1.財産分与の概要
財産分与をスムーズに進められるよう、そもそもどのようなものなのか、基礎知識を確認しておきましょう。
1-1 財産分与とは
財産分与とは、婚姻中に夫婦で築いた財産を、離婚の際にそれぞれに分配する作業のことです。民法では、離婚の際に相手方に財産の分与を請求できると定められており、広く行われています。
離婚の財産分与は、その性質から3種類に分けることができます。
1-1-1 清算的財産分与
一般的な目的で行われる財産分与です。婚姻中の共有財産を清算し、夫婦間の協議のもとそれぞれに帰属させます。
共有財産かどうかの判断には、離婚前の時点でどちらの名義になっているかは関係ありません。また、離婚時の慰謝料請求とは別物なので、離婚原因を作った配偶者(有責配偶者)からも財産分与を請求できます。
1-1-2 扶養的財産分与
年齢や健康状態など、離婚する際の個々の事情によっては、離婚後の生活が苦しくなることもあるでしょう。こうした場合に、もう一方の配偶者が経済的に安定するまで、一定額の生活費を補助することがあります。一般的には、夫から妻に対して支払われることが多いです。
ただし、法的には離婚した元配偶者の扶養義務はありません。支払うかどうかや、詳細な条件は話し合いが必要です。
1-1-3 慰謝料的財産分与
離婚原因を作った側が、財産分与を慰謝料支払いの一種として行うことがあります。
本来、慰謝料と財産分与は別物であり、別に金額を算出するものです。ただし、慰謝料としての性質を持たせるため、財産分与の割合を変更する、金銭以外の財産を渡すといったことは珍しくありません。
例えば、不倫をした夫から妻に預貯金を多めに渡したり、夫婦で購入した不動産や自動車を離婚に伴い妻の名義にしたりします。
2.財産分与の対象となる財産
財産分与の際に対象となるのは、夫婦の共有財産です。どちらが稼いだお金で買ったかや、誰の名義なのかに関係なく、結婚してから夫婦で築き上げた財産は共有財産です。ただし、離婚前でも別居してから取得した財産は対象になりません。
何が分配する財産に該当するのか、詳しく紹介します。
2-1 家などの不動産
婚姻期間中に購入した一軒家やマンションなどの不動産は、夫婦どちらかの単独名義であっても共有財産です。
財産分与の準備をする際は、まずは不動産業者に査定を依頼し、おおまかな価値と売却の見込み価格を知らなければなりません。
自宅の財産分与は、離婚時の住宅ローンの残債によって方法が異なります。
2-1-1 住宅ローンが残っている場合
住宅ローンの残債がある場合、売却価格が残債より高いかどうかで分配方法が変わります。
残債より売却価格が高い(アンダーローン) | 売却価格からローンの残債や経費を控除し残った金額を夫婦で分ける。 |
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売却価格より残債が高い(オーバーローン) | 財産分与の対象とならない。家の処遇は夫婦で話し合う。 |
オーバーローンの場合、名義人がローン支払いながら住み続けるか、夫婦で売却価格からの不足分を自己資金で補って売却するかなど、話し合いを行うことになります。
夫婦の共同名義でローンを組んでいる場合などは、家をめぐり夫婦間のトラブルに発展することも多いです。スムーズに解決するために離婚問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
2-1-2 住宅ローンが残っていない場合
住宅ローンを完済している家については、大まかな価値を算出して金額に応じて分配を行います。
一般的には、売却代金を夫婦で分ける、家に住み続ける方が出て行く方に家の価値の半額を支払う、といった方法で清算を行うことが多いです。
2-2 自動車
自動車を財産分与する場合も、基本的な考え方は不動産と同じです。この場合も、自動車ローンの有無や残債の金額によって方法が異なります。
2-2-1 自動車ローンが残っている場合
自動車ローンが残っている場合、ローン残高と車の価値によって以下のように対処が違います。
ローン残高より車の査定額が高い | 車の価値から、ローン残高を差し引いた金額を分配します。車を残したい場合、相当額の金銭で支払うか、他の財産で調整します。 |
