1.個人再生(民事再生)とは
個人再生(民事再生)は、法的な手段で借金の整理をする債務整理手続きの一つです。裁判所への申し立てが必要となります。
個人再生(民事再生)では、現在ある借金の最大9割を削減したと仮定し残高を計算します。仮計算の結果に基づき完済までの再生計画案を作成し、予定どおりに返済できれば削減した分の支払いは免除される仕組みです。
返済期間は原則3年、特別な事情があり許可を得れば5年に設定されるため、その期間で返済ができるようスケジュールを作成します。
1-1 自己破産との違い
自己破産は、個人再生(民事再生)と同じく裁判所に申し立てて行う債務整理の一種です。個人再生(民事再生)とは、免除される借金の金額と、手元に財産を残せるかどうかが異なります。
【自己破産と個人再生(民事再生)の違い】
自己破産 | 個人再生(民事再生) | |
---|---|---|
借金の削減割合 | 全額免除 ※一部対象外の債務あり |
最大9割 |
財産 | 一定額以上の財産は原則すべて失う | 残せる ※債務の削減額に影響する。 |
自己破産と個人再生(民事再生)で迷ったときは、残したい財産の有無や、現実的な再生計画が立てられるかどうかなどを総合的に判断し、決定することとなります。
1-2 任意整理との違い
任意整理は、債権者(金融機関や消費者金融など)との交渉により、現在負っている債務の一部免除や、毎月の返済額を見直す債務整理手続きです。
個人再生(民事再生)との大きな違いは、手続き方法や削減額にあります。
任意整理 | 個人再生(民事再生) | |
---|---|---|
借金の削減割合 | 将来の利息や遅延損害金をカット ※元本の削減はできない。 |
最大9割 |
手続き方法 | 当事者間で協議 | 裁判所に申し立てる |
財産 | 残せる | 残せる ※債務の削減額に影響する。 |
自己破産や個人再生(民事再生)と比べて削減額は小さい一方で、簡略な手続きで支払いの負担を軽くできます。
2.個人再生(民事再生)の種類
個人再生(民事再生)には、申立人の区分によって二種類の手続きが用意されており、それぞれ利用できる条件が異なります。
2-1 小規模個人再生
小規模個人再生は、おもに個人商店や個人事業主など、小規模に事業を営み収入を得ている人が対象となる手続きです。小規模個人再生の利用には以下の条件をどちらも満たしている必要があります。
【小規模個人再生を利用する条件】
- 住宅ローン以外の借金の総額が5,000万円以下であること
- 継続的に収入を得られる見込みが大きいこと
再生計画案を作成した後、金融機関や消費者金融など、債権者の同意を得る必要があります。債権者の過半数が再生計画案に反対すると、不認可となります。
2-2 給与所得者再生
給与所得者再生は、会社員など給与によって生計を立てている人を対象とした個人再生(民事再生)の手続きです。利用には、以下の条件を全て満たす必要があります。
【給与所得者再生を利用する条件】
- 住宅ローン以外の借金の総額が5,000万円以下であること
- 給与がおもな収入であること
- 継続的に収入を得られる見込みが大きいこと
給与所得者再生では、小規模個人再生とは異なり、再生計画案に対する債権者の同意は必要ありません。代わりに意見聴取が行われ、その結果を考慮しつつ、再生計画案を認可するかどうかが判断されます。
3.個人再生(民事再生)のメリット
個人再生(民事再生)の手続きにはどのようなメリットがあるのでしょうか。特に重要な4つのポイントを紹介します。
3-1 借金を減らせる
個人再生(民事再生)のもっとも大きな効果が、借金を大幅に削減できることです。
個人再生(民事再生)でいくら借金を減らせるかはケースバイケースですが、裁判所の基準として「最低弁済額」が設定されています。これは、個人再生(民事再生)で最低いくら借金を支払わなければならないか、借金の金額から目安を割り出したものです。
【個人再生手続きの最低弁済額(小規模個人再生手続の場合)】
債務の金額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 全額 |
100万円以上500万円以下 | 100万円 |
500万円超1,500万円以下 | 総額の5分の1 |
1,500万円超3,000万円以下 | 300万円 |
3,000万円超5,000万円以下 | 総額の10分の1 |
【給与所得者等再生手続の場合】
上記の表の金額と、自分の可処分所得(収入から生活費や税金などを除いた額)の2年分を比べ、大きいほうの金額が基準となります。
ただし、必ずしも最低弁済金額まで減額できるわけではありません。以下の点には留意しておいてください。
- 再生計画案が認可されない場合がある(小規模個人再生手続の場合)
