法律コラム

立ち退き

2022/10/03

立ち退き料はいくらもらえる?相場や条件などを徹底解説

賃貸物件を借りていると、貸主から立ち退きを求められることがあります。ただし、貸主による立ち退き要求は無制限に認められているわけではありませんし、立ち退き要求が貸主事情であれば立ち退き料が発生することが一般的です。 本記事では、貸主が借主に立ち退きを求めるときに必要な要件や立ち退き料の相場について解説します。
立ち退き料はいくらもらえる?相場や条件などを徹底解説

1.立ち退き料とは

貸主が借主に対して普通借家契約普通賃貸借契約の解除や更新を拒絶するとき、借地借家法28条では「正当な事由」が必要とされています。

立ち退き料とは、貸主が立ち退きを要求する事由に正当性が不足している、あるいは正当な事由について貸主と借主が折り合わない場合に、貸主から借主に支払われる金銭補償額です。つまり、更新がない定期借家契約の満期になったなどのように、貸主の立ち退き要求に正当な事由があれば、立ち退き料は発生しません。

また、立ち退き料の金額や計算方法は法律で具体的に決められていません。したがって、立ち退き料は貸主と借主が交渉したうえで、ケースバイケースで決まります。ただし、専門的な計算方法についてもいくつか存在します。

1-1 借地借家法第28条により定められている 借地借家法による賃借人の保護

借家人賃借人としての借主の地位は「借家権」として、契約期間中にわたり借地借家法という法律により保護されます。特に普通借家契約普通賃貸借契約では、貸主が借主に賃貸借契約の更新を拒否し立ち退きを要求する場合、借地借家法第28条では借主保護の観点から「正当な事由」が必要と定められています。

ここでいう正当な事由には、

  • 1)賃貸人と賃借人の建物の使用を必要とする事情
  • 2)建物の賃貸借に関する従前の経過
  • 3)建物の利用状況
  • 4)建物の現況
  • 5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出

建物を貸主自身で使用もしくは取り壊し・再建築するなどのほか、貸主から借主に対する財産上の給付(立ち退き料の支払い)が考慮されます。

つまり、立ち退き料は立ち退きのために不足している正当性を補う目的で支払われる金銭という性質があるのです。

 

2.立ち退き料を要求できるケース

貸主が借主を退去させるためには、正当な事由が必要です。正当な事由がない、あるいは不十分である場合、借主は退去する条件として貸主に立ち退き料を要求できます。

以下では、立ち退き料が発生するケースの具体例についてご説明します。

2-1 貸主都合による立ち退き

貸主都合による立ち退きであり、その事由理由に正当性がない、あるいは不十分の場合、借主は貸主に立ち退き料を要求できます。貸主から立ち退きを要求されたときはその理由を尋ね、その正当性の有無をしっかりと確認してください。

以下のような理由による立ち退きの要求は貸主都合ですので、立ち退き料を要求できます。

  • 貸主の自己使用に切り替えたい
  • 第三者に売却したい
  • 取り壊して収益性の高い物件に建て替えたい
  • 高い賃料が見込めるほかの借主に貸したい
  • 借主が高齢や無職であり、転居先を見つけることが難しい

2-2 再開発による立ち退き

再開発とは、不動産の所有者やデベロッパーを中心とする再開発組合などが、すでにある建物を取り壊して土地の区画や形質を変更し新たな建物や工作物を建設することです。再開発に応じて立ち退く場合、借主は立ち退き料金銭補償を要求できます。

再開発が理由による立ち退きであれば補償が提示されることが基本であるため、ほぼ確実に立ち退き料は受け取れます。しかし、補償額を増額したい場合、借主が再開発組合と単独で交渉し、増額することは難しいでしょう。そのため、提示された補償額が少ないと感じる場合は弁護士に依頼する相談されるようにしてください。

2-3 老朽化によるマンション建て替えやアパート取り壊し

建物が建築基準法の新耐震基準が適用された1981年6月以後に建築されている場合「建物が古くなったから取り壊して建て替える」だけの理由は、貸主が立ち退きを要求するときの正当な事由として不十分です。この場合、借主は立ち退き料を要求できます。

建物が古くなっただけではなく、このまま放置すれば建物が倒壊するなど明らかに危険な状態になければ、建物の取り壊し・建て替えは立ち退きの正当な事由になりません。築年数が経過がしている、といった理由だけでは、立ち退き料を要求できます。

