土地の買取・再開発の打診は、よくわからないまま相手の言い値で合意すると、適正価格より安く買われてしまうこともあるため注意が必要です。
この記事では、土地の買取・再開発の概要、適正価格を知る方法、有利に交渉するためのポイントをわかりやすく解説します。買取の交渉にどう答えるか迷っている方はぜひ参考にしてください。
1.土地の買取・再開発とは
土地の買取・再開発とは、土地の有効活用や事業用のまとまった広さの土地を確保する目的で、不動産会社が土地を買い取ることです。俗に「地上げ」などと呼ばれることもあります。
詳しくは後述しますが、地上げというと、強行な手段で土地を押し買いするイメージがつきまとうかもしれません。しかし、本来は不動産会社が事業の一環として行う大切な業務の一つです。
バブル経済の頃とは異なり、現在は強引な押し買いは少なくなっています。違法行為を行うと宅地建物取引業法により処分される制度も設けられているため、過剰に怖がる必要はありません。
2.「地上げ」として浸透していた歴史と背景
前述のとおり、本来土地の買取・再開発は不動産会社の業務として一般的なものです。しかし、なかには「地上げ」として良いイメージを持っていない方もいます。
これには、過去に強行な土地の買取が横行し社会問題になっていた背景があります。土地の買取をめぐる歴史を見てみましょう。
2-1 地上げは儲かる?バブル時代の強引なやり方
バブル時代は、日本全国で土地の価格が上昇していた時期です。土地を転売するだけでも大きな利益が得られたため、不動産会社は熱心に土地の買取を行っていました。
当時は、土地の買取交渉を専門に行い報酬を得ている業者も存在しました。こうした業者は、期限内に合意を取り付けなければ報酬を得られない、または減額されるため、強引な手段による買取や嫌がらせが横行していたのです。
その名残で、現在も土地の買取・再開発を行う不動産会社は「地上げ屋」としての悪いイメージを持たれがちです。
ただし適正価格での土地の買取は、所有者と不動産会社の双方に利益をもたらすものであり、買取自体は当時も問題になってはいませんでした。
2-2 地上げのトラブルによって進んだ法整備
バブル時代に行われた、嫌がらせを伴う強引な買取交渉は、当時の国も重く見ていました。この問題を受けて、国は各都道府県に法的な対処を指示しています。
具体的には、各都道府県は悪質な土地の買取業者に対し、業務の停止や宅地建物取引業の登録の消除を命じることができるようになりました。
前述のとおり、現在は、違法な手段で買取交渉を行う業者は減少しています。それでも「訪問がしつこい」「営業マンの態度が怖い」など問題があれば、弁護士に相談して対処することをおすすめします。
3.土地の買取・再開発の具体的な仕事内容
土地の買取・再開発は、主に周辺の土地を複数買い上げ、使い勝手や資産価値を高めて利益を出すために行われます。買い取った土地の活用目的としては、以下のようなものが代表的です。
- 不整形地を隣地とまとめて整形地にする
- 土地を一つにまとめてマンション用地にする
- 工場用の土地にして企業に売る
土地の買取・再開発には、土地の利害関係者との各種交渉や、国への許認可申請・各種手続きなど多様な内容が伴います。従って、相応の知識・経験があってこそ成り立つプロフェッショナルな業務です。
4.土地の買取・再開発の主なやり方
土地の買取・再開発にはいくつか種類があります。代表的なものを5つ紹介します。
4-1 広い土地を確保するために一定範囲の土地を購入する
土地の買取・再開発の目的の一つが、広い土地を確保するために一定の範囲内の土地を購入することです。
例えば、企業の本社ビルや工場、店舗、事務所を建設するために、ある程度の広さの土地が必要なケースなどに行われます。分譲地として販売したい場合などもこのケースに該当します。
4-2 再建築不可物件の土地や形の悪い土地の隣地を買い取る
土地の買取・再開発のやり方には「再建築不可物件」や、形の悪い土地の隣地を買い取る方法もあります。
再建築不可物件とは、古い基準に従って建物の建築や土地の境界の設定がされており、現状の建築基準法に適合していない物件のことです。そのままでは建築許可が下りないため、増築や改築ができません。
再建築不可物件のなかで代表的なのが、建築基準法上の「接道義務」を満たしていない土地です。現行法では、救急車両の進入などを目的として「幅員4メートル以上の道路に2メートル以上」接道していなければなりません。地域によって違いはありますが、一般的にはこの基準を満たしていない場合、建築許可の必要な工事はできないため、資産価値は低くなります。
こうした土地は、隣地と一つにして工事ができるようになれば、使い勝手も良くなり資産価値も向上します。旗竿型の土地や三角形の土地も同様で、建築コストがかかる分単体では価値が低いのですが、隣地とまとめることで状況を改善できれば、資産価値の高い土地にできるのです。
