法律コラム

慰謝料請求

2024/09/04

別居中の生活費はもらえる?金額の相場や請求の仕方、対処法を解説

配偶者との夫婦仲が悪化し、別居したいと考えている場合でも「収入が少ないし一人で生活できないのではないか」という不安から、別居に踏み切れないケースは少なくありません。 夫婦の生活費は、同居中だけでなく別居中であっても双方に分担義務があります。無職の状態の別居や、子どもと一緒の別居で、十分な生活を維持できないのであれば、配偶者に生活費を請求できます。 ただし、別居の際の生活費をあらかじめ取り決めていないケースでは、トラブルに発展することも多いです。 この記事では、別居中の生活費に関する情報を紹介します。
・いくらもらえるのか
・何が生活費に含まれるのか
・いつまでもらえるのか
・相場はどのくらいなのか
・どうやって請求すれば良いのか
別居を検討している方に役立つ内容ですので、参考にしてください。
別居中の生活費はもらえる?金額の相場や請求の仕方、対処法を解説

1.別居中の生活費も夫婦で分担する義務がある

夫婦は、互いの生活を維持するための生活費を分担する義務があり、これは別居していても同じです。専業主婦(夫)も、生活費の分担を求める権利があり、配偶者は適切な金額を支払わなければなりません。

法律用語では、夫婦の婚姻期間中の生活費を「婚姻費用」と呼びます。

参考:第七百六十条(婚姻費用の分担)|e-Gov法令検索

 

2.「婚姻費用」とは何か?

婚姻費用は、夫婦が生活を維持するために必要な費用で、一般的に「生活費」のことです。本記事では以下、生活費と記載します。

民法には、夫婦双方に「同居・協力及び扶助の義務」があり、お互いの生活が維持できるよう、金銭面を含め助けなければならないと定められています。

別居している場合でも、同居している期間と同様の生活ができるよう、お互いを扶養しなければなりません。

なお、この決まりはあくまで婚姻期間中に適用されるものなので、離婚後の生活費を請求することはできません。

※参考:第七百五十二条(同居、協力及び扶助の義務)|e-Gov法令検索

2-1 別居中に生活費がもらえるケースともらえないケース

先ほど、民法には生活費を分担するよう規定が設けられていると説明しましたが、実は生活費はもらえるケースともらえないケースがあります。

どのような場合にもらえるのか、また受け取れないのか、詳しく解説しましょう。

2-1-1 別居中に生活費がもらえるケース

別居したことにより、夫婦の生計が別になる場合は生活費を請求できます。これは家庭内別居の場合も同様です。

2-1-2 別居中に生活費がもらえないケース

ただし、夫婦の関係を悪化させ、別居に至る理由を作った方(有責配偶者)が生活費を請求する場合は、認められないケースがあります。

おもな要因は下記が挙げられます。

  • 配偶者への暴力
  • 不倫
  • 借金を作る

配偶者に対してこうした非行があると、有責配偶者とされる可能性があります。

ただし、子どもを連れて別居するのであれば、夫婦の生活費とは別に、子どもを育てるのにかかる費用の請求が可能です。

なお、自分の方が収入の多い立場であれば、逆に生活費を支払うこともあります。

参考:民法第七百五十二条(同居、協力及び扶助の義務)|e-Gov法令検索

 

3.別居中の生活費の内訳

一言で生活費といっても、どこまで請求して良いのか、何が生活費に含まれるのかわからない方も多いのではないでしょうか。

別居している間、配偶者に請求できる生活費に含まれる項目を詳しく見てみましょう。

3-1 食費や住居費など生活に直結する費用

自分と子どもが暮らしを維持するために必要な費用は、配偶者に請求できます。別居中のアパートの家賃や光熱費、日用品など、衣食住に必要なものが代表的です。

そのほか、配偶者が生活している家の住宅ローンを支払っている場合などは、そちらも含めることができます。

3-2 子どもにかかる費用

子どもを育てるのにかかる費用も、生活費の一部として配偶者に請求できます。学用品の購入や学校の費用、医療費、出産にかかる費用、冠婚葬祭費などが含まれます。

なお、この費用はあくまで「離婚前に子どもを育てるのにかかった費用」なので、離婚後に発生する「養育費」とは別です。

3-3 交際費や娯楽費

交際費や娯楽費が、生活費の一部として認められることもあります。世帯年収や保有資産、社会的地位など状況を総合的に判断し、常識の範囲内であれば請求が可能です。

3-4 ローン

配偶者が住宅ローンを負担している場合、返済額によっては請求できる生活費が減少します。

事前の取り決めで、「生活費を受け取る代わりに住宅ローンを配偶者が払う」と約束していた場合は生活費の請求ができないケースもあります。

3-5 弁護士費用

別居時に、生活費の支払いに関する手続き、離婚の手続き、慰謝料の請求などを弁護士に依頼していた場合、弁護士費用も配偶者に請求できます。

3-6 生活費の内訳から控除できるもの

別居中の生活でかかる費用のうち、配偶者の口座から直接引き落とされるものは控除されるため、請求できません。

例えば、スマートフォンの料金や子どもの塾の費用などを、配偶者の口座から引き落として支払っている場合は請求の対象から除外されます。

 

4.別居中の生活費はいつからいつまでもらえるのか?

