1.自己破産の概要
自己破産を検討する際は、自己破産が自分に適した債務整理の方法であるか把握しておく必要があります。
そこでまずは、自己破産という制度の概要について説明します。
なお、自己破産についての詳細は下記の法律コラムページでも紹介しています。
債務整理とは?3種類のメリット・デメリットや生活への影響を解説
1-1 自己破産とは破産法に規定されている債務整理の方法
債務整理とは、一言で説明すると「法的手段または交渉を通じて借金問題を解決する方法」です。
債務整理のうち、自己破産とは破産法に規定された方法で、裁判所に申し立てることで借金を帳消しにする手続きです。
自己破産は、破産法に規定されている債務整理の方法です。裁判所に自己破産を申し立て、免責許可決定(債務を免除するという裁判所の決定)が下りると、(破産法所定の非免責債権を除いて)借金の支払い義務がなくなります。
自己破産には同時廃止事件・管財事件・少額管財事件という3種類の手続きがあります。このうち、どの手続きが適用されるかは裁判所が債務者の財産状況などから判断します。
1-1-1 同時廃止事件
財産がない場合の手続きです。同時廃止の手続き開始が決定されると、同時に破産手続きが終了(廃止)となります。財産を清算する工程がないため、予納金(手数料)が安く短期間で終了します。個人債務者における自己破産手続の多くが同時廃止事件です。
1-1-2 管財事件
まとまった財産がある場合の手続きです。財産の管理・調査と清算を行う「破産管財人」の選出が必要であり、同時廃止事件と比べて予納金が高くなります。
1-1-3 少額管財事件
少額の財産がある場合の手続きです。管財事件と比べ対象となる財産が少なく、破産管財人の負担が軽い分、予納金も安くなります。
少額管財事件では弁護士に依頼するため弁護士費用が発生します。しかし、弁護士は破産管財人が行う業務の一部を引き受けることで予納金から支払われる破産管財人の費用を抑えることができます。
また、弁護士が代理人を務めることで、事件の内容次第では破産手続きの終了に至る期間を短くすることも期待できます。
2.自己破産のメリット
自己破産と聞くと、マイナスのイメージを抱いてしまう方が多いのではないでしょうか。
たしかに自己破産にはデメリットもありますが、破産者本人の状況次第ではデメリットを上回るメリットがあります。
ここでは、自己破産のメリットについて説明します。
2-1 借金を払う必要がなくなる
免責許可決定が下りると、決定以降は一部の債務を除いて借金を払う必要はありません。これにより、自己破産後に得た収入を借金の返済に充てる必要がなくなります。
自己破産をすることで、借金が無くなった状態で新たな人生を始めることができるのです。
2-2 債権者からの取り立てや強制執行がなくなる
支払い義務がなくなるため、督促や強制執行などの取り立ても中止されます。もし督促があっても応じる必要はありません。
強制執行とは裁判所の手続きを経て、銀行口座や給与を強制的に差し押さえる手続きのことです。
なお、自己破産の申立て前は強制執行を止めることはできません。破産申立を行うことで止められるという点に注意してください。
2-3 最低限の生活を送るための財産は残せる
自己破産は債務弁済義務を帳消しにする代わりに、財産のほとんどが借金返済のために換価・処分されます。
ただし、生活に必要な財産は残すことができます。例えば、次のようなものは自己破産の際に換価・処分の対象とされません。
- 生活に必要な寝具、家具、衣服など
- 生活に必要な食料や燃料
- 20万円以下の預貯金
- 99万円以下の現金
- 仏像や位牌などの祭祀具
- 裁判所が自由財産として拡張を認めた財産
3.自己破産のデメリット
ここまで自己破産のメリットを紹介しましたが、自己破産を検討するうえではデメリットについても知っておく必要があります。
ここでは、自己破産のデメリットについて説明します。
3-1 クレジットカードやローンが約5年~7年利用できなくなる
金融機関は、個人信用情報機関を通じて個人の信用情報を共有しています。
自己破産すると、個人信用情報機関に事故情報が登録され、いわゆるブラックリストに掲載されることになります。
こうなると、原則として手続き終了から約5年~7年は新たなローン契約やクレジットカードの発行が難しくなります。
3-2 価値のある高額の財産は清算される
上述の通り、自己破産しても生活に最低限必要とされる財産は没収されません。
