1.養育費とは
養育費は、両親が離婚した際に、子どもを育てている親に対してもう一方の親が支払う費用のことです。子どもの生活費や教育費など、子どもを育てるのにかかるお金を両親で分担する目的で支払われます。
現在、日本では離婚後どちらか片方の親が子どもと同居して育てるのが一般的です。そのため同居していない方の親は、養育費を支払うことで、経済的に子どもの生活を支えることになります。
2.養育費の支払いは法律上の義務
養育費の金額は、両親の話し合いによって決めることが可能です。ただし、金額の大小の差はあれど、基本的には親であれば支払い義務があります。
養育費を受け取る子どもの権利は法律で強く保護されており、仮に養育を支払う親が自己破産申立てをして、免責許可決定が出た場合でも養育費の支払い義務はなくなりません。
また、養育費は「払えば良い」というものではなく、自分と同等の生活を子どもにさせるのに必要な金額を支払う、「生活保持義務」が課されていると解釈されます。そのため、養育費の金額の基準は親の収入によって変化します。
なお、離婚の際に慰謝料や財産分与の支払いをした場合でも、それを理由に養育費の支払いを拒否することはできません。目的や性質の異なる費用なので、別途必要となります。
3.養育費の金額を決める要素
養育費をいくら支払うかは、両親の間の協議で自由に決めることができます。しかし、当事者間では妥当な金額が分からないことも多いようです。
裁判所では、養育費の金額を決めるための基準として、子どもの人数と年齢、両親の年収を主に重視します。そのため、実際の交渉でもこの点に準じて話し合いが行われることが多いようです。それぞれ詳細を解説します。
3-1 子どもの人数や年齢
養育費の目的は、子どもを育てるのにかかる費用の分担です。子どもが増えると、その分育てるために必要な金額も大きくなるため、養育費は増加します。
また、子どもが幼い場合と比べ、成長すると育てるのに必要な金額は大きくなります。高校からは学費もかかるほか、大学進学の費用なども発生するためです。裁判所の公開している基準では、15歳以上の年齢からは養育費が高くなります。
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養育費の金額を決めるポイントとして、両親の年収も関係してきます。
養育費の支払いは、単に子どもが育つ分の金額を払えば良いというものではありません。子どもに離婚前と同じだけの生活をさせる責任を負う「生活保持義務」があるため、養育費を支払う親の年収が高ければ、養育費も相応の金額になります。
具体的には、子どもを育てる監護親の年収と、支払い側の親の年収のバランスが基準となります。監護親の年収が高く、支払い側の親の年収が低ければ養育費は少なくなりますし、支払い側の親が高収入であれば高額になりやすいです。
3-3 算定表
裁判所では、養育費の金額の基準となる「算定表」を定期的に公開しています。両親の収入と、子どもの人数および年齢を照らし合わせて簡易的に養育費の金額を判断するためのものです。
例えば平成30年度の養育費算定表によると、夫婦共に給与収入400万円で10歳の子どもが1人いる場合、毎月の養育費は2万~4万円です。
算定表そのものに法的な効力はなく、当事者の話し合いで決定した内容があればそちらが優先されます。一方で、算定表は家庭裁判所が養育費を決定する際にも使われ、一種のスタンダードな基準となっているため、交渉の際の根拠として活用されることも多いようです。
※参考:平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所
※参考:(表1)養育費・子1人表(子0~14歳)|裁判所
4.養育費の平均額
令和3年度の厚生労働省のアンケート調査によると、子どもの人数別養育費の平均月額は以下の通りです。
1人 | 2人 | 3人 | 4人 | 5人 | |
---|---|---|---|---|---|
母子家庭 | 4万468円 | 5万7,954円 | 8万7,300円 | 7万503円 | 5万4,191円 |
父子家庭 | 2万2,857円 | 2万8,777円 | 3万7,161円 | 該当なし | 該当なし |
※数値引用:令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果 表17-(3)-13 子どもの数別養育費(1世帯平均月額)の状況|厚生労働省
なお、調査の性質上、子どもの人数が多くなるほど調査対象の世帯が少なくなるため、必ずしも実態に即していない場合があります。参考にする際は、前述の算定表や両親の経済状況も考慮しつつ、妥当な金額を探ってみてください。