4-3 建て替えのために入居者に立ち退きを依頼する
賃貸物件が建っている土地を買い取って建て替えるために、入居者に立ち退き交渉を行うケースもあります。主に好立地の集合住宅や駅に近いビルなどが対象です。
入居者に立退料として相応の金額を支払うことを条件に交渉し、退去後は更地にしての転売や、自社物件として建て替えて賃貸に活用することもあります。
4-4 借地権と底地権を一体化し、通常の土地として売買する
土地の所有者と建物の所有者が異なる場合に、権利を一本化して通常の土地として売買するのも、土地の買取・再開発の一種です。
このケースでは、建物の建っている土地にはそれぞれ以下の権利が設定されています。
設定されている権利 | 権利者 |
---|---|
【借地権】 お金を払って土地を借り、建物を建てて利用する権利 |
建物の所有者(土地の借主) |
【底地権】 借地権のついた土地の所有権 |
土地の所有者(地主) |
土地と建物の権利者が異なる場合、地主または借地権者が相手の権利を譲り受け、一本化したいと希望することがあります。地主は「借地権者の権利」の観点からそのままでは自由に土地を活用できず、借地権者は借地権の移動に地主の許可が必要で、承諾料を請求されることがあるためです。
このような背景から、土地と建物の権利を一本化する交渉を行うのも、不動産会社の大切な役割です。また、借地権と土地の所有権を不動産会社が両方買い取るケースもあります。
4-5 行政機関がまちづくりを目的として土地を買い取る
国や自治体などの行政機関が、まちづくりのために土地を買い取ることもあります。主な理由としては、土地区画整理事業や市街地開発事業に伴う公園や河川の整備、道路の拡張などのために、土地の取得が必要だからです。
公的な土地の買取・再開発では、買収価格は「用地補償基準」によって決定されます。所有者が価格に納得できないときは、強制的に土地を取得する「土地収用」になる場合もあります。
5.土地の買取・再開発の目的
詳しい土地の買取・再開発のやり方がわかったところで、次に土地の買取・再開発の目的を紹介します。主に「不動産会社自身の事業のため」「他社からの依頼のため」の2つに分けることができます。
5-1 自社の事業に必要なため
不動産会社が自社の事業のために土地の買取・再開発を行うことがあります。例えば、自社で運営する分譲マンションや賃貸マンションの用地にする、社屋を建築する土地を確保するといった目的が挙げられます。
5-2 他社から依頼を受けるため
他社からの依頼で、土地の買取や再開発を行うこともあります。例えば「工場の拡張のために周辺の土地を買収して欲しい」「アパートを建て替えたいので立ち退き交渉をお願いしたい」といったケースです。
この場合、不動産会社は手数料や土地の転売によって利益を得られます。
6.土地の買取・再開発の利益が上がる仕組み
土地の買取・再開発によって、不動産会社はどのように利益を得ているのでしょうか。主な仕組みを詳しく紹介します。
6-1 土地を安く仕入れて不動産業者に高く売る
まずは、不動産会社に対する土地の転売によって利益を得ている場合です。訳ありの土地や、所有者が早く手放したいと考えている土地を購入することで、安く仕入れて利益を出しています。
例えば、次のような工夫で買取価格を抑えています。
- 早く売りたい人の土地を現金で即購入している
- 価値の低い土地を目当ての土地と一緒に引き取っている
- 収益の伸び悩んでいる賃貸物件を買い取る
本来の価値より安く仕入れることにより、高く売却して利益を出すことが可能です。
6-2 土地買収後に新しい物件を建てて売却する
土地を買収した後に、新たに建物を建てて売却することもあります。
例えば、空室率の高い集合住宅の土地を買い取り、一度解体してから分譲マンションを建てて収益化するといったケースが代表的です。また、更地してから転売することで利益を得るケースもあります。
6-3 土地の買取・再開発の契約形態
他社のために土地の買取・再開発を行う場合、大きく分けて2つの契約形態が存在します。
6-3-1 用地を買収後に一括して転売
複数の土地を買収してからまとめ、一つの土地として転売する場合、安く買って売却することで利益を確保しています。
買収・販売の手数料のほか、売却差益を得られるため利益も大きくなります。ただし、すべての用地の買収が完了するまで転売できないため、資金繰りに余裕がある業者向けの方法です。
6-3-2 他社の土地の買取・再開発を仲介し手数料を受け取る
他社の買取・再開発を仲介して手数料を受け取る方法もあります。
契約内容によっても異なりますが、用地買収の仲介をする場合、一件ずつ手数料が得られます。転売差益が入らないため比較的収益は小さくなりますが、買収が長引いても損失リスクを負わずに済むメリットがあります。
7.土地の買取・再開発の一般的な流れ
