
物件の貸主から突然立ち退きを求められると「きちんと補償を受けられるのか」「提示された立ち退き料は正当な金額なのか」と不安になるものです。賃貸物件の立ち退き料は、法律によって定められていないため、支払いの有無や受け取れる金額は状況によって異なります。
適正に補償を受けるためには、立ち退き料の相場を理解し、必要に応じて相手方と交渉することが大切です。この記事では、以下のポイントを詳しく解説していきます。
- 物件タイプ別の立ち退き料の相場
- 立ち退き料として請求できる項目の内訳
- 立ち退き料の金額の計算方法
- 交渉する際に押さえておきたいポイント
急な立ち退きを求められて困った場合のヒントになりますので、ぜひ参考にしてください。
1.立ち退き料とは

立ち退き料は、貸主が借主に物件からの立ち退きを要求する際に正当事由が不足している場合や、貸主と借主の間で折り合いが付かない場合に、貸主が借主に支払う補償額のことです。
不動産の賃貸借に関する法律である「借地借家法」では、借主は強力に保護されています。賃貸で一般的な普通借家契約では、やむを得ない場合を除き貸主側から契約を終了させることはできません。
そのため、貸主の都合で退去を求める場合、代償として立ち退き料を受け取れるケースが多いのです。
立ち退き料と借地借家法のルールについては以下の記事で紹介しています。参考にしてください。
立ち退き料はいくらもらえる?相場や条件などを徹底解説
1-1 立ち退き料と立ち退き要請の正当事由の関係性
借地借家法第28条では、普通借家契約で貸主から立ち退きを求める場合、正当事由が必要です。正当事由がある場合であっても、その理由の強さによって立ち退き料の有無や金額が変わります。
例えば、貸主が物件を自分で使用しなければならない特別な事情がある場合などは、正当事由が強く立ち退き料の金額が下がる傾向にあります。一方で、貸主都合による物件の売却や、将来的な老朽化を見越して建て替えを行う場合などは、正当事由が弱いと判断され、立ち退き料の金額が下がらない場合が多いです。
賃借人が立ち退きしたくない理由が強い場合も、退去を拒否できたり、立ち退き料の金額が下がらないことがあります。
なお借地借家法では、立ち退きを求める理由が貸主側の一方的な都合であっても、財産上の給付(立ち退き料の支払い)を行うことによって正当事由を補完できるとしています。貸主の都合による立ち退きで立ち退き料が発生するのは、上記の規定により貸主側が正当事由を補完する必要があるためです。
参考:借地借家法第二十八条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
1-2 立ち退き要請できる正当事由を判断する要素
立ち退き要請の理由が正当事由に該当するかどうかは、以下の要素から判断されます。
- 1)賃貸人と賃借人が建物を必要とする事情
- 2)建物の賃貸借に関する経過
- 3)建物の利用状況
- 4)建物の現況
- 5)立ち退き料の支払いに関する申出の有無
立ち退きの正当事由については、以下の記事でも詳しく紹介しています。
2.【タイプ別】立ち退き料の平均相場
立ち退き料の金額は状況によって異なるため、明確な規定はありません。個人で交渉を行う場合、概ね家賃の6~12ヶ月分が相場となります。
物件のタイプによっても金額は異なり、以下が目安の金額です。
| 賃貸アパートやマンション | 40万~80万円程度 |
| 賃貸戸建て | 賃料によるが概ね上記と同様 |
| 店舗・オフィス・事務所 | 300万~2億円 ※小規模な事務所なら居住用物件と同等のケースもある |
具体的な金額は、借主と貸主の双方がお互いの状況や次の物件を手配するのにかかる負担などを考慮し、交渉した上で決定します。
2-1 オフィス・事務所
対象の物件をオフィスや事務所として使用していた場合、現在の家賃の1~3年分が立ち退き料の相場となります。
設備や機械、顧客を失う影響が少ないことから、店舗より少額になるケースが多いです。ただし、業種によっては得意先損失補償が認められる可能性は十分にあります。また、地域密着型のビジネスの場合や、拠点の移転に時間がかかる場合、休業補償も請求の対象にできます。
