1.債務整理の基礎知識
まずは、債務整理とは何か、覚えておきたい基礎知識を紹介します。
1-1 債務整理とは
債務整理とは、一言で説明すると「法的手段または交渉を通じて借金問題を解決する方法」です。
民法上、「債務」は、相手方に「〇〇する(しない)義務」を指します。とくに、債務整理と呼ばれるケースでは、金銭消費貸借契約に基づき負担した債務(借りたお金の返済義務)が債務の一例です。
まずは、債務整理の方法や対象になる借金(債務)の種類について、概要を紹介します。
1-2 債務整理の対象となる債務
詳しくは後述しますが、債務整理の手段としては、以下のように3つの方法があります。それぞれ対象となる借金が異なるため、一例を紹介します。
【任意整理】
債権者との話し合いで、利息分の減額・返済回数の調整を行う方法です。おもに、以下の借金が対象となります。
- 銀行のカードローン
- 消費者金融からの借入
- クレジットカードの支払い
住宅ローンや自動車ローンは、債務整理ができないことはないものの、住宅に対する不動産担保権の実行(競売)や所有権留保に基づく車の引き上げのリスクがあるため、一般的には任意整理の対象とはしません。
【自己破産】
裁判所の手続きによって、債務の支払いを免除してもらう方法です。一部の例外を除き,次のような種類の債務が免責の対象となります。
- 銀行のカードローン
- 住宅ローン
- 自動車ローン
- 消費者金融からの借入
- クレジットカードの支払い
- 奨学金
- その他個人間での借入
自己破産では、住宅ローンや自動車ローンも免責の対象になります。ただし、この場合住宅や自動車は失う可能性があります。
【民事再生(個人再生)】
民事再生(個人再生)も、自己破産と同じく裁判所の手続きによる債務整理方法です。自己破産と異なるのは、自己の財産の管理処分権を失わずに、債務の減免を図ることができる点です。
民事再生(個人再生)では、次のような借金が債務整理の対象となります。
- 銀行のカードローン
- 自動車ローン
- 消費者金融からの借入
- クレジットカードの支払い
- 奨学金
- その他個人間での借り入れ
住宅ローンはこれまで通りマイホームに住み、支払いを続けながらの債務整理が可能です。また、自動車ローンを個人再生で整理すると、原則、ローンの残っている自動車は回収されます。
1-3 債務整理の対象に適さない債務
債務整理はすべての債務が対象となるわけではありません。次のような債務は、原則として債務整理に適さず、自己破産をしたとしても免責の対象となりません。
- 滞納している税金や公共料金の支払い義務
- 婚姻費用や養育費
- 悪意の不法行為に基づく損害賠償金
- 故意または重大な過失により加えた、人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償金
- 罰金や刑事訴訟の費用
2.債務整理の主な3つの概要
先述の通り、債務整理には3つの種類があり、適したケースも異なります。それぞれの内容について詳しく解説します。
2-1 任意整理
任意整理は、裁判所を通さずに貸金業者や金融機関などの債権者と交渉を行う債務整理の方法です。毎月の返済額や返済方法を調整することで、無理のない完済を目指します。
民事再生(個人再生)や自己破産とは異なり、法律に規定のある公的な制度ではありません。債務整理を行った後の完済までの期間は約3〜5年程度です。
【弁護士に依頼した場合にかかる費用】
弁護士費用 | 着手金3万円~ +減額報酬10%程度、解決報酬金など |
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費用総額 | 5万円~ |
依頼から手続き完了までの期間はおおむね6ヶ月程度です。
2-1-1 メリット
任意整理には、次のようなメリットがあります。
【毎月の負担を軽減できる】
任意整理では、債権者に利息の減額を交渉します。減額できれば、利息分の返済に充てていた費用を元金の返済にまわすことが可能です。支払い方法を長期での分割払いに変更することで、毎月の支払額も減少できます。
【過払い金があれば返してもらえる】
2010年頃までの借金を現在も支払っているケースでは、過払い金が発生している可能性があります。払い過ぎた分は残高と相殺でき、余剰分があれば返還を受けることも可能です。
【取り立てが止まる】