5.養育費と元配偶者の生活費は別
養育費支払の協議では、配偶者から「なぜ離婚する相手に毎月お金を支払わなければならないのか」と言われることがあります。こうした方の多くが生活費と養育費を混同しています。
養育費は、あくまで子どもの生活費や教育費など、子どもを育てるのにかかる費用です。離婚した元配偶者の生活費を支払う義務はないため、全くの別物となります。
逆に言うと、子どもを育てることを理由に、自分の生活費を上乗せして養育費を多めにもらうことはできませんので注意してください。
6.養育費取り決めまでの流れ
離婚時に養育費を取り決める際、どのように手続きや話し合いを進めれば良いのでしょうか。決定までの流れを紹介します。
6-1 夫婦2人で話し合う
養育費を始め、離婚などの家事問題の取り決めは、夫婦間での話し合いが最優先されます。
まずは夫婦2人で協議し、適切と思われる金額を決めます。話し合いがまとまり結論が出たら、その条件を書面にしておきましょう。養育費の金額は夫婦間で自由に決定できるため、お互いに納得できる結果であれば少額でも問題ありません。
相手の提示してきた金額が実態に合わない場合など、納得できなければ合意してはいけません。お互いに知識がなく当事者間でまとまらなければ、弁護士を間に入れることも選択肢の一つです。
6-2 公正証書を作成する
養育費についての話し合いがまとまったら、公正証書にしておくことをおすすめします。
養育費について決めた内容は、実は口約束でも有効です。ただし、取り決めの内容を証拠として残せないため、できれば書面にまとめておきましょう。相手方の支払能力や誠実さに不安がある場合は、公正証書にしておくとより安心です。
公正証書は、公証役場で第三者の公証人の立ち会いのもと作成する契約書のことです。書面の作成を公証人が行うため、法的な効力を担保できる上、「無理矢理サインさせられた」と無効を主張される心配が少なくなります。
また、公正証書には、強制執行を了承する旨の特約の付与が可能です。これによって債務名義(強制執行の根拠となる公文書)としての効力を持たせられるため、裁判などの手続きを省略して財産を差し押さえられます。
6-3 協議で決まらなかったら家庭裁判所で調停を行う
当事者間の協議で養育費に関する話し合いがまとまらなかった場合、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。
調停は、家庭裁判所で調停員をはさんで行われる話し合いのことです。離婚の際に養育費について話し合いたい場合に行うのが「夫婦関係調整調停(離婚)」の手続きです。この調停では、養育費のほか、離婚時の財産分与や慰謝料の請求についても取り決めることができます。
一方、離婚後に養育費を請求したい時や、養育費の金額を変更したい場合は「養育費請求調停」を利用します。
調停で折り合いが付かない場合、裁判を起こし、裁判所の判断を求めることが可能です。
6-4 調停で決まらなかったら離婚裁判となる
裁判では、裁判官が夫婦両者の主張を聞き、妥当と思われる金額を判決で決まります。確定判決の結果は強制執行の根拠となるため、従わなければ財産の差押えなどの対象となります。判決が不服な場合、不服申し立ての期間内に上級の裁判所に控訴することが可能です。
なお、離婚や養育費問題が対象となる「家事事件」では、裁判の前に調停を行う「調停前置主義」が採用されています。当事者間の協議がまとまらないときも調停を省略していきなり裁判を起こすことはできません。
7.再婚をした時の養育費
離婚後に、両親のどちらかが再婚した場合、養育費の支払いを変更できる可能性があります。子どもを養育している親が再婚したパターンと、養育費を払っている親が再婚したパターンをそれぞれ見てみましょう。
7-1 親権を持っている方が再婚した時
親権を持っており、子どもを育てている方が再婚した場合でも、それだけで養育費の支払いが免除されることはありません。
ただし、新しい配偶者(継父、継母に当たる相手)と子どもが養子縁組をしたケースや、事実上子どもを養育しているケースでは、養育費の減額や免除が認められることがあります。
再婚が判明した時点では当然に養育費が免除されるわけではないため、離婚した配偶者の再婚が分かった時点で、子どもの養育費について確認しておくことをおすすめします。
7-2 養育費を支払う側が再婚をした時
養育費を支払う側の親が再婚した場合でも、子どもの養育環境には変化はないため、養育費の支払い義務もなくなりません。特に影響はないと言って良いでしょう。
ただし、再婚相手との間に子どもができるなど、経済状況が変化することもあるかと思います。それまで通りの養育費の支払いが難しい場合は、話し合いで養育費の減額を決めることも可能です。