しかし、自動車や不動産などの財産は、債務の清算に充てられるため換価・処分の対象となる可能性があります。
また、20万円を超える預貯金や99万円を超える現金、そのほか換価価値のある財産も清算され、借金返済に充てられます。
3-3 官報(国の機関紙)で公告される
官報は国の発行する機関紙で、インターネットで誰でも閲覧することができます。主に士業など法律の専門家などが見るもので、一般の方が閲覧することはほとんどありません。
自己破産すると、官報にその事実と破産者の「住所」「氏名」「事件番号」が掲載されます。これにより、もし官報を見た勤務先や知人・親族などが見ることがあれば、経済状況を知られる可能性があります。
3-4 一部の職業に就くのに制限がかかる
自己破産を申立て免責許可決定が確定するまでの期間は、以下の職業に就くことに制限がかかることがあります。
- 弁護士などの士業
- 公証人など一部の公務員
- 警備員
- 保険の外交員
- 貸金業
- 古物商 など
なお、自己破産してもそれを理由として士業などの資格が剥奪されることはありません。
3-5 免責されない債務がある
自己破産したとしても、すべての債務が帳消しになるわけではありません。免責対象にならない債務には、以下が挙げられます。
- 税金
- 罰金の支払い義務
- 破産者に対する損害賠償請求権
- 婚姻費用、養育費
- 破産手続きの過程で、破産者が悪意で債権者名簿に記載しなかった方からの債務
- 雇用している使用人が有する給与支払いなどの請求権、預かり金の返還請求権
3-6 保証人が一括返済をしなければならなくなる
自己破産した・していないに関係なく、保証人になっていない限り債務者の親族や知人が債務の弁済義務を負うことはありません。
しかし保証人がいる中で自己破産すると、その保証人が弁済義務を負うことになります。保証人の債務は当然に免責にはなりません。主債務者(破産者)が破産をするとなると、保証人に請求がいくことになります。
この場合、保証人には分割による返済が認められず、一括返済を求められることが一般的です。
もし保証人が返済できない場合、保証人自身の自己破産または個人再生を検討する必要が出てきます。
4.自己破産ができる条件
自己破産はメリットがある債務整理の方法ですが、誰にでも認められるわけではありません。
ここでは、裁判所に自己破産が認められるための条件について説明します。
4-1 自己破産ができる方
自己破産ができる方とは、主に以下の通りです。
- 債務が支払えない
- 免責不許可事由ではない
- 非免責債権ではない
この3つの条件について、詳しく見ていきましょう。
4-1-1 債務が支払えない
自己破産するためには、裁判所から債務の返済が不可能である「支払不能」と認められる必要があります。
裁判所は負債総額や借金をした理由だけではなく、債務者の職業・年齢・収入・財産や生活の状況・健康度などを総合的に考慮して支払不能の状態にあるか判断します。
支払不能にあると認められると、主債務者(申立人)を破産者として破産手続開始決定がされます。
4-1-2 免責不許可事由ではない
著しい浪費やギャンブル、株や先物取引など投機的な金融取引などが原因の借金は「免責不許可事由」に該当し自己破産は認められません。
また、裁判所の破産手続きに関する調査で説明を拒否したり虚偽の説明をしたりした場合や、財産を隠した場合、関係者の職務を妨害した場合も同様です。
自己破産は、債務が免責不許可事由に該当しないことが前提です。
4-1-3 非免責債権ではない
自己破産によって免責を受けたい債務が上述した税金や損害賠償請求などの非免責債権の場合、自己破産をしたとしても返済義務は残るため、自己破産は認められません。
非免責債権と免責不許可事由は法的に別物とされています。そのため、非免責債権に該当するか否かの判断は自己破産を取り扱う裁判所(破産裁判所)ではなく、一般的な民事事件を取り扱う裁判所が行います。
4-2 自己破産できない方
自己破産をしたくてもできない方は、主に以下が該当します。
- 債務が少なく返済能力がある
- 制限を受ける職業に就いている
- 予納金が支払えない
上記のいずれかに該当する場合は、自己破産以外の債務整理を検討する必要があります。
この3つについて、詳しく見ていきましょう。
4-2-1 債務が少なく返済能力がある
自己破産するためには、債務者の収入・財産に比べて債務額が大きく、どのような手を尽くしても支払不能と裁判所に認められなければなりません。