任意整理の交渉が開始すると、弁護士が窓口となるため、債権者からの取り立てや督促がストップします。これにより、同居する家族に秘密で手続きができます。
【整理する借金が選べる】
任意整理ではどの借金を整理するか選べますが、次のような借金は整理するメリットがない場合もあります。
- 自動車ローン
- 住宅ローン
- 不動産担保ローン
- 友人や勤務先からの借入
- 少額の債務
ただし、任意整理の対象とするかどうか1人で判断するのは難しいため、弁護士に相談のうえ決定することをおすすめします。
2-1-2 デメリット
任意整理には、メリットだけでなく次のようなデメリットもあります。
【債権者が任意整理に応じないことがある】
任意整理は、法律で規定された制度ではなく、債務整理の交渉に債権者が対応すべきことを義務付けるものではありません。貸金業者や金融機関によっては交渉に応じてもらえないこともあります。
【減額できるのは利息のみ】
元金の減額が実現するケースはごく稀で、原則利息のみ整理の対象です。そのため、借り入れた金額からの大幅な減額は難しく、返済自体も毎月の支払額によっては長期に渡ることがあります。
【個人信用情報機関に事故情報が登録される】
いわゆるブラックリストに登録されます。正確には、個人の経済的信用を記録・管理する「信用情報機関」のデータベースに事故情報が登録されます。登録後約5年〜7年は事故情報が残るため、この間は原則として新規借入やクレジットカードの作成が難しくなります。
- 自動車ローン
- 住宅ローン
- 不動産担保ローン
- 友人や勤務先からの借入
- 少額の債務
ただし、任意整理の対象とするかどうか1人で判断するのは難しいため、弁護士に相談のうえ決定することをおすすめします。
2-2 自己破産
自己破産は、破産法に規定されている債務整理の方法です。裁判所に自己破産を申し立て、免責許可決定(債務を免除するという裁判所の決定)が下りると、(破産法所定の非免責債権を除いて)借金の支払い義務がなくなります。
自己破産には、次の3つの手続きがあります。
【同時廃止事件】
財産がない場合の手続きです。財産を清算する工程がないため、予納金(手数料)が安く短期間で終了します。個人債務者における自己破産手続の多くが同時廃止事件です。
【管財事件】
まとまった財産がある場合の手続きです。財産の管理・調査と清算を行う「破産管財人」の選出が必要であり、同時廃止事件と比べて予納金が高くなります。
【少額管財事件】
少額の財産がある場合の手続きです。管財事件と比べ対象となる財産が少なく、破産管財人の負担が軽い分、予納金も安くなります。
自己破産ですべての債務が免除されると、それ以降の返済は不要です。
【弁護士に依頼した場合にかかる費用】
弁護士費用 | 30万円~50万円程度 |
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裁判所費用(予納金) | 1万円~50万円 同時廃止事件:1万円~3万円 管財事件:50万円以上 少額管財事件:20万円程度 |
費用総額 | 約30万円~100万円 程度 |
依頼から手続き完了までの期間は6ヶ月〜1年程度です。
2-2-1 メリット
自己破産には、次のようなメリットがあります。
【借金がなくなる】
免責許可決定が下りると、決定以降借金を払う必要はありません。
【債権者の取り立てや強制執行を解除できる】
支払い義務がなくなるため、督促や強制執行などの取り立ても中止されます。
【収入がなくても手続きできる】
完了後の支払い義務はなくなるため、無職や生活保護など、無収入の人でも手続きできます。
【自己破産後に得た財産は没収されない】
破産手続開始決定時の財産は清算の対象となりますが、決定後に取得した財産は没収されません。
【生活するのに最低限必要な財産は残る】
生活に必要な財産は残すことができます。たとえば、次のようなものは自己破産の際に換価・処分の対象とされません。
- 生活に必要な寝具、家具、衣服など
- 生活に必要な食料や燃料
- 99万円以下の現金
- 仏像や位牌などの祭祀具
- 裁判所が自由財産として拡張を認めた財産
※参考:民事執行法第百三十一条
2-2-2 デメリット
生活再建に有効な自己破産ですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。
【個人信用情報機関に事故情報が登録される】
