法律コラム

債務整理

2024/06/04

借金の時効は?消滅時効の要件や援用の手続きの流れ、注意点を解説

借金などの債務には、一定期間の経過によって返済義務がなくなる「消滅時効」が定められており、成立すれば借金の返済義務はなくなります。しかし、時効の成立には要件があり、債権者が静観することも少ないのが現実です。一般的に時効が成立するケースは多くはないので、時効の手続きは慎重に行う必要があります。
この記事では、借金の時効の成立について、次の内容を紹介しています。

・借金の時効とは
・時効成立のための手続きの流れ
・時効成立を主張する際の注意点
・時効が成立しなかった時の対処法

「自分の借金は時効で消滅させることはできる?」と疑問を感じている人に役立つ内容となっています。参考にしてください。
借金の時効は?消滅時効の要件や援用の手続きの流れ、注意点を解説

1.借金が時効になれば返済義務はない?消滅時効とは?

借金の時効とは、債権者が一定の期間権利を行使しない場合に、債権そのものが消滅する制度のことです。借金の時効は、正式には「消滅時効」といいます。消滅時効が成立すると、借金の元本のほか、利息や遅延損害金などの返済義務もなくなります。

1-1 消滅時効の制度が存在する理由

なぜ消滅時効の制度が存在するのでしょうか。これには以下の3つの理由があります。

1-1-1 長年続く平穏な状態を保護する

本来、借りたお金は返済するべきものです。しかし、債権者が長年権利を行使せずに放置していた場合、「長期間続いてきた債務者の暮らしの平穏は保護されるべき」という考え方があります。

消滅時効の理念は、この考え方を体現したものです。

1-1-2 再び請求が発生することを回避する

一度返済した借金について、再度請求が発生しないようにすることも消滅時効の存在理由です。

一般的に、借金を完済した際は、債権者から証拠となる書面の発行を受けます。しかし、長期間経過すると書類を紛失・破棄していることも多く、債権者の事実の誤認によって再請求を受けた際に借金を完済した事実を証明できない恐れがあります。

このような場合に債務者を保護し、法律関係の安定化を図ることも、消滅時効の目的の一つです。

1-1-3 権利の上に眠る者は保護しない

法学には、古くから「権利の上に眠るものは保護しない」という理念があります。権利を保有しながら、漫然と放置している者を法は守らない、という考え方です。

権利を守りたいのであれば積極的に行使することが望ましいとされており、消滅時効の制度はこれを現したものといえます。

 

2.借金の消滅時効が成立する要件

借金は、長期間経過してさえいれば自動的に消滅するわけではありません。返済義務をなくすためには以下の要件があります。

  • 支払期日から5年以上が経過している
  • 時効援用の手続きが行われている

2-1 借金や利息の支払期日から5年以上の期間が経過している

消滅時効の成立に必要な期間は、借金をしたタイミング(民法の改正前か後か)と、借金の種類(どこからの借金か)によって異なります。

【借金の種類別消滅時効の期間】

借金の種類 民法改正前
(2020年3月31日以前)
民法改正後
(2020年4月1日以降)
・消費者金融
・金融機関
5年 主観的起算点から5年または客観的起算点から10年
・信用金庫
・住宅金融公庫の住宅ローン
・信用保証協会の求償権
・親族や友人など個人間の借金
・奨学金
10年 主観的起算点から5年または客観的起算点から10年

参考:民法(債権法)改正|法務省

民法の改正後に借り入れたものに関しては、どこからの借り入れかに関係なく、以下の場合のうちどちらか早い方の期間が要件となります。

  • 債権者が借金の請求権を行使できることを知った時(主観的起算点)
  • 債権者が借金の請求権を行使できる時(客観的起算点)

これらの要件は民法に以下のように明記されています。

(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。

引用:民法第百六十六条|e-Gov法令検索

2-2 時効援用の手続きが行われている

期間の経過のほか、時効援用の手続きが行われていることも要件です。

時効援用とは、債務者が債権者に時効の成立を主張することです。「消滅時効が成立したので債務を返済するつもりはない」ことを意思表示します。

時効援用は、一般的には時効援用通知書を作成して内容証明郵便で債権者に送付することにより行います。

時効援用の手続きの流れの詳細は後ほど解説します。

 

3.借金の消滅時効が成立しないケース

理論上は、一定期間の経過後、援用の手続をすることにより、消滅時効は成立します。しかし、時効によって返済義務がなくなることは債権者も理解しているため、法的手続きによって時効の成立を阻止されることが一般的です。

具体的にどのような場合に消滅時効が成立しなくなるのか紹介します。

3-1 時効が更新(中断)される

時効の更新とは、時効の成立に必要な期間経過を一度ゼロに戻し、新たにカウントを始めることです。例えば、消滅時効の成立に5年の期間経過が必要なケースで、2年経過した時点で更新すれば、新たに5年経過しなければ時効は成立しなくなります。