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車の査定額よりローン残高が高い | 財産とはみなされません。名義人がローンを支払い続けるか、売却するか話し合いが必要です。 |
査定額をローン残高が上回っているケースでは、ローンを一括返済するか、売却代金でローンを完済するなどといった対応が求められます。この場合は、自動車ローンの借り入れ元(自動車販売店やローン会社)に相談してみる必要があります。
2-2-2 自動車ローンが残っていない場合
自動車ローンが残っていない場合は、自動車の価値に応じて清算を行います。車を売却して代金を分配するか、車を取得したい方が、もう一方に金銭で相当分を分配することが一般的です。
2-3 現金・預貯金
現金や預貯金については、婚姻期間中に蓄えたものが財産分与の対象です。どちらの名義かは関係ありません。
いわゆる「へそくり」や、親の収入が元になった子ども名義の預貯金がある場合は、そちらも清算が必要です。
財産分与の割合は、半分ずつになるよう調整することが一般的ですが、夫婦間で合意があればどちらかが多く取得することも可能です。
2-4 家具や家電など
結婚してから購入した家具や家電なども、共有財産に含まれます。テレビは夫、冷蔵庫は妻、といった具合に現物を分けるか、売却して現金化する方法が考えられます。
夫婦それぞれの希望で分けた結果明らかに価値が偏る場合、差額を現金で清算することも可能です。
家具や家電の財産分与も、それぞれが価値の半額相当を取得することが基準となりますが、協議によって割合を変更することもできます。
2-5 株や有価証券
結婚してから購入した出資金や株、金融商品なども財産分与の対象です。現物を分けるか、現金化して清算することで財産分与を行います。
どちらか一方が引き続き保有したい場合、代償金を支払って清算できます。代償金の金額は特に決まっていないため、株式の価値の算定方法や、価値を確定させる基準時を話し合って算出しましょう。
2-6 保険の解約返戻金
結婚後に加入した保険の解約返戻金も、分配する財産の一つです。例えば、解約返戻金付きの生命保険、学資保険、自動車の任意保険などが対象です。
具体的な分配金額は、離婚時の解約返戻金を参考に計算します。離婚によって解約する場合は、解約返戻金そのものを分けることになります。一方、離婚後もどちらかが継続して保険に加入し続ける時は、離婚時点での解約返戻金の相当額が清算の基準です。
2-7 退職金
退職金も財産分与の対象ですが、すでに受け取っているか否かで扱いが異なります。
退職金を受け取っている | 結婚してからの勤続年数に応じた金額が財産分与の対象。 別居期間中に発生したものやすでに使っている場合は対象外。 |
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退職金を受け取っていない | 将来的に受給の可能性が高い場合は一部財産分与の対象になることがある。 |
退職金をまだ受け取っていない場合の計算方法は、例えば離婚時点で自己都合退職した時の金額を基に算出する方法などがあります。ケースによって適した計算方法が異なるため、離婚に詳しい弁護士に相談し、実情に合った方法を採用するのが良いでしょう。
2-8 年金
年金は、財産分与とは異なる「年金分割」という制度で離婚時に分割できます。年金分割には、合意分割制度、3号分割制度と呼ばれる2種類の方法があります。
分類 | 概要 | 条件 |
---|---|---|
合意分割制度 | 婚姻期間中の厚生年金の
・標準報酬月額 を夫婦間で分割する制度 |
・婚姻期間中に厚生年金に加入していた ・協議または裁判で按分割合を定めている ・離婚から2年経っていない |
3号分割制度 | 国民年金の第3号被保険者(※)の請求により、婚姻期間中の相手方の
・標準報酬月額 を2分の1ずつ夫婦間で分割する制度 |
・婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間がある ・離婚から2年経っていない |
※厚生年金加入者に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者。
年金分割を受けると、将来受け取る年金の金額が自動的に調整されます。
なお、分割の対象となるのは、婚姻期間中の厚生年金の納付実績部分です。婚姻前の納付実績部分や、離婚後のものは対象となりません。
※参考:離婚時の年金分割|日本年金機構