個人信用情報機関に事故情報が登録され、原則として手続き終了から約5年~7年は新たなローン契約やクレジットカードの発行が難しくなります。
【官報(国の発行する機関紙)に載る】
自己破産の事実が官報に掲載されるため、もし知人などが見ることがあれば、経済状況を知られる可能性があります。
【高額の財産は清算される】
自動車や不動産などの財産は、債務の清算に充てられるため換価・処分の対象となる可能性があります。
【家族に知られる】
手続きの際、家計の収支を裁判所に報告するため、基本的には内緒で手続きすることはできません。
【手続中に就けなくなる職業がある】
免責許可決定が確定するまでは、弁護士などの士業や古物商、保険の外交員、警備員など一部の職業に就くのに制限がかかることがあります。
【免責対象にならない債務がある】
税金や婚姻費用・養育費、罰金など一部の債務は免責対象になりません。
【保証人が一括返済を求められる】
保証人の債務は当然に免責にはなりません。主債務者(破産者)が破産をするとなると、保証人に請求がいくことになります。保証人にとって請求に対する支払いができないとなると、保証人自身の自己破産または個人再生を検討する必要が出てきます。
2-3 民事再生(個人再生)
民事再生(個人再生)は、民事再生法に規定された債務整理の手続きです。裁判所に申し立てを行い、借金を減額し、減額後の債務を原則3年〜5年以内に完済します。
民事再生を行うには、債務者が作成した具体的な返済条件を定めた再生計画を、裁判所が認可しなければなりません。再生計画通りに債務を返済すれば、残額は免除されます。
民事再生(個人再生)には「小規模個人再生」「給与所得者等再生」の2種類の手続きがあります。
【小規模個人再生】
自営業者・給与所得者が利用できる手続きです。債権者により再生計画を否認される可能性がある一方、給与所得者等再生より返済額が少なく済む場合があります。
【給与所得者等再生】
給与所得者が利用できる手続きです。債権者に再生計画を否認されるリスクはありませんが、小規模個人再生に比べて返済額が大きくなることがあります。
【弁護士に依頼した場合にかかる費用】
弁護士費用 | 30万円~50万円程度 |
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裁判所費用 | 2万5,000円~ 個人再生委員が選出される場合はプラス15万円~25万円程度 |
費用総額 | 35万円~80万円程度 |
依頼から手続き完了までの目安は、6ヶ月から1年程度です。
2-3-1 メリット
民事再生(個人再生)には、次のようなメリットがあります。
【債務の大部分をカットできる】
債務の額や所有している財産に応じて、借金のうち最大90%減額できる場合があります。
【長期分割返済が可能】
民事再生(個人再生)で整理した借金は、原則3年(最大5年)かけて返済します。状況によっては、毎月の返済額が減り経済的負担が軽減します。
【家を残せる場合がある】
再生計画の中に、住宅ローンをそのまま支払うとする住宅資金特別条項(住宅ローン特約)を付することにより、住宅ローンの返済を続けて、家を手放さずに済みます。
2-3-2 デメリット
一方、民事再生(個人再生)にはデメリットもあります。
【個人信用情報機関に事故情報が登録される】
個人信用情報機関に事故情報が登録されるため、原則として手続きの完了後約5年~7年の間は、新たな借入やクレジットカードの作成が難しくなります。
【収入が必要】
再生計画に従い返済が必要なため、無職など収入がない場合は手続きができません。
【対象となる債務に制限がある】
税金や婚姻費用・養育費、罰金などは減額できません。
【保証人が一括返済を迫られる】
主債務者(申立人)が個人再生をするとなると、保証債務に従い保証人に請求がいくことになります。保証人にとって請求に対する支払いができないとなると、保証人自身の自己破産または個人再生を検討する必要が出てきます。
【官報(国の発行する機関紙)に載る】
民事再生(個人再生)の事実が官報に掲載されるため、もし知人などが見ることがあれば、経済状況を知られる可能性があります。
1.債務整理するとどうなる?債務整理した後の影響と気になること
債務整理を行った場合、その後どのような影響が出るのか、よくある疑問を詳しく解説します。
3-1 ブラックリストに登録されるとどのような影響があるのか?