オフィスの立ち退きについても、状況によっては、大きな立ち退き料を求めることができます。
2-2 借地
貸主の土地を借りて一軒家を建てていた場合、退去も大ごとです。このケースでは、以下の内容が立ち退き料の金額に考慮されます。
- 借地権の価額
- 建物の価額
- 引越しにかかる費用
借地権とは、土地を利用する法的な権利のことです。財産的価値が認められており、立ち退きによって失う場合は補償の対象となります。
また、土地に建物を建てている場合は退去によって放棄しなければならないため、建物の価額も補償の対象です。貸主との契約期間が満了するタイミングで、建物を買い取るよう求めることもできます。
3.立ち退き料の内訳と決まり方

立ち退き料には、立ち退きに関して発生するさまざまな費用を含めることができます。では、具体的に何を補償してもらえるのか、内訳を詳しく見てみましょう。
3-1 引越し費用
通常、移転先への引越しにかかる費用は、消費税と合わせて立ち退き料に含めることができます。
中には引越し業者への支払いの全額は引越し費用として認めないという貸主もいますが、こうしたケースでも、以下は立ち退き料に含むと考えて良いでしょう。
- 荷造りや開梱の作業費
- 輸送費
- 段ボール代
引越し費用は、現在の生活状況を移転先に再現するためのものと考えられています。不用品の処分費や家電のリサイクル料は引越し費用として認められない可能性があるため注意してください。
ただし、特段の事情がなければ「用対連基準(国が公共用地を取得する際の損失補償基準)」に従い、賃貸の面積を参考に計算するのが一般的です。荷物の量や種類、新居までの距離、世帯人数、部屋の大きさ、引越しの時期など、用対連基準に当てはめるのが適切でない特別な事情がある場合は、実際の引越し業者の見積りを根拠とすることもあります。
3-2 不動産会社への敷金・礼金・仲介手数料
新居を探したり、契約したりする際に発生する敷金や礼金、仲介手数料も移転費用として立ち退き料に含めることが一般的です。
| 仲介手数料(賃貸) | 最大月額賃料の1ヶ月分 |
| 仲介手数料(売買) | 最大売買金額の3%+6万円(売買価格が400万円を超える場合) |
| 敷金 | 転居前の物件との差額 |
| 礼金 | 全額請求が可能 |
敷金は本来は賃借人が預けるお金のため、立ち退き料の補償には含まれないことが多いですが、転居前の物件より転居後の物件の方が高い場合は差額分を請求できます。
売買で移転先を確保した場合は、不動産会社への仲介手数料のほか不動産取得税や登録免許税も立ち退き料として請求できる場合があります。
3-3 賃料差額
転居により賃料に差額が発生する場合は、こちらも立ち退き料に含められます。
転居前と同水準の物件を選んだ場合でも、地域の家賃相場などによっては、必ずしも同額の家賃で収まるとは限りません。転居後の家賃が転居前よりも上がり、その金額が適正な相場であれば、消費税も含めて差額の請求が可能です。
一般的に差額を算出する際は、以下の計算式が基準となります。
「(新しい入居先の賃料 – 現在の賃料) × 1~3年分」
なお、当事務所で実際に取り扱う案件では、賃料の差額はあまり出ないケースも少なくありません。
3-4 慰謝料・迷惑料
立ち退きに関して精神的苦痛が発生した場合、慰謝料や迷惑料が含まれることもあります。
住み慣れた土地を離れなければならないケースや、利便性が悪化するケース、新生活に必要な家財の準備などにより精神的な負荷がかかる場合、精神的苦痛を慰謝する目的で支払われることがあります。
慰謝料が発生する場合、前述の補償に加えて、数十万円から100万円ほど上乗せされることが多いです。
詳細は貸主側との交渉次第ですが、明確な不法行為などがない場合、借主から迷惑料や慰謝料を求めることは難しくなります。
3-5 借家権の補償
借家権とは、借家を利用する権利のことです。「利用権の補償」ともいい、借家権分を考慮して立ち退き料が上乗せされることもあります。住み心地や暮らしやすさといった権利が立ち退きによって侵害されることから、状況によっては補償の一部に含みます。
ただし、借家権が財産として取引されることが稀なため評価が難しく、適正額の算出が困難です。一般的な補償額も数万円と低額なため、ほかの項目と合算されるか、個別に考慮されない可能性もあります。