したがって、債務者が債務を返済するための十分な収入や高額な財産、あるいは債務者に返済のための援助ができる親族などがいる場合は、債務者に返済能力があると見なされる場合があります。
4-2-2 制限を受ける職業に就いている
上述した弁護士などの士業や一部の公務員、警備員、保険の外交員、貸金業、古物商などに就いている方は、自己破産を申し立てると手続きが終了して復権するまでの間は職業制限がかかり仕事を続けることができません。
債務整理手続きの期間中も上記の仕事を続けたい方は、自己破産を申し立てることはできないため注意が必要です。
4-2-3 予納金が支払えない
予納金とは、自己破産の手続きを申し立てる際に裁判所へあらかじめ支払う費用です。納付された予納金は、破産申立手数料や官報公告費などに使われます。
同時廃止事件の場合、予納金は1万円~3万円程度です。一方で管財事件の場合、破産管財人への費用が予納金から支払われるため50万円以上になることもあります。
したがって自己破産を検討する際は、あらかじめ予納金を積み立てておくことや親族などから援助してもらうなどの対策が必要です。
5.自己破産の手続きの流れ
これまで説明した自己破産ができるための条件を踏まえ、ここからは自己破産の手続きの流れについて説明します。
自己破産には同時廃止事件、管財事件、少額管財事件がありますが、この3種類には手続きに大きな違いはありません。
裁判所に申し立て所定の手続きを経て、同時廃止事件であれば免責許可決定、管財事件または少額管財事件であれば破産手続終結決定または破産手続廃止決定が出ることで手続きは終了します。
自己破産の手続きの流れは以下の通りです。
- 弁護士へ相談・依頼
- 各債権者に弁護士が債務者の代理人となったことを知らせる受任通知を送付
- 自己破産を申請する際に必要な破産手続開始及び免責申立書など書類の準備・作成
- 裁判所にて面接(債務者審尋)
- 破産管財人による財産の調査と価値がある財産の売却
- 免責許可決定、破産手続終結決定または破産手続廃止決定
6.自己破産を弁護士に依頼した場合の費用の目安
自己破産に必要な条件と手続きを知ると、裁判所が関与する点やその専門性の高さから、自己破産は自分で進めるよりも弁護士に依頼した方がよいと考える方は多いと思います。
弁護士への依頼を検討する際に、まず気になるのが費用でしょう。自己破産事件を弁護士に依頼したときにかかる、裁判所への支払いを含めた費用の大まかな目安は以下の通りです。
弁護士費用 | 30万円~50万円程度 |
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裁判所費用(予納金) | 1万円~50万円 同時廃止事件:1万円~3万円 管財事件:50万円以上 少額管財事件:20万円程度 |
収入印紙代 | 1,000円~1,500円 |
郵券(郵便切手)代 | 3,000円~5,000円 |
費用総額 | 約30万円~100万円程度 |
弁護士に依頼してから手続きが完了するまでの期間は、案件の内容にもよりますが概ね6ヶ月~1年程度を見込んでください。
7.自己破産に関するよくある質問/生活面の注意点
自己破産することで債務の返済義務から解放されれば、借金の無い新たな人生を送ることができます。
とはいえ、自己破産した事実は公的にも私的にも残るため、その後の生活に影響を及ぼさないとも限りません。
ここでは、自己破産した後の注意事項やよくある質問事項を紹介します。
なお、下記のページにもQ&Aを記載していますので、あわせてご確認ください。
7-1 2回目の自己破産はできますか?
2回目の自己破産は可能です。
ただし、自己破産を2回以上するためには以下の条件があります。
- 1回目の自己破産から原則7年以上経過していること
- 最低限の生活費が足りないなど、やむを得ない事情があること
2回目の自己破産は、1回目よりも裁判所の審査が厳しくなることが一般的です。そのため、生活費用の見直しや裁判所の債務者審尋の際はより一層誠実な対応が求められることになります。
もし2回目の自己破産が認められない場合は、決定を不服として即時抗告するか任意整理や個人再生などほかの債務整理を検討しなくてはなりません。
自己破産以外の債務整理の方法は、下記の法律コラムページでも紹介しています。
債務整理とは?3種類のメリット・デメリットや生活への影響を解説
7-2 自己破産は会社にバレますか?もしバレたら退職しなければならないでしょうか?