個人信用情報機関に事故情報が登録されることは、俗にブラックリスト入りと呼ばれています。
自己破産・民事再生(個人再生)・任意整理では、信用情報機関に事故情報が登録されます。登録機関はいずれの場合も約5年〜7年程度です。
なお、登録されるのは本人の情報のみです。本人の事故情報登録にともない、家族の記録に事故情報が登録されることはありません。
3-2 「官報公告」はどこまでの情報が掲載されるのか?
先述した通り、官報とは、国が発行する機関紙のことです。主に士業など法律の専門家などが見るもので、一般の人が閲覧することはほとんどありません。
自己破産および民事再生(個人再生)の手続きでは、官報に「住所」「氏名」「事件番号」が掲載されます。任意整理は裁判所を通さず当事者間だけで行うため、官報公告は行われません。
3-3 クレジットカードは使えるか?
原則として、手続きの完了や完済から約5年~7年の間は、クレジットカードの使用と新規作成は難しくなります。ただし、この点は各カード発行会社の判断となるため、対応が異なる場合があります。
ちなみに、発行にあたって審査のないデビットカードやプリペイドカードは作成可能です。
3-4 ローンは組めるか?
事故情報が登録されている約5年〜7年の間は、ローンが組めない可能性があります。また、保証人にもなれないことが多い傾向です。
所定の期間が経過すれば自動的に事故情報は削除されるため、ローンの審査を受けられるようになります。
3-5 家や車、預金などの財産はどうなるのか?
財産に対する取り扱いは、債務整理の手段によって異なります。
【任意整理】
債権者との交渉次第ですが、家や車を残して借金のみ減額することが可能です。
【民事再生(個人再生)】
住宅ローンの残っている家がある場合、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用することで家を残すことができます。ローンのない自宅を持っている場合でも、再生計画において、その自宅の価値に相当する金額を債権者に弁済することによって家を残すことができます。
自動車ローン完済前の車がある場合、所有権移転前であることがほとんどなので、車は回収される可能性がありますローンの残っていない自動車を所有している場合、再生計画において、その自動車の価値に相当する金額を債権者に弁済する必要はありますが、自動車自体は残すことができます。
【自己破産】
ローンの有無に関わらず、家や土地は、基本的には、手放さなければなりません。自動車の場合、自動車ローン返済中であれば原則処分の対象となります。完済した車も、査定額が20万円以上であれば、原則的に処分の対象となります。ただし、例外的に、裁判所に自由財産拡張申立をして、裁判所が申立てを認めた場合には自動車を残すことができます。
先述した「自己破産のメリット」の通り、差押禁止財産に該当する生活必需品は残すことが可能です。
3-6 家族や会社などにバレるか?
任意整理の場合、返済が滞りなくされていれば、基本的には家族や会社に知られることはありません。自己破産や個人再生の場合には、必要に応じて裁判所などから書類が郵送されることがあるため、郵便物の管理には注意が必要です。
債務整理については家族以外の第三者に申告する義務がなく、就職に影響はありません。
3-7 債務整理をしても変わらないことは何か?
債務整理の記録は信用情報には登録されますが、戸籍や住民票には登録されません。そのため、「住民票などの提出で知られるのではないか」という心配は無用です。
年金から返済分が天引きされることもないため、必要な保険料を支払ってさえいれば、年金は予定通り受け取れます。
税金を滞納していた場合、債務整理で減額や免除を受けることはできません。引き続き支払いが必要です。
まとめ
債務整理は弁護士におまかせ!借金生活から抜け出して明るい未来を踏み出そう!
債務整理の各種手続きは、借金を減らすために有効ですが、手続きが煩雑で1人だけで行うのは難しいことが多いです。確実かつスムーズに債務整理を行うためにも、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。