1.公正証書とは
公正証書とは、公証人が第三者の立場から内容と有効性を証明する契約書です。公証人は公正証書の作成をサポートする公務員のことで、判事や検事を長く勤めた法律の専門家から法務大臣が任命します。
公証人の立ち会いによって契約書を作成することにより、法律関係を明確にし紛争を防止する目的で行われています。
民事契約は当事者の間で締結しても成立しますが、契約内容の不備により効力を発揮できないこともあるでしょう。例えば、口約束だったため契約そのものを無かったことにされる、お金を貸したときに違法な利息を設定してしまい無効になってしまう、といったトラブルが考えられます。
公正証書により契約内容を残しておけば、そういったトラブルを予防することが期待できます。
1-1 公証役場とは
公証役場は、公証制度の実現のために設置される公的な施設です。公正証書は公証役場で作成します。
公証役場は法務省の管轄施設です。「役場」と名前がついていますが、地方自治体の市役所などとは異なります。各都道府県に1つ以上置くことになっており、都心部など人口密集地に多く設置されています。
公正証書を作成したいときには、各地域の役場ではなく公証役場に向かうようにしましょう。
2.公正証書を作成するメリット
公正制度は、契約の効力を担保するためのものですが、必ずしも契約書を公正証書にする必要はありません。では、なぜ公正証書を作成するのでしょうか。
ここでは、公正証書を作成するメリットを解説します。
2-1 執行力がある
公正証書を作成するメリットの一つは、執行力があり強制執行の根拠にできることです。
お金を返してもらう、養育費を支払ってもらうといった契約が守られないときに強制的に債務を履行することが必要となります。
この強制執行を行うためには、「債務名義」と呼ばれる書面が必要です。債務名義とは、訴訟の判決や調停調書に加え、公正証書も該当します(ただし、公正証書に債務名義としての効力を持たせるには「強制執行認諾文言」を盛り込み相手の同意を得る必要があります)。
つまり、公正証書があれば、訴訟や調停などを行わなくても強制執行が可能です。公正証書で交わした契約は、このように強い効力を持つため、内容を遵守してほしい場合に効果的でしょう。
2-2 安全性が高い
安全に保管できることも、公正証書の特長です。
個人間の契約では、しばしば契約書の破損や紛失、盗難によって内容を証明できなくなる事態が発生します。公正証書は、公証役場で原本を20年間保管されるため、万一の際も再発行を受けられます。
2-3 証拠能力が高い
公正証書は、公証人の立ち会いのもと作成できるため、個人で作成した契約書と比べて高い証拠能力を持っています。
まず、締結に際して公証人が立ち会うため契約書の有効性に対して争いが起こりません。公証人立会のもと作成された契約書であるため、「無理矢理契約させられた」「勝手に捺印されたので無効である」といった主張は基本的に通らないためです。
また、内容の不備や不足している部分や、内容が不明確で解釈が分かれる点も、公証人のアドバイスを受けて修正できます。そのため、無駄がなく無用な紛争が起こりにくくなるでしょう。
2-4 心理的圧力が発生する
契約書を公正証書にすることで、より強い心理的圧力を発生させられます。
前述のように、公正証書に「強制執行認諾文言」を付与すると、訴訟などの手続きをしなくてもすぐに強制執行に着手可能です。契約を守らないようなことがあると、即給与や財産の差押えが可能となることから、債務者側に心理的にプレッシャーを与えられます。
また、作成に公証人が立ち会うため内容の効力を争う余地もなく、こちらも支払いを促す要素となるでしょう。結果的に、債務をスムーズに履行させる高い効果を期待できます。
3.公正証書を作成するデメリット
契約書を公正証書にするメリットは大きいのですが、その反面作成や変更に際してはデメリットもあります。メリットとデメリット、どちらも把握したうえで、公正証書を作成するかどうか検討してみてください。
3-1 作成にはコストと手間がかかる
公正証書の作成には、相応にコストと手間がかかる点に注意しましょう。
まず、公正証書の作成には手数料が必要です。手数料は作成する証書の種類によって細かい規定が設けられています。法律行為に関する契約書を公正証書にする場合、その目的の価額によって手数料が変動します。