3-6 利益の補償
店舗など、事業用の物件から立ち退きが発生する際は、休業や移転により発生する損失に対し営業補償の請求が可能です。
営業補償として請求できる費用には、代表的なものとして以下が挙げられます。
| 休業補償 | 営業できない期間の利益補償 |
| 給料補償 | 従業員に支払う給料の補償 |
| 固定費補償 | 休業中に発生する固定費の補償 |
| 得意先損失補償 | 既存の顧客を失うことに関する補償 |
| そのほか(広告費用など) | 新天地での広告費や移転による求人、新規雇用にかかる費用など |
店舗の移転の場合、これらの費用を含めて立ち退き料が数百万円~数億円と高額になる傾向があります。
4.立ち退き料の受け取り時期
立ち退き料の受け取りは、無用なトラブルを防ぐ目的で、建物の明け渡しと同日に行うのが通例となっています。
ただし、明け渡し前に引越しや移転先の契約を行う場合などは、経済的に負担が大きいケースもあります。早めに立ち退き料が欲しい場合は、交渉次第で応じてくれることもあります。
立ち退きの条件に合意できず裁判で解決した場合、立ち退き料の支払いは明け渡しと引き換えに行われます(引換給付)。任意での交渉や和解で解決できれば、先に引越し費用などを受け取れるため、早期の受け取りを希望する場合は弁護士に交渉を依頼することをおすすめします。
5.立ち退き料の計算方法

立ち退き料を計算する方法として、以下の4種類が代表的です。
- 収益還元方式(差額賃料還元方式)
- 割合方式
- 収益価格控除方式
- 比準方式
それぞれの特徴と、計算の方法を詳しく紹介します。
5-1 収益還元方式(差額賃料還元方式)
「収益還元方式(差額賃料還元方式)」は、以前の物件と移転先の賃料を計算し、一定期間分の差額を借家権の価額として評価する方法です。この借家権の価額を、立ち退き料の金額として支払います。
計算式は以下の通りです。
借家権 = (移転先で支払う賃料 – 現在支払っている賃料) × 複利年金現価率
一般的には、2年分を複利年金現価率として設定した上で、立ち退き料として支払います。
5-2 割合方式
「割合方式」は、土地や建物の価格と、借地権の割合を掛けて計算する方法です。
計算式は以下の通りです。
借家権 = (土地価格 × 借地権割合 × 借家権割合) + (建物価格 × 借家権割合)
借地権割合と借家権割合には、一般的に相続税路線価(※)の数値が利用されます。
※相続税路線価:国税庁が定める道路に面する標準的な宅地の1㎡当たりの価格
5-3 収益価格控除方式
「収益価格控除方式」では、貸主が自ら建物を利用する場合の価値から、借家として利用する場合の価値を差し引き立ち退き料を算出します。物件を貸すことで、自由に利用できず低下した価値の分を、借家権として評価する考え方です。
計算式は以下の通りです。
借家権 = 自ら利用した場合の土地と建物の価格 – 借家として利用した場合の土地と建物の価格
貸主が自ら利用した場合の価値が高く、借家にすることで大きく価値が下がる場合は、借家権は高額になるため立ち退き料も増加します。
5-4 比準方式
「比準方式」は、借家権の過去の取引事例を算定基準とした計算方法です。
計算式は以下の通りです。
借家権 = 借家権の取引事例価格 × 類似の取引事例と比較した比率
借家権は、市場で取引されることは非常に稀です。そのため、比準方式はあくまで推計や参考値として用いられるのが一般的です。
6.立ち退き料がもらえるケース

貸主が借主に対して立ち退きを求める際に、正当事由に該当する理由がない場合や、理由が不十分な場合、借主は貸主に対して立ち退き料を請求できます。
具体的にどのようなケースが対象なのか、具体例を3つ紹介します。
6-1 大家都合
大家側の事情によって立ち退きを求められた場合は、立ち退き料請求の対象です。例えば貸主が自分で住みたい、第三者に売却したい、親戚や知人に貸したいといった理由であれば立ち退き料を請求する余地があります。
6-2 老朽化によるマンション建て替えやアパート取り壊し