土地の買取・再開発では、不動産会社は利益が出る土地かどうかを入念にチェックしたうえで交渉に臨みます。一般的には、交渉が始まるまでの流れは以下のとおりです。
- エリアや対象の土地の絞り込み
- 対象の土地の登記事項を確認
- 現地調査
- 郵送や電話、直接の挨拶で土地の関係者にコンタクトを取る
- 買取交渉開始
上記は一般的な流れのため、実際にはケースによって詳細は異なります。
8.土地の買取・再開発の交渉を有利に進めるポイント
もしも、自分の所有している土地に対する買取・再開発の依頼が来た場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。
土地の買取依頼がくるときは、不動産会社は以下のいずれかの理由で、対象の土地に目星をつけている可能性が高いです。
- 買主の希望に合った土地と評価している
- 周辺一体の土地の買取・再開発が行われている
- 将来の値上がりが期待でき、投資用に買い取りたい
このポイントを踏まえ、対応方法を3点紹介します。
8-1 隣地や周辺を一体にして売却する
近隣の土地の所有者と交渉が可能であれば、一つにまとめて売却することを検討してみましょう。特に、隣地が以下の条件に当てはまる場合、より高く売れるケースが多いです。
- 隣地が空き家や空き地であり地主も処分に困っている
- 周辺の土地とまとめることで再開発しやすい土地になる
ただし、価格の査定や不動産会社との交渉などは個人で行うのは難しいため、弁護士など専門家に依頼することをおすすめします。
8-2 土地の相場価格を確認する
土地の相場を確認するのも、交渉を有利に進める重要なポイントです。相手の提示した価格が適正かどうか知らずに売ると損をする可能性があります。
土地の相場は、他の不動産会社の査定の利用や、国土交通省の取引データを確認することでも調べることが可能です。
相手の提示した価格が相場を下回っている場合、希望価格を提示して交渉してみましょう。
8-3 土地の買取・再開発の交渉に強い弁護士に依頼する
土地の買取・再開発の知識が豊富な弁護士に依頼するのも有効です。買取を打診してくる不動産会社は専門用語を交えて説明するため、自分だけではうまく交渉できないことも多いためです。
執拗な訪問や連絡に悩んでいる場合は、弁護士を代理人として窓口に指定できるため、交渉のストレスからも解放されます。実績の豊富な弁護士事務所を探し、相談してみましょう。
ライズ綜合法律事務所では、立ち退きや土地の売却を求められた際のサポートを提供しています。ご相談者様にとって最良の結果となるよう、専門知識と実績を備えた弁護士が対応いたします。
9.土地の買取・再開発に関してよくある質問(FAQ)
当事務所に寄せられる、土地の買取・再開発のよくある質問をご紹介します。
9-1 土地に関する質問
Q.最近、土地を購入したいという電話や手紙がくるようになりました。どのように対応すると良いでしょうか。
A.所有されている土地にご自身が思っている以上の価値があり、土地の買取・再開発の対象になっている可能性があります。不動産会社が直接ご自宅を訪問してくる可能性もありますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
9-2 土地の価格に関する質問
Q.業者から提示された価格が適正なのかわかりません。増額の交渉は可能でしょうか。
A.土地の買取・再開発を目的として買取を打診してくる相手の提示額は、適正価格より低く相場を下回っているケースが多いです。専門家が算出した適正価額を相手側に提示すると、増額できる場合もありますので、ぜひ弁護士へご相談ください。
9-3 立ち退きに関する質問
Q.賃貸アパートの立ち退きを求められたのですがどうしたら良いでしょうか。
A.「家を追い出されるかも」と不安になるかもしれませんが、相手の提示した条件にすぐに同意しないようにしてください。当事務所の弁護士にご相談いただければ、本記事で紹介したような土地の買取・再開発の手段や仕組みを分析し、適切に交渉します。
10.土地の買取・再開発の話には毅然と対応!不動産の専門知識を持った弁護士に相談して問題を解決しよう!
土地の買取を打診してくる相手との交渉は、大きな精神的負担がかかります。強引に交渉を進める不動産会社であればなおさらです。
交渉に際しては、弁護士に依頼することをおすすめします。適正価格の算出から相手との交渉まで任せることができるため、より小さな負担で有利に解決できます。
ライズ綜合法律事務所は、土地の買取・再開発に精通した弁護士が在籍している事務所です。不動産鑑定士とも提携しており、売却にふさわしい価格がいくらなのか、正確に算出することが可能です。
不動産案件だけでも5,000件超の相談実績があり、蓄積したノウハウで相談者様の問題解決をお手伝いします。ぜひお気軽にご相談ください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。