例えば、200万円の金銭消費貸借契約であれば「100万円を超え200万円以下」の項目に相当するため、基本手数料は7,000円です。
また、作成には通常の契約書よりも手間がかかります。公正証書の作成には、公証人のほか証人が2名用意しなければなりません。証人は公証役場で紹介を受けることもできますが、原則自分で手配します。未成年や利害関係者は証人になれないという条件もあり、証人探しに苦労することもあるでしょう。
そのほか、公証人とのスケジュール調整や、実際に公証役場へ訪問することも必要です。
3-2 訂正や取り消しが簡単にはできない
公正証書は訂正・取り消しが可能ですが、その都度手数料を支払わなければなりません。内容を変更する際は原則作り直しとなるため、新規作成の際と同様の手続きが再度必要です。その都度契約の相手方の同意も取らなければなりません。
自分で契約書や遺言などを作成する際は、当事者間の同意さえあれば自分たちで修正できるため、これは公正証書ならではのデメリットといえます。とはいえ、簡単に内容を変えられないことは公正証書の安全性を高める要因にもなっています。
4.公正証書の種類
公正証書として作成できる書類はさまざまです。ここでは、そのうち特に登場する機会が多いものを7つ紹介します。それぞれの概要と公正証書にするメリットについて解説します。
4-1 遺言公正証書
誰にどのような財産を残すのか、遺言書の内容を定めた公正証書です。
「自分の財産をどのように分配するのか」といったことは遺族で争いが起きやすいため、遺言の内容を公正証書にすることはメリットが大きいでしょう。遺言書は法的に細かい規定があり有効性をめぐってトラブルが起こることもあります。
遺言書を公正証書で残しておけば、こういった紛争を防ぎつつ、死後はきちんと自分の意向に沿った相続がされることを期待できます。
遺言公正証書を作成する際は、公証人の前で遺言の内容を口頭で述べ、公証人が文章を作成する方法となります。通常の自筆証書遺言とは異なり、開封前の裁判所の検認は不要です。
4-2 遺産分割協議公正証書
遺産分割協議書は、被相続人の死後に遺産をどのように分割するかを相続人どうしで協議し、その結果を書面にまとめたものです。
遺言公正証書との違いは、被相続人ではなく相続人が作成し、被相続人の意向を考慮せずに作成することです。こちらも、トラブルになりやすい遺産分割協議書の証拠能力を担保できることから、公正証書にするメリットは大きいでしょう。
4-3 死因贈与公正証書
死因贈与とは、贈与者が死亡することによって履行される贈与契約です。生前贈与とは異なり、契約は生前に行いますが贈与は死後に発生します。死因贈与契約は口約束でも有効ですが、相続人がいる場合は紛争の原因となりやすいため、公正証書にすることで契約の存在を確実に証明できます。
死因贈与が遺贈と異なるのは、財産を受け取る人の意思が介在しているかどうかです。遺贈はあくまで「財産を贈与する」という一方的な意思表示なのに対し、死因贈与は双方同意のもとで行われます。
4-4 離婚給付公正証書
離婚給付公正証書は、夫婦の離婚に際してのさまざまな取り決めを公正証書にしたものです。離婚による給付内容は、離婚協議書などを使って当事者間で取り決めることが一般的ですが、より確実な履行のためには公正証書として残したほうがよういでしょう。
内容としては、離婚時の慰謝料や財産分与、子供の親権や面会交流の頻度などを定めます。
4-5 金銭消費貸借契約公正証書
お金の貸し借りに関する各種条件を定める「金銭消費貸借契約」を公正証書としてまとめたものです。公正証書にすることで、いつ誰がどのくらいお金を貸し借りしたのか、契約の存在を証明できます。
また、強制執行認諾文言を付与することで訴訟手続きを省略して財産を差し押さえることが可能なため、相手に心理的プレッシャーを与えられます。その分、いわゆる「借金の踏み倒し」にも遭いにくくなるでしょう。
4-6 債務承認弁済契約公正証書
債務承認弁済契約とは、すでに存在している債権・債務の存在を双方が承認し、支払い方法を定める契約です。例えば、不法行為によって発生した損害賠償の支払い条件を定める、口約束でお金を貸している場合に返済条件を明確化したいといった場合に利用されます。
この契約も公正証書にまとめることができ、契約の効力を担保できるため紛争の防止になります。
4-7 任意後見契約公正証書