建物が古くなってきたので建て替えたい、取り壊したいといった理由で立ち退きを求められた場合も、立ち退き料を請求できることがあります。建物の老朽化を正当事由とするには、倒壊の恐れがあるなど「住み続けることが明確に危険」でなければなりません。
6-3 土地の再開発
市街地のリニューアルや都市機能の向上を目的として再開発が行われる場合も、立ち退きを求められることがあります。再開発に応じて立ち退く場合は補償が行われることが基本となっているため、立ち退き料は受け取れますが、増額の交渉は難しいケースが多いです。
7.立ち退き料がもらえないケース
物件から立ち退く際に、どのような場合も立ち退き料が請求できるわけではありません。立ち退き料がもらえないケースを、具体例を挙げて紹介します。
7-1 借主の契約違反
借主が賃貸借契約に違反した場合、立ち退き料を受け取れない可能性があります。長期間に渡る家賃の滞納や第三者への無断での転貸、故意または重過失による物件の損壊などが代表的です。
こうした場合は立ち退き料を受け取れないばかりか、違約金や原状回復費用を請求される可能性もあります。
7-2 老朽化などで危険性の高い建物
建物の老朽化が著しく、住み続けることが危険な場合は正当事由に当たるため、立ち退き料を受け取れない可能性があります。該当するのは、災害で建物が著しく損傷した場合や、倒壊の恐れがある場合などです。
なお、実際の交渉では、この場合も立ち退き料が支払われることが多いです。金額が相対的に低くなりやすい点には注意してください。
7-3 定期借家契約期間の満了
建物の賃貸借契約が「定期借家契約」の場合、期間満了に伴う立ち退き(退去)では立ち退き料を請求できません。
賃貸借契約で広く行われる普通借家契約とは違い、定期借家契約は更新を前提としていません。期間満了により貸主側から賃貸借終了を主張することが可能な契約方式のため、補償の対象にならない点に注意してください。
8.立ち退き料を受け取るまでの流れ

立ち退きの説明・通知から、立ち退き料を受け取るまでの流れは以下の通りです。
- ①立ち退きの説明・通知を受ける
- ②契約内容と相手方の通知内容を確認する
- ③弁護士に相談し立ち退きの交渉を依頼する
- ④交渉や調停、裁判によって解決する
- ⑤退去の準備を行う
- ⑥立ち退き料を受け取る
便宜上調停や訴訟の手続きを含めていますが、当事務所の場合、立ち退き料をめぐる交渉の9割以上は任意交渉で解決します。
立ち退き料をもらうまでの流れや対処法については、以下の記事でも紹介しています。参考にしてください。
立ち退きを求められたらどうする?確認すべきこと、初動の対応方法を解説
立ち退きを請求されたらどうする?弁護士に依頼するメリットを徹底解説
9.立ち退き料を多くもらうための交渉のポイント
立ち退き料を多くもらいたい場合、以下のポイントに注意して交渉を進めてください。
- 立ち退きの理由が正当事由に当たるか確認する
- 引越し費用などの実費を請求する
- 立ち退きの意思がないことを伝える
- 物件の利用の必要性を主張する
- 弁護士に交渉を依頼する
弁護士に交渉を依頼するとどのようなメリットがあるのか、以下の記事も参考にしてください。
立ち退きを請求されたらどうする?弁護士に依頼するメリットを徹底解説
10.立ち退き料の相場を踏まえた適正額を得るには弁護士への相談が近道
最終的に立ち退き料をどのくらい受け取れるかは、交渉の進め方によって大きく異なります。相場を踏まえて交渉することも大切ですが、中には相手方から相場以下の立ち退き料で退去をしつこく求められるといったケースもあります。
立ち退き料を適切に受け取るなら、早期に弁護士に相談することが大切です。貸主との交渉を任せられますし、書類面や税務処理の面など、幅広く法的なサポートを受けられます。
ライズ綜合法律事務所は、これまでに30万件を超える法律相談の実績があります。立ち退き問題に関しては、相談実績1万5,000件以上・解決実績3000件以上の豊富な実績とノウハウを活かして最適な解決方法をご提案します。相談料無料で全国対応していますので、立ち退きを要求されてお困りの際は、お気軽にご相談ください。
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。