3.財産分与の対象とならない財産
夫婦それぞれの「特有財産」は、財産分与の対象となりません。特有財産は、独身時代から保有している財産や、婚姻期間中でも自分で取得した財産のことです。例えば、以下は特有財産に該当します。
- 独身時代の預貯金
- 独身時代に購入した車や不動産
- 結婚後に贈与や相続によって取得した財産
- 婚後にギャンブルなど自分のために借りた借金
- それぞれが取得した別居後の財産
ただし、特有財産に該当するものであっても、配偶者による協力や貢献が認められる場合は財産分与の対象になることもあります。
4.財産分与の割合
財産分与の割合は、基本的には2分の1です。これは、どちらかの収入の割合に関係なく定められています。
どちらかが専業主婦(夫)だった場合も、収入を得るには配偶者の生活への協力が不可欠と考えられるため、原則的には収入差によって財産分与の割合が変化することはありません。
ただし、夫婦間の合意によって割合を変えることはできるため、個別のケースによって異なります。
また、開業医や会社の取締役を務めているなど、夫婦どちらかの能力によって高額な財産が形成された場合などは、割合が修正されることもあります。
5.財産分与を決定する方法
実際に財産分与をする際は、どのように方法や割合を決めれば良いのでしょうか。財産分与の際の手続きの詳細を紹介します。
5-1 夫婦で話し合い(協議)をする
財産分与の金額を定める上では、夫婦間の協議による合意が基本となります。事前に清算の対象となる財産をリストアップしておき、必要に応じて価額を算出してみましょう。
夫婦で希望割合が異なる場合や、協議がまとまらない時は、トラブル防止のために弁護士に同席してもらうことをおすすめします。取り決めた内容は、離婚協議書にまとめておきましょう。
財産分与に際し、相手方が財産分与を反故にする、払い渋るといった恐れがある場合は、支払い内容を定めた書面を公正証書にすることも可能です。
公正証書には、裁判などの手続きを省略して強制執行が可能となる「強制執行認諾条項」を盛り込むことができるため、支払いを促す強い効果があります。
5-2 離婚調停を申し立てる
当事者間だけでは合意に至らない場合は、家庭裁判所を挟んで話し合いを行う「調停」を行うことができます。
離婚調停は、離婚の条件がまとまらない時や、子どもの親権者が決まらない時などに利用できる手続きです。家庭裁判所の調停委員にお互いの言い分を伝え、妥協点を探ります。
離婚など夫婦間のトラブルは、原則的に調停が優先されるため、いきなり訴訟を起こすことはできません。
5-3 裁判所の審判を仰ぐか離婚訴訟を起こす
離婚調停で財産分与の内訳に合意できない場合、裁判所の審判によって判断を仰ぐことができます。審判の内容に納得できず、離婚調停が不調に終わった場合、離婚訴訟によって決着をつけることも可能です。
離婚訴訟の判決があれば強制執行を行えるため、配偶者が財産分与を渋る場合も、給与や財産から支払わせることができます。
調停や裁判で有利に進めるために、弁護士のサポートを検討すると良いでしょう。
6.離婚の財産分与で受け取れる金額
離婚の財産分与で受け取れる金額は、夫婦の収入によって大きく異なるため一概にはいえません。しかし、裁判所はこの調査についての統計データを出しており、ある程度参考にすることができます。
令和3年の司法統計年報によると、財産分与を受け取った人の金額別の割合は以下の通りでした。
- 100万円以下:22.2%
- 200万円以下:12.4%
- 400万円以下:12.5%
- 600万円以下:8%
- 1,000万円以下:10.7%
- 2,000万円以下:9.2%
- 2,000万円以上:5%
- 算定不能・総額決まらず:19.9%
※小数点第2位以下四捨五入
財産分与の金額は個別の事情によって異なるため、具体的な金額については弁護士に相談して確認することをおすすめします。
出典:令和3年 司法統計年報(家事編) 第27表 「離婚」の調停成立又は調停に代わる審判事件数|最高裁判所事務総局
7.財産分与に関するよくある質問/対処法
離婚時の財産分与について、よく寄せられる質問と、対処法をまとめました。多くの人が疑問に感じるポイントをピックアップしていますので、財産分与を検討する際のヒントになります。ぜひ参考にしてください。
7-1 相手の隠し財産を開示してもらうことはできますか?