任意後見契約公正証書は、任意後見契約を公正証書で書面にしたものです。
任意後見契約は、精神障害のある人や認知症の人など、法律行為の意思能力に欠くもしくは不足する人を守るために行われます。被後見人の代わりに任意後見人が意思決定をすることで、だまされて財産を失うなどの不利益を被ることを防ぎます。
任意後見では、元気なうちに認知症に備えておきたい場合などに、被後見人の意思で後見人を選択可能です。
任意後見人は、本人に代わって財産を使うことができるなど、非常に強い権利を持つことが特徴です。そのため、契約が被後見人の意思で行われたことを証明するため、公正証書により契約を締結しなければなりません。
5.公正証書の作り方と流れ
実際に契約書を公正証書にしたい場合はどうすれば良いのでしょうか。ここでは、公正証書の作り方と、完成までの流れを紹介します。
5-1 公正証書の内容を作成する
公証人は、契約を公正証書にすることは手伝ってくれますが、原則契約内容には触れません。そのため、公正証書にしたい契約の内容は自分でまとめておく必要があります。内容が分かればメモ書き程度でも問題ありません。
例えば、遺言を公正証書にしたいときは、財産の内訳と、それぞれどの相続人に継がせたいかまとめておきましょう。相手方がいる場合はそちらの同意も必要となります。
5-2 公証役場に予約をする
公証役場には、直接出向くのではなく予約が必要です。日本公証人連合会のWEBサイトに、全国の公証役場の住所と電話番号が掲載されているため、まずは連絡を取ってみましょう。
公証役場の面談は本人ではなく代理人が代わりに出席することもできます。必要に応じて弁護士などに依頼してみてください。
5-3 公証役場に出頭して手続きをする
公正証書作成の手続きは、公証役場で行います。公証役場での公正証書の作成の流れは、おおむね以下の通りです。
- 公証人による面談(内容の確認)
- 草案をもとにした公正証書の作成
- 公証人による内容の読み上げまたは閲覧
- 公証人と当事者・証人の署名
- 公正証書の原本の作成
出頭する際は、作成した契約書の草案と身分証明書、印鑑(必要に応じて実印)などが必要です。作成する公正証書の種類によって必要書類は異なるため、予約の際に質問したほうがよいでしょう。
5-4 手数料の支払と公正証書を受け取る
公正証書を作成したら、最後に所定の手数料を支払い書面を受け取ります。作成した公正証書の原本は公証役場に20年間保管され、必要に応じて再発行を受けられます。なお、契約の当事者に交付されるのは謄本です。謄本を受け取ったら作成手続きは完了となります。
6.公正証書の作成に弁護士は必要?
公正証書の作成は当事者のみでも可能ですが、弁護士へ契約内容の確認や立ち会いを依頼することをおすすめします。
公証人は公正証書の作成をサポートしてくれますが、その仕事はあくまで中立の立場での契約の不備を防止することです。原則契約の内容には関与しないため、自分に不利な内容の契約であっても助言はしてくれません。
知らずに不利益を被ってしまう可能性もあるため、草案を作成する際に弁護士に相談したほうが確実です。
また、公正証書を作成する時点ですでに相手方と紛争に突入している、その寸前であるというケースも少なくありません。冷静に顔を合わせることができないなら、弁護士を代理人として選任しておいた方が精神的負担は少なく済みます。平日に仕事を休む必要もありません。
このように、公正証書の作成について弁護士に相談するメリットは大きいでしょう。有利に契約したい、面倒な手続きを一任したい場合は検討してみてください。
7.離婚や遺言作成は公正証書にしたほうが安心
公正証書は、公証人の立ち会いのもと作成した契約書のことで、公的な信用が高く契約をなかったことにされるリスクが少ないというメリットがあります。強制執行の根拠である債務名義としての効力を付与できるため、訴訟の手続きを省略して差し押さえが可能です。
そのため、離婚の取り決めや遺言の作成などでは、公正証書を作成すると安心でしょう。ただし、不利な契約に合意しないために、弁護士に相談のうえで内容を決定することをおすすめします。
ライズ綜合法律事務所は、公正証書の作成や関連する紛争の解決をサポートしております。経験豊富な弁護士が多数在籍していますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。