時効の更新は2020年4月の民法改正によって新設された制度で、改正以前は「時効の中断」の名称で運用されていました。

借金の消滅時効は、以下の3つの場合に更新されます。

3-1-1 債務者が借金の返済意思を示す行為をした

債務者が、自分の負う債務を承認した場合、消滅時効は更新されます。

(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。

引用:民法第百五十二条|e-Gov法令検索

具体的には、以下のような行為が権利の承認に該当します。

  • 返済期限を過ぎてから返済した
  • 債権者に「返済を待ってほしい」と伝えた
  • 権利承認書にサインした

3-1-2 裁判所の手続きや訴訟で支払いを求められた

訴訟による確定判決など、債権者が裁判所を介して借金の返済を求めることでも、時効は更新されます。具体的には、以下が対象です。

  • 支払督促の通知書が裁判所から債務者に送られた
  • 債権者が裁判所に訴訟を提起した
  • 債務者との間で特定調停が行われ調停が成立した

参考:民法第百四十七条|e-Gov法令検索

参考:民法第百六十九条|e-Gov法令検索

3-2 時効の完成猶予(停止)になる

時効の完成猶予とは、特定の手続きを行うことにより、消滅時効成立までの期間のカウントを6ヶ月間(協議合意の場合は1年間)停止させることです。2020年4月の民法改正の前は「時効の停止」と呼ばれていました。時効の完成猶予は、口頭か書面による催告や、仮差し押さえの手続きによって発生します。

通常は、内容証明郵便による催告で行われることが一般的です。多くの場合、債権者は債務の時効が近づくと、書面で催告して時効の完成猶予の措置を取り、その後前述の時効の更新を行います。

 

4.借金の消滅時効が成立するまでの手続き(時効援用)の流れ

借金の消滅時効は、書面によって援用することが一般的です。時効を援用する方法は法律では決まっていませんが、口頭では証拠が残らずトラブルに発展することがあるため、弁護士に依頼して内容証明郵便を送付して時効の援用を行うことが行われています。

ここでは、借金の消滅時効が成立するまでの流れを解説します。

4-1 消滅時効が完成していることを確認する

まず、所定の期間が経過し、消滅時効が完成していることを確認します。借金の返済期日や最終返済日を調べてみましょう。

【最終返済日・返済期日の確認方法(一例)】

  • 債権者からの最新の督促状を確認する
  • 債権者が登録している個人信用情報機関(借り入れや返済情報を管理している機関)に開示請求する
  • 弁護士に依頼して確認してもらう

判明した期日から、経過した期間を計算してみてください。

4-2 時効援用通知書を債権者に送付する

次に、時効援用通知書を作成し、債権者に送付します。特に決まった書式はありませんが、以下の内容は必須なので必ず盛り込むようにしましょう。

  • 時効援用通知書を作成した日
  • 債権者の住所と氏名(法人の場合は会社名)
  • 債務者の住所と氏名
  • 時効の援用をする旨の意思表示
  • 借金を特定できる情報(債務者の生年月日や借入契約年月日、借入額、契約番号など)
  • 個人信用情報機関に登録されている事故情報の削除依頼

時効援用通知書は、送付の事実と内容を証拠として残すために内容証明郵便で送ることがポイントです。内容証明郵便は書式が複雑なため、弁護士など専門家に相談して代筆してもらうか、書き方を教わることをおすすめします。

4-3 債権者が時効援用通知書を受け取り確認する

債権者は、時効援用通知書を受け取ると、債務者との取引履歴や経過期間を確認します。所定の期間が成立していない場合、時効の更新の手続きを行ったり、一括請求を求めてきたりする可能性もあるため注意してください。弁護士に相談し、時効成立のための期間が経過しているかを確認するのも一つの方法です。

4-4 消滅時効が成立して借金の返済義務がなくなる

債権者が、消滅時効成立の期間が経過していることを確認すれば、時効は成立します。債権者から時効の成立を証明する「債務不存在証明書」が送られてくることもあります。送付されない場合、時効援用を認めたことを確認する書面を内容証明郵便で送っておくと確実です。

なお、時効が成立した後に債権者からの返済に応じると、時効援用が無意味になる場合があります。対応に迷った場合は弁護士に相談するのが望ましいでしょう。

 

5.借金の時効援用の手続きにかかる費用の目安

債務者が自分で時効援用の手続きをする場合、発生する費用は内容証明郵便の利用料金のみです。ただし、書類は自分で作成しなければなりません。

弁護士に依頼すると確実ですが、弁護士に支払う報酬が必要です。

以下は、手続きにかかる費用の内訳です。

内容証明郵便の利用料 配達証明あり:1279円~
配達証明なし:959円~
弁護士費用 3万円~

弁護士費用は事務所によって異なる料金が設定されているため、問い合わせの際に確認してみてください。

 

6.借金の消滅時効が成立した後はどうなる?