別居に至ってから離婚が成立するまでの期間はケースバイケースです。一週間程度で離婚する場合もあれば、数年間話し合いが継続することもあるため「いつまで生活費を受け取れるのか」と不安を感じる方もいます。

生活費を受け取れる期間は、夫婦が別居を開始してから、離婚が成立するまで、または同居を再開するまでとなっています。

ただし、別居してから一定期間が経過した後に、過去にさかのぼって生活費を請求することはできません。そのため、別居前から生活費について話し合いをしておき、別居開始後に早めに生活費を請求することをおすすめします。

 

5.別居中の生活費の金額の決め方

別居中の生活費がいくらかは夫婦によって異なるため、どのくらい請求できるのか分からない方も多いです。

では、実際はどのように金額を決めて、どのくらい受け取ることができるのでしょうか。

5-1 婚姻費用算定表を基準にして決める

別居中に受け取れる生活費の金額については、裁判所が目安となる「婚姻費用算定表」を公開しています。必ずしもこの資料に従う必要はありませんが、調停や訴訟に発展した場合の参考にされるため、この内容に沿って金額を決めるケースも多いです。

婚姻費用算定表には、夫婦それぞれの収入や子どもの人数、年齢に応じていくつかパターンが用意されており、自分の家族に合った算定表を参照します。

【婚姻費用算定表の見方】

  1. 縦軸の義務者の年収と横軸の権利者の年収を確認
  2. 自分と配偶者の年収の行と列をマークする
  3. マス目が白黒で塗り分けされているので行と列が交差する部分をチェック
  4. 対象の部分の金額を確認する

例えば、以下の条件の場合、毎月の生活費(婚姻費用)の金額は次の通りです。

生活費を請求する方(権利者)の年収 250万円(給与収入)
生活費を支払う方(義務者)の年収 500万円(給与収入)
子ども なし
月額支払い金額(目安) 4~6万円

※参照:婚姻費用算定表(夫婦のみ)|裁判所

 

6.別居中の生活費の金額の相場

生活費は、夫婦それぞれの収入や子どもの人数などによって変わるため、一律の相場は決まっていません。参考までに、裁判所が公開している司法統計のデータを見てみましょう。

令和元年度の統計では、婚姻費用の月額としては、6万円以下、8万円以下、10万円以下、15万円以下の割合が高く、合計すると全体の約65%を占めます。

なお司法統計のデータは、調停や訴訟など裁判所を介して決まった内容に基づいています。夫婦間の自主的な協議による結果は含まれていません。

※参照:第26表 婚姻関係事件のうち認容・調停 生活費支払の取決め有りの件数|裁判

 

7.別居中の生活費を配偶者に請求する方法

別居中の生活費を配偶者に請求したい場合、手続きはどのように進めれば良いのでしょうか。請求のやり方と、支払われない場合の対処法を解説していきます。

7-1 まずは夫婦で話し合う

別居中の生活費の金額を取り決める際は、夫婦間の合意で定めた内容が最優先されます。まずは、夫婦で話し合い、妥当な金額を探ってみましょう。

生活費を請求する際は、別居後の生活にどのくらいかかるのかをシミュレーションする、上述の算定表を参考にするなどして、現実的な金額を話し合います。

口約束では反故にされる可能性もあるため、書面にまとめておくことをおすすめします。この時、書面を公正証書にしておくことも選択肢の一つです。

公正証書は、公証人の立会いのもと公証役場で作成した契約書のことです。強制執行認諾の文言を盛り込めば、訴訟などの手続きを省略して財産の差し押さえができるため、強い強制力を持っています。

きちんと支払われるか不安な場合は検討してみましょう。

7-2 内容証明郵便を送付して請求する

配偶者が話し合いに応じない場合、内容証明郵便で生活費を請求します。

内容証明郵便は、文書の内容と送付日、受取日、差出人、宛先の記録が残る郵便局のサービスです。生活費請求の書面自体に、支払いを強制する効果はありませんが、請求した事実を記録として残すことができます。

7-3 婚姻費用分担請求調停を申し立てる

当事者間の話し合いだけでは結論が出なかった場合、家庭裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立てることができます。

調停は、調停委員を介して話し合う裁判所の手続きです。指定の期日に裁判所に行けば、両者の言い分の聞き取りが行われ、折り合いがつくよう仲裁してくれます。生活費の金額面で話し合いがまとまらない場合は、過去の事例や算定表から、妥当と思われる金額を提案してくれます。