自己破産した事実を裁判所や債権者、もちろん弁護士も会社に通知することはないため、基本的に会社に知られることはないといってよいでしょう。債務整理については家族以外の第三者に申告する義務がなく、就職に影響はありません。
なお、会社にバレたとしても、労働者の自己破産は労働契約法第16条に定める解雇事由の「合理的かつ論理的で、社会通念上妥当」に該当しないため、自己破産を理由として解雇されることはありません。もちろん自分から退職を申し出る必要もありません。
ただし、以下のような場合は会社にバレる可能性があります。
- 会社から借入がある場合
- 会社を通じて労働組合や共済会などから借入がある場合
- 退職金証明書を会社から取り寄せた場合
- 資格制限で一定期間仕事ができなくなる場合
- 会社が官報などで自己破産した方の情報を確認をしている場合
また、自己破産の場合には、必要に応じて裁判所などから書類が郵送されることがあるため、郵便物の管理には注意が必要です。
7-3 自己破産すると家族に影響がありますか?離婚も検討したほうがよいのでしょうか?
自己破産したとしても、家族名義の財産が清算対象になることはありません。
自分が自己破産したら家族が返済しなければならない、家族に迷惑がかかってしまうと考えている方は多いようですが、法的にはまったくその必要はないのです。
ただし、家族が破産者本人の保証人になっている場合は、その家族が破産者本人に代わり保証人として債務を返済する義務を負います。
配偶者が保証人になっていた場合は、たとえ破産者本人と離婚したとしても保証人としての債務返済義務が消滅するわけではありません。
なお、配偶者の自己破産は民法第770条に定める離婚理由に該当しません。したがって、自己破産を理由に離婚する必要はないのです。
それでも自己破産とあわせて離婚を検討する場合は、タイミングや手続きなどについて弁護士と相談することをおすすめします。
7-4 無職でも自己破産はできますか?
無職でも自己破産は可能です。
ただし、自己破産するためには上述したように下記の条件があります。
- 債務の支払いが不可能
- 債務の理由が免責不許可事由に該当しない
- 債務が非免責債権ではない
また、自己破産するためには目安ですが上述した通りの費用がかかります。もしお金を準備することが難しければ、自治体の支援制度の活用や親族からお金を工面してもらうなどの方法もあります。
なお、生活保護受給者は予納金や弁護士への依頼費用が免除されます。
弁護士に依頼したい場合は、相談料無料・弁護士費用の分割払いに応じてくれる弁護士事務所に相談することもおすすめです。
7-5 住宅や自動車は手放さないといけないでしょうか?
自己破産するうえで、ローンの有無に関わらず住宅や土地は財産処分の対象となるため、原則手放す必要があります。
もし家族がどうしても住み続けたい場合は、裁判所が認める適正な価額で家族が買い取り、売却代金を債務の返済に充てるなどの対策が必要です。
自動車はローンが残っていない場合と残っている場合で異なります。
ローンが残っていない場合、査定額が20万円以上と査定される場合は原則として処分の対象となります。一方で、20万円未満の場合は原則として手放さずにすみます。
ローンが残っている場合、ローンを完済するまで自動車の所有権を信販会社に留保している(所有権留保)ことが多いため、信販会社に自動車を引き渡す形で処分することになります。
なお、住宅と同様に親族が自動車を買い取る形で残すことができる場合があります。
8.自己破産は借金問題の最終手段!解決するために弁護士に相談しよう
自己破産は借金をほぼ帳消しにできるというメリットがある一方で、財産のほとんどを手放さなければならないというデメリットもあります。
また、自己破産では法律の知識に加えて必要書類の作成や裁判所・債権者との連絡などの事務手続きが必要で、慣れない方には非常に手間となります。
自己破産を検討するときは、弁護士に依頼することがおすすめです。弁護士に依頼すれば一連の事務手続きを任せることができるうえに、今後の生活基盤を立て直すためのサポートも受けられます。
ライズ綜合法律事務所は、自己破産をはじめとした債務整理に精通したプロフェッショナルが多数在籍しており、5万件以上の相談実績を誇っています。また、匿名・無料で診断・相談できる借金無料減額診断を提供しています。
自己破産をすべきかお悩みの方、自己破産の手続きを弁護士に依頼したいとお考えの方は、お気軽にご相談ください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。