- 財産がある場合はその額を上回る弁済額でなければ認められない
「自分の場合はいくら減額できるか」を正確に知りたい場合、弁護士に相談して試算してみてください。
3-2 住宅や車などの財産を残せる
自己破産と比較した際の大きなメリットが、財産を残して借金を整理できることです。個人再生(民事再生)では、住宅や車などを強制的に処分されることはありません。
とくに、住宅は生活再建のための重要な財産です。仮に住宅ローンが残っている場合でも、住宅ローンを整理対象から除外する特例制度を利用できるため、家を失わずに済みます。新しく家を探す労力も必要なく、家族への影響も最小限にできるでしょう。
3-3 返済期間中は利息が発生しない
借金をしている人に強いストレスを与えるのが「早く返済しなければどんどん利息が膨らんでしまう」という精神的な不安です。個人再生(民事再生)の手続きを利用すると、債務の金額は固定されるため、返済中の利息は発生しません。
これは、返済期間が3年の場合でも、5年に延長された場合でも同じです。作成した再生計画通りに無理なく返済を続けることで、確実に借金を減らせます。
3-4 職業に関する制限がない
自己破産では、申し立てから免責許可決定が出るまでの期間に就けない職業があります。
【自己破産で制限の対象となる職種(一例)】
- 弁護士や司法書士などの士業
- 商工会議所や信用金庫の役員
- 生命保険の募集人
- 貸金業や質屋
- 警備員
個人再生(民事再生)では職業に関する制限がないため、上記の職業の人でも休職・退職は必要ありません。
4.個人再生(民事再生)のデメリット
一方、個人再生(民事再生)にはデメリットもあるため、万能とはいえません。実際に検討する際はこれらも考慮し、自分に適しているか判断する必要があります。注意しておきたいポイントを紹介します。
4-1 借金の全額免除にはならない
自己破産とは異なり、個人再生(民事再生)では債務は全額免除にはなりません。最低でも債務の10分の1は支払わなければなりません。
また、削減後の債務の返済期間は3年または5年に固定されます。債務の金額が大きい場合、毎月の返済額も相応に大きくなる点に注意しなければなりません。
住宅を残したい場合は「住宅資金特別条項」という制度を利用できますが、この制度を利用すると住宅ローンは減額されずそのまま残ります。無理なく返済が可能か、試算のうえ検討することが必要です。
4-2 個人信用情報機関に記録される
自己破産などの債務整理手続きにも共通していますが、個人再生(民事再生)をすると個人信用情報機関に登録され、いわゆるブラックリスト入りとなります。
個人信用情報機関とは、ローンやクレジットカードの契約状況など、個人の信用取引の履歴を記録する機関のことです。日本には3つの個人信用情報機関があり、業種ごとに履歴を管理しています。
滞納や自己破産、個人再生(民事再生)をした情報は「金融事故情報」と呼ばれ、その内容が個人信用情報機関に登録されます。
金融事故情報の有無は、金融機関やクレジットカード会社の審査基準の一つです。新規契約や更新の際に信用情報の履歴をチェックするため、登録されていると審査に通りづらくなります。
個人再生(民事再生)をし、完済してから5年~7年の間は新規のクレジットカードやローンの審査に通りにくくなる点に注意してください。
4-3 官報に掲載される
個人再生(民事再生)をした事実は、官報に掲載されます。
官報とは、国が国民に対して情報を伝達するために発行する機関紙のことです。法令や国会の決定事項・公務員の人事に関する情報などが掲載されます。自己破産や債務整理の手続きを行うと、再生債務者の氏名や事件番号が官報上に公開されます。
一般の人が官報をしっかりとチェックすることは稀ですが、知人の目にとまり経済状況を知られる可能性はゼロではありません。
4-4 手続きが難しい
個人再生(民事再生)の手続きは非常に煩雑で難解です。借金の整理や個人再生(民事再生)の申し立て、再生計画案の作成などを、知識のない一般の人が行うことは現実的ではありません。
個人再生(民事再生)による借金の整理は、弁護士に依頼することをおすすめします。手続き全般を任せられることはもちろん「そもそも個人再生(民事再生)は自分に適しているか」「ほかにどんな方法があるのか」といった段階から相談できるため、自分に適した方法で借金問題を円滑に解決できます。
5.個人再生(民事再生)の費用相場
個人再生(民事再生)の手続きにかかる費用は、大きく分けて「弁護士に支払う報酬」「裁判所へ支払う手数料等」の二種類があります。管轄の裁判所や弁護士事務所によって詳細は異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
裁判所に支払う各種経費 ・申立手数料 ・官報公告費 ・予納郵券(郵便切手代) を含む |
