
- 建物賃貸借契約書
- 内容証明郵便(解除通知)
- 配達証明書
- 固定資産評価証明書
- 法人の場合は登記事項証明書
これらの書類に不備があると、手続きが滞る可能性があります。また、訴えの提起には訴額に応じた手数料がかかります(2026年5月21日以降は書類の郵便代も含まれ、郵便切手を別に納める必要はありません)。
また訴訟の進行は専門的な知識を要します。適切な主張や証拠提出ができない場合、不利な判断となるおそれもあります。そのため、弁護士のサポートを受けることが現実的といえるでしょう。
判決が下される
訴訟を提起すると、通常は約1カ月後に第一回期日が開かれます。この期日では、当事者双方の主張を確認する手続きが行われます。出廷が難しい場合でも、書面を提出すれば擬制陳述として扱われます。
その後は、1カ月から1.5カ月程度の間隔で口頭弁論が行われます。原告と被告が交互に主張や反論を行い、争点が整理されていきます。この過程で証拠の提出も行われます。
審理の途中で、裁判所から和解案が提示されることがあります。双方が合意すれば和解調書が作成され、訴訟は終了します。和解は早期解決につながる点がメリットといえるでしょう。
一方、和解に至らない場合には、裁判所が判決を下します。判決までの期間はおおむね1年前後が目安です。ただし、事案によってはさらに長期化することもあります。
判決書には、明け渡しの可否や立ち退き料、費用負担などが記載されます。判決に従わない場合には、強制執行へ進むことが可能です。
貸主自身が建物明渡訴訟を行うリスク
建物明渡訴訟は、弁護士を依頼せずに貸主本人が対応することも制度上は可能です。しかし、実務においては専門的な知識や経験が求められる場面が多く、想定以上の負担やリスクが生じる可能性があるため、慎重な判断が必要です。
主なリスクは以下の通りです。
- 法的知識が不足している
- 主張や証拠が不十分となる可能性
- 手続きが複雑で対応に時間がかかる
- 訴訟の進め方によっては敗訴のリスクがある
- 解決まで長期間を要する可能性
例えば、明渡訴訟では「正当事由の有無」や「契約解除の適法性」など、専門的な法律判断が争点となることが一般的です。これらを適切に主張・立証するためには、契約書や通知書、交渉経緯などの証拠を整理し、裁判所に分かりやすく提示する必要があります。知識や経験が不足している場合、重要な主張が抜け落ちたり、証拠の提出方法を誤ったりすることで、本来有利であったはずの事案でも不利な結果につながるおそれがあります。
また訴状の作成や期日対応、書面の提出など、手続き自体も煩雑であり、本業と並行して対応することは大きな負担となります。さらに、相手方が弁護士を選任している場合には、主張の組み立てや交渉力に差が生じ、その差がそのまま結果に影響するケースも少なくありません。
加えて、手続きの進め方を誤ると、不要に審理が長期化したり、和解の機会を逃したりする可能性もあります。その結果、解決までに想定以上の時間と費用がかかるリスクも考えられるでしょう。
このように、建物明渡訴訟は一見シンプルに見えても、実際には高度な判断と対応が求められる手続きです。こうしたリスクを踏まえると、早い段階で弁護士などの専門家に相談し、状況に応じた適切な進め方を検討することが重要といえます。
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建物明渡訴訟にかかる費用
建物明渡訴訟では、手続きの進行に伴い複数の費用が発生します。訴訟は時間とコストの両面で負担が大きくなりやすいため、費用対効果を踏まえると、可能な限り交渉や調停などで解決できるかを事前に検討することが重要です。ここでは主な費用項目と相場を整理します。
まず、手続きにかかる基本的な費用は以下の通りです。
|
項目 |
内容 |
相場 |
|
内容証明郵便 |
催告や通知の送付費用 |
約2,000円×回数 |
|
申立手数料 |
訴額に応じた手数料(書類の郵便代を含む) |
数千円~数万円 |
|
書類取得費用 |
登記簿謄本・評価証明書など |
数百円~数千円 |
これらは比較的少額に見えるものの、通知の回数や取得書類の種類によっては積み重なり、一定の負担となる点に注意が必要です。また申立手数料は訴額によって変動するため、事前に目安を把握しておくことが望ましいでしょう。
|
項目 |
内容 |
相場 |
|
相談料 |
初回相談時の費用 |
1時間5,000~1万円程度 |
|
着手金 |
依頼時に支払う費用 |
10万~30万円程度 |
|
成果報酬 |
得られた利益に応じた報酬 |
10~35%程度 |
|
実費 |
交通費や郵送費など |
数千円~数万円程度 |
弁護士費用は事務所ごとに体系や金額が異なるため、事前に見積もりや内訳を確認しておくことが重要です。また案件の難易度や争点の複雑さ、相手方の対応状況によっても費用が増減する可能性があります。
これらの費用は、物件の状況や借主との関係性、手続きの長期化の有無などによっても変動します。特に訴訟が長引いた場合には、追加の実費や対応コストが発生する点にも留意が必要です。
費用面を踏まえると、まずは交渉や任意の話し合いで解決できる余地があるかを見極め、その上で訴訟に進むかどうかを判断することが、結果的に負担を抑える上で重要といえるでしょう。
まとめ
建物明渡請求は、交渉だけでは解決できない場合に検討される重要な手続きです。契約違反や正当事由の有無など、ケースごとに要件が異なるため、状況に応じた判断が求められます。
また訴訟に至るまでには通知や交渉といった段階があり、適切な手順を踏むことが結果に影響します。費用や期間も考慮しながら、慎重に対応を進める必要があります。
ライズ綜合法律事務所では、不動産鑑定士と連携しながら立ち退き料を検討しています。提示額の根拠を明確にすることで、交渉や訴訟を有利に進めることが可能です。これまで16,000件以上の相談実績と3,000件以上の解決実績を有しており、実務に基づいた対応が期待できます。
立ち退き問題は早期対応が重要です。お一人で悩まず、専門家へ相談することで適切な解決策が見えてくるかもしれません。まずはお気軽にお問い合わせください。
【ご相談専用フリーダイヤル】
0120-657-001(9:00-21:00土日祝も受付中)
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。