調停は個人で申し立てることもできますが、弁護士に依頼して代わりに出席してもらうことも可能です。

7-4 最終的には審判で決められる

婚姻費用分担請求調停で合意に至らなかった場合、調停は不成立となり審判に移行されます。審判では、調停の内容や資料に基づき、家庭裁判所が妥当と判断した金額が提示されます。

審判の結果に納得できなければ、高等裁判所に即時抗告し、審理を求めることが可能です。ただし、この手続きは審判の告知を受けた日から2週間以内に行わなければなりません。

審判の結果が確定すると審判書が発行されます。これは、強制執行の根拠となる「債務名義」と呼ばれる書類の一つです。配偶者が生活費を支払わない場合、裁判所で所定の手続きを経ることで、裁判を省略して財産を差し押さえることができます。

7-5 履行勧告や履行命令を利用する

調停などで支払いの内容を取り決めたにも関わらず、それが守られない場合は、裁判所の手続きを利用して支払いを促してもらうことが可能です。

手続き 内容 費用
履行勧告 家庭裁判所から義務を履行するよう促す手続き。強制力はない。 無料
履行命令 履行勧告に従わない場合に申し立てが可能。無視すると10万円以下の過料の対象となる。 500円(申立手数料)

利用には、調停など家庭裁判所の手続きを利用していることが前提となります。公正証書などを利用し、個別に履行勧告や履行命令のみを申し立てることはできません。

7-6 強制執行を申し立てる

強制執行は、調停や審判の結果に相手が従わない場合に、裁判所を通して強制的に義務を履行させるための手続きです。生活費を請求する場合、預貯金や給料を差し押さえることで回収します。

強制執行の申し立てには、確定判決や調停調書などの債務名義が必要です。債務名義の種類によっては、交付とは別に、執行文付与の申し立てが必要なケースもあるため、詳細な手続きの流れは弁護士に相談することをおすすめします。

 

8.別居中の生活費に関するよくある質問/対処法

別居中の生活費に関して、ライズ綜合法律事務所によく寄せられる質問を紹介します。

8-1 別居中の生活費が足りなくて困っています。どうしたらいいでしょうか?

【回答】
不足分の生活費を確保するには、さまざまな方法があります。

【対処法】
生活費が足りない場合、配偶者と協議して追加の支払いを求めることが可能です。この場合、不足の理由と金額を整理しておくと納得してもらいやすいでしょう。

そのほか、ひとり親家庭の支援制度や、公的支援を利用する方法もあります。児童手当の受給者が配偶者であれば、自分に変更することも検討できるでしょう。

いずれの場合も、弁護士に相談すると手続きや交渉がスムーズに進むため、事前に相談することをおすすめします。

8-2 一度決定した生活費は後から変更できますか?

【回答】
生活費の金額は夫婦の合意で決めるものですので、話し合いによって変更できます。

【対処法】
子どもの学費や入院など、合理的な理由があって生活費が不足しているのであれば、調停などで争いになった場合も増額が認められやすいでしょう。

追加の支払いを拒否される場合、弁護士に依頼し、内容証明郵便での請求や調停を行うこともできます。

8-3 共働きだからと支払いを拒否されています。生活費はもらえないのでしょうか?

【回答】
共働きの場合でも、夫婦の収入によっては生活費を請求できます。

【対処法】
裁判所が公開している婚姻費用の目安(算定書)に従う場合、婚姻費用を支払う側の方が収入が多ければ生活費を受け取ることは可能です。また、お互いに同程度の年収でも、請求者側で子どもを育てている場合などは、出費が増える分が婚姻費用に加算されます。

8-4 専業主婦は年収0円で計算されるのでしょうか?

【回答】
現在専業主婦(専業主夫)でも、働ける状況にあるとみなされた場合、厚生労働省策定の賃金センサス(賃金の統計調査)のパートタイマー程度の年収があるものとして、生活費の金額が定められることが多いです。

【対処法】
概ね年収100万~200万円程度に該当すると仮定し計算されます。ただし、高齢で働けない場合や持病がある場合などは、年収0円となります。障害年金など公的扶助を受けている場合、収入と見なされることがあるでしょう。

調停などで自分の状況がうまく伝えられず、働けると判定されると生活費が下がる可能性があるため、この場合は弁護士を代理人にすることがおすすめです。

 

9.婚姻関係が継続していれば別居中でも生活費はもらえる!弁護士の力を借りて適切な金額を受け取ろう!

夫婦には、相互に扶養する義務があるため、別居中であっても生活費は発生します。ただし、配偶者が支払いに応じない場合もあるため、調停など法的手続きによって解決しなければならないこともあります。

裁判所の手続きは自分でやることも可能ですが、配偶者とのトラブルを、仕事や子育てと両立させつつ解決するのは大きな精神的負担となるでしょう。専門知識も必要となるため、弁護士に相談することをおすすめします。


 

このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。

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