【回答】
相手が財産を隠している可能性がある場合や、開示に応じない時は次のような方法があります。
開示請求 | 弁護士から配偶者に財産の内訳を公開するよう請求する。 |
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弁護士会照会制度の利用 | 弁護士会を通じて、照会先(官公庁や企業等の各団体)に照会をして、報告を求める。 |
調査嘱託 | 裁判所を通じて、官公庁や企業等の各団体に財産の有無の調査を依頼して、回答をさせる。 |
【対処法】
法的に、離婚時の財産分与請求は2年以内に行わなければなりません(令和6年8月現在の情報。)。ただし、財産隠しが発覚した場合は、2年経過していても財産分与を求められることがあります。まずは、離婚分野に強い弁護士に依頼し、配偶者の財産の調査について相談してみましょう。
7-2 財産分与をすると税金はかかりますか?
【回答】
預貯金など、金銭の財産分与に対しては税金はかかりません。
【対処法】
不動産の財産分与に対しては、金額や状況によっては固定資産税などの支払いが発生します。また、分与された財産が著しく多い場合は贈与税の対象となることもあります。
課税対象になるか不安な場合は、弁護士に相談してみましょう。
7-3 勝手に財産を処分されそうになったらどうすればいいですか?
【回答】
離婚時に財産分与が可能なのは残っている財産だけなので、配偶者に勝手に財産を処分されると受け取れる金額が小さくなる可能性があります。
【対処法】
家庭裁判所に対し、財産の処分を禁止する「審判前の保全処分」の申し立てが可能です。認められれば、相手方は勝手に財産を処分できなくなるため、離婚協議がまとまるまで財産を守ることができます。
7-4 離婚後に財産分与をしたいのですが、いつまでに請求すればいいですか?
【回答】
離婚から2年以内に財産分与を請求しましょう。
【対処法】
離婚の財産分与は2年以内に行うよう民法に定められています(令和6年8月現在の情報。ただし、令和6年5月に制定された民法改正により離婚の財産分与を請求できる期間が5年以内に延長されました。同改正は2年以内に施行されますが、具体的な施行日は現時点では未定です。)。離婚協議の際に、離婚条件の一つとして財産の分配についても話し合っておくと良いでしょう。
8.財産分与の内容は一般的に話し合い(協議)によって決まる!トラブルを防ぐためにも弁護士に相談しよう!
財産分与は離婚後も請求できますが、離婚から2年経過すると財産分与は受けられなくなります(令和6年8月現在の情報。)。まずは、離婚前に対象の財産をリストアップして証拠の資料をまとめ、話し合いの際にスムーズに分配できるようにしましょう。
離婚協議の際はすでに夫婦仲が険悪になっており、勝手な財産処分や慰謝料の支払い拒否など、配偶者が非協力的なこともあります。トラブルを防止し、有利に離婚するためにも、弁護士に相談しておくことがおすすめです。代理人として、交渉や裁判所での手続き、書類作成の事務処理など、さまざまなサポートが受けられます。
ライズ綜合法律事務所は、慰謝料をはじめ離婚トラブルの対応に長けた弁護士が揃っており、豊富な知識で全国の相談者様をサポートしています。20万件以上の相談実績に裏打ちされた対応力で、有利に離婚できるようお手伝いが可能です。
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このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。