~5万円 |
予納金(個人再生委員への報酬) | 15万円~20万円 |
弁護士に支払う報酬 | 40万円~60万円 |
合計 | 50万円~85万円程度 |
支払いについて不安がある場合、初回の相談の際に概算の費用を確認してみましょう。費用と削減できる借金の見込みを確認したうえで、依頼するかどうか決定してください。
6.個人再生(民事再生)の流れ
弁護士に個人再生(民事再生)を依頼する場合、準備や手続きはどのように進めるのでしょうか。完了までの流れをみてみましょう。
6-1 弁護士に相談する
まずは、法律事務所に相談のうえ、依頼先の弁護士を決めて解決までのおおまかな方針を決定します。
相談前の準備として、まずは今ある借金の詳細をまとめておきましょう。「どこに」「いつ」「いくら」借りたかを、メモでよいので整理しておきます。記憶があいまいなときは、借入先の利用履歴や銀行口座の明細などを確認してください。
「借金が多いので正直に話すのが恥ずかしい」と感じるかもしれませんが、すべて提示しなければ正確に手続きできません。
ライズ綜合法律事務所の場合、弁護士は多重債務者の方と日常的に関わっており、相談者の方のそうした心情もよく理解しています。安心してご相談ください。
6-2 過払い金がないか確認する
過去に利息制限法の上限を越えた金利で返済していた場合、払いすぎているお金がないか確認し、必要に応じて借金の金額を再計算します。
2010年6月に貸金業法が改正されるまで、貸金業者による上限を超過した金利での貸付が横行していました。そのため、その時期に借入を行っていた場合、払いすぎていた分が返還
される可能性があります。
過払い金が発生していると借金がゼロになったり、残高の一部と相殺して借金を減額したりできます。ただし、過払い金の請求には、借入時期や経過年数の条件があるため注意が必要です。詳細は以下の記事を参照してください。
関連記事:債務整理をしながら過払い金請求は可能?両者の違いや成功の秘訣とは
6-3 裁判所に申し立てる
借金の金額や借入先が確定し、準備が整うと管轄の裁判所へ申し立てが行われます。こちらは担当の弁護士が行うため、依頼者がやることはとくにありません。その後、約1か月で本格的に個人再生(民事再生)の手続きが開始します。
6-4 裁判所から銀行や金融機関に債権届出書が送付される
手続きの開始後、裁判所では個人再生(民事再生)に伴う財産の調査や履行テストが始まります。
履行テストとは、債務の弁済ができる経済状況かどうかを、実際に債務者に返済させて確認するものです。裁判所にもよりますが、月に一度の支払いを6回テストするのが一般的です。
履行テストや調査の結果、個人再生(民事再生)が妥当と判断されると、各債権者に債権届出書が送付されます。これは金融機関や消費者金融が債権者として名乗り出て、配当を受けるために必要な書類です。
届出書が出そろうと、対象となる債務の金額が確定し、再生計画案の作成に入ります。
6-5 再生計画案を作成する
弁護士によって、再生計画案の作成が行われます。
具体的には、債務の金額を所定の「最低弁済額」未満にならないよう仮計算して削減し、算出した金額を3年または5年で完済できるよう返済プランを立てていきます。
弁護士から、事前に無理のない支払い額の聞き取りがありますので、経済状況を考慮して、妥当な金額を考えてみましょう。
6-6 返済と個人再生(民事再生)が完了する
再生計画案の認可が決定すると、その内容に従って返済を開始します。再生計画どおりに完済できれば、残りの債務は免除され、個人再生(民事再生)の手続きは完了です。
返済中に、やむを得ない経済状況の悪化などにより返済が難しくなった場合、裁判所に再生計画の変更の申し立てができます。変更が許可されれば、返済期間は最大2年延長されます。万一返済が難しくなった場合、弁護士に相談のうえ対処法を決定しましょう。
7.個人再生(民事再生)で借金を減らそう!まずは弁護士に相談へ
個人再生(民事再生)では、財産を残しながら、今ある借金を大幅に圧縮できる可能性があります。自己破産とは異なり全額の返済免除にはなりませんが、家族への影響を小さくしたい方や、自宅を残して債務整理をしたい方の借金減額方法として有効です。
ただし、個人再生(民事再生)の手続きは非常に難解なため、パートナーとなる弁護士を探す必要があります。
弁護士をお探しの際は、ライズ綜合法律事務所を候補に加えてください。債務整理の専門知識を備えた弁護士が多数在籍しており、多くの相談者様の借金問題の解決をお手伝いしてきました。「すぐに借金の督促を止めたい」「家族に迷惑をかけたくない」など、まずはお話を聞かせてください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。