消滅時効の成立にはどのような効果があるのか、信用情報と抵当権の2つの面から紹介します。

6-1 個人信用情報機関から事故情報が抹消される可能性がある

借金を長期間滞納していると、個人信用情報機関の記録に事故情報が登録され、いわゆるブラックリストに載ることがあります。

消滅時効が成立すると債務が無くなるため、個人信用情報機関によっては事故情報が抹消されます。この点は、個人信用情報機関によって対応が異なるため、抹消されたか知りたい場合は開示請求を利用して確認してみてください。

事故情報が抹消されると、ローンやクレジットカードの審査に通りやすくなります。

なお「消滅時効の成立」の事実は、個人信用情報機関の事故情報には含まれないため、時効を援用しても記録はされません。

ただし、消滅時効を援用した相手方にあたる金融機関や消費者金融からの借り入れは難しくなるので注意しましょう。

6-2 抵当権は原則として消滅する

抵当権は、財産を借金の担保にした場合に設定される権利です。抵当権者は、担保を処分して弁済が行われる場合に、ほかの債権者より優先的に弁済を受けることができます。住宅ローンで買った家に金融機関の抵当権が設定される場合などが代表的です。

不動産などに抵当権が設定されている状態で消滅時効が成立した場合、抵当権は原則として消滅します。

 

7.借金の消滅時効が成立しなかった場合の対処法

消滅時効の成立による借金の返済免除が望めず、自力での返済も難しい場合は、債務整理による解決を検討できます。

債務整理は、法的手段や交渉によって借金を減額したり、返済の免除を受けたりする方法です。ここでは、債務整理の3つの選択肢について概要を紹介します。

債務整理の詳細は以下のページで解説していますので、借金問題でお悩みの人はこちらも参考にしてください。

債務整理とは?3種類のメリット・デメリットや生活への影響を解説

7-1 任意整理

任意整理は、債権者と債務者の当事者間で交渉を行う債務整理の方法です。金融機関や消費者金融などと話し合いをし、毎月の返済額や返済方法を調整し、負担の軽減を目指します。

民事再生(個人再生)や自己破産とは異なり、法律に規定のある制度ではありません。任意整理の場合、返済期間は概ね3~5年に調整することが一般的です。

7-2 民事再生(個人再生)

民事再生(個人再生)は、民事再生法に規定された債務整理の一種です。裁判所に手続きを行い、借金全額のうち約7~9割程度を削減した金額に仮計算し、減額後の債務を約3~5年で返済します。

民事再生(個人再生)を行う場合、債務者が作成した再生計画案を裁判所に提出し認可を受ける必要があります。再生計画案が認可されて,同再生計画に沿って債務の返済を継続していけば完済される仕組みです。

7-3 自己破産

自己破産は、破産法に規定されている債務整理の方法です。裁判所に自己破産を申し立て、免責許可決定が出ると債務の免除を受けることができます。

ただし、自己破産で免除されるのは、破産法に規定されている「非免責債権」以外です。婚姻費用の支払いや滞納した税金など、一部の債務は免除されません。

参考:破産法第二百五十三条|e-Gov法令検索

自己破産の詳細は以下のページで解説していますので、こちらも参考にしてください。

自己破産とは?メリット・デメリットや要件、自己破産後の影響を解説

 

8.借金の消滅時効に関するよくある質問/対処法

当事務所に寄せられる、借金の消滅時効に関するよくある質問と対処法を紹介します。

8-1 借金の消滅時効の援用手続きが失敗した時のデメリットは何ですか?

【回答】
時効期間がまだ経過していないのに間違って消滅時効の援用を行ったケースでは、書面の送付が債権者による一括返済の請求や、時効猶予の手続きのきっかけとなることがあります。

【対処法】
時効が到来しているかどうかを正しく確認することが大切です。書面を送付する前に弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

8-2 父親が先日亡くなりました。相続した借金や保証人になっている借金なども時効援用できるのでしょうか?

【回答】
相続した時点で、既に所定の期間が経過していれば時効の援用ができます。

【対処法】
債務を相続した人が債権者に連絡を取って時効を更新してしまうと、消滅時効は不成立となります。保証人・連帯保証人になっている場合は注意してください。

どう対応すべきか判断できない時は、弁護士に相談することが望ましいでしょう。

8-3 個人でのお金の貸し借りにも時効はあるのでしょうか?

【回答】
個人でのお金の貸し借りにも時効はあります。

【対処法】
支払期日から所定の期間が経過しており、時効の更新や猶予の手続きが行われていない場合は、時効援用の手続きによって借金の返済義務はなくなります。

 

9.借金の時効があるからといって放置するのは危険!早めに弁護士に相談しよう

消滅時効が成立すれば借金の返済義務はなくなりますが、時効については債権者も理解しているため、現実的には消滅時効が成立する場合の数は多くありません。

借金で苦しんでいるのであれば、債務整理によって支払いの免除や毎月の負担の軽減を行うことをおすすめします。最適な対処法を検討し、生活基盤を立て直すサポートを受けるため、早めに弁護士に相談することが大切です。

ライズ綜合法律事務所には、債務整理に精通した弁護士が複数在籍しています。5万件以上の相談実績に裏打ちされた知識と経験で、借金問題の解決をお手伝いします。

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このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。

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