8.相手が養育費を払わない時の対処法
養育費に関する取り決めをしていても、約束が守られない場合や、途中で支払われなくなることがあります。このような場合はどう対処すれば良いのか、詳しく紹介します。
8-1 相手に連絡して事情を聞く
まずは、元配偶者に連絡して事情を確認してみましょう。単なる払い忘れや送金用の口座の残高不足などで、相手が未払いに気付いていないこともあるためです。こうした場合はスムーズに再開できます。
ただし、相手が一向に支払う姿勢を見せない場合や、元配偶者の暴力で離婚したため連絡を取れない場合もあります。こうした場合は弁護士に相談し、弁護士経由で連絡してみてください。
8-2 調停を経ている場合は家庭裁判所に勧告してもらう
調停を経て養育費の支払いを約束しているのであれば、履行勧告や履行命令の制度が利用できます。
これは、家庭裁判所に依頼して、元配偶者に養育費の支払いを促してもらう手続きです。申し立て後、家庭裁判所が未払いの状況を調査します。滞納の事実が認められると、履行勧告を行います。
履行勧告を無視しても罰則はありませんが、履行命令の無視は過料の対象です。
しかし、財産を差し押さえるなど強い強制力はないため、これでも支払われない場合は後述の強制執行が必要となります。
8-3 地方裁判所で強制執行を行う
養育費の内容を定めた債務名義(強制執行の根拠になる公文書)があれば、地方裁判所に申し立てて強制執行の手続きができます。例えば、次のものはいずれも債務名義の一種です。
- 確定判決
- 和解調書
- 調停調書
- 強制執行認諾特約のついた公正証書
強制執行ができれば、預貯金などの財産や給料を差し押さえることができるため、強制的に養育費を回収できます。債務名義がない場合、まずは家庭裁判所に調停を申し立てることから始めましょう。
9.養育費に関するよくある疑問
離婚の養育費について、弁護士事務所によく寄せられる質問と回答を紹介します。
9-1 妊娠中に離婚した時の養育費は発生する?
妊娠中に離婚したことが確実であれば、養育費は発生します。民法には、婚姻中にできた子だと推定するための規定が設けられています。
以下の期間に生まれた子どもは、原則として婚姻中にできた子とされます。
- 婚姻の成立から200日以内
- 婚姻の取り消しや離婚から300日以内
上記の期間に該当する場合、養育費支払いの対象です。また、該当しない場合でも父親が認知すれば養育費の支払義務が発生します。
9-2 連れ子の養育費はどうなる?
相手に連れ子がいる状態で結婚し、その後離婚した場合、連れ子に対する養育費は発生しません。ただし、連れ子と養子縁組している場合は養育費支払いの対象となりますので注意してください。
9-3 養育費はいつまでもらえる?
一般的には、養育費を受け取れるのは成人である18歳になるまでです。ただし、大学に進学していると19歳以降も学費がかかるため、状況に応じて学費を負担してもらったり、支払期間を延長してもらうことは可能です。
例えば、大学卒業まで養育費を支払う、という形に取り決めることも可能なので、両親の間で子どもの将来を見据えて協議するのが良いでしょう。
9-4 養育費と面会交流の関係とは?
面会交流とは、離婚後に離れて暮らす親と定期的に会えるよう、機会を設けることです。子どものための取り決めであり、親のためのものではありません。仮に、離れて暮らす親が子どもに暴力を振るうなど、面会交流が子どもの不利益になるケースでは、認められないこともあります。
基本的に、養育費と面会交流は個別に独立しているため、相互に関係はありません。制度上、養育費の支払いを面会交流の条件にすることは認められません。
しかし、面会交流が養育費の支払いに対する心理的圧力になるケースや、元配偶者から「もう面会交流はしないから養育費も支払わない」と要求されるケースはあるのが実情です。
10.養育費は親の義務!困った時は弁護士に相談を
養育費は、離婚後の子どもの生活や教育を支える費用です。子どもの人数や年齢に応じて基準が定められているため、話し合いで迷った際は裁判所の資料も参考にしてみてください。
話し合った内容は「言った、言わない」の水掛け論になることを防ぐため、書面に残しておきましょう。
両親共に妥当な金額を判断できないケースや、約束通りに支払われない場合は弁護士に相談することも選択肢に入ってきます。状況を確認してアドバイスを受けられるほか、相手方との交渉や裁判所の手続きを任せられます。一度相談してみてください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。