ちなみに、建物の老朽化が進み安全性に問題があることが建て替えが理由であっても、立ち退き料は支払われるケースの方が多いでしょう。

ただし、建物の安全性を理由とする建て替えの場合、立ち退き料は相対的に低くなることがあります。建て替え後の建物に引き続き居住することを前提としている場合も同様です。

 

3.立ち退き料がもらえないケース

貸主から一方的に立ち退きを求められたとしても、借主に立ち退き料を要求する権利は無条件に発生するわけではありません。場合によっては、立ち退き料がもらえないことがあります。以下では、立ち退き料をもらえない代表的なケースについてご紹介します。

3-1 老朽化により人体に危険が及ぶほどになってしまったとき

貸主による立ち退き要求の正当な事由として建物の取り壊し・建て替えが認められるか否かを決めるものは、築年数ではなく建物の安全性次第です。

行政機関や第三者の専門家などによる調査の結果、地震などの災害発生時に倒壊が予想されるほど建物の老朽化が進んでいるときは、安全のために立ち退きが必要となります。この場合は建物の周辺と借主をはじめとする居住者の安全を確保することが、建物の取り壊し・建て替えに伴い借主に退去を要請する正当な事由とされます。

したがってそのため、貸主への立ち退き料の要求は難しくなります。ただし「倒壊のおそれがあるほど老朽化」しているかどうかは、貸主や借主の自己判断では難しい可能性もあり、急な立ち退きに困っている場合は、弁護士に相談したほうがよいでしょう。

3-2 借主側に契約違反などがあったとき

借主に賃貸借契約書の条項に違反するような行為が認められるとき、貸主へ立ち退き料を要求しても認められることは難しくなります。どのような行為が該当するのかは、以下のとおりです。

  • 家賃を何か月も滞納している
  • 承諾なく第三者に転貸している
  • 故意または重大な過失により物件に損害を与えている
  • 公序良俗に違反する目的や反社会的な用途に使用している

上記を理由として貸主が立ち退きを求めてきた場合、それは貸主の都合による立ち退きではなく、借主の重大な契約違反が理由となります。このため、借主は立ち退き料を要求できないばかりか、貸主から遅延損害金や違約金、原状回復費用などを要求されることもあります。

3-3 定期建物賃貸借契約の満期後

建物の賃貸借契約には、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約があります。期限がある普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約は、賃貸借期間が短期(住居の場合は2年が多い)である点が共通しています。

一方、大きく異なる点は契約の更新の有無です。

普通建物賃貸借契約と異なり、定期建物賃貸借契約には期間満了時の更新はありません。したがって、定期建物賃貸借契約では契約期間満了日をもって契約は終了し借主は退去します。この場合、貸主と借主の合意に基づいた当初の契約に基づいて賃貸借契約が終了しただけに過ぎないので、立ち退き料は発生しません。

 

4.立ち退き料として含められるものの例

居住用物件の立ち退き料は、主に借主が失う借家権に対する補償(必ず認められる訳ではありません)と転居のため借主に発生する移転費用で構成されます。ただし、移転のための費用であれば何でも立ち退き料として含まれるわけではなく、場合によっては減額されます。以下では住居として借りている場合に立ち退き料として含められる費用についてご紹介します。

4-1 引越費用

退去先への引越費用は、動産移転料や工作物移転料などとして消費税と合わせて立ち退き料に含められることが一般的です。

ただし、なかには引越業者に依頼した内容すべてを一律で引越費用としては認めないという貸主もいます。そのような場合でも、立ち退き料として引越費用に含まれると考えられる費目は以下の通りです。

  • 荷役・輸送作業料
  • 荷造・開梱作業料
  • 開梱作業料
  • 荷造りに必要な段ボール代

引越費用として認められやすい費目は、あくまで現在の生活状況を転居先に再現するために必要なものです。そのため、不用品を処分するための費用や家電リサイクル費用は引越費用として認められない可能性があります。

4-2 不動産会社への仲介料

転居先を不動産会社の仲介で探し、不動産会社へ仲介手数料の支払いが発生した場合は移転費用の1つとして立ち退き料に含めることが一般的です。法律で定められた仲介手数料の上限は、以下のとおりです(消費税含めず)。

  • 賃貸の場合…月額賃料の1か月分 最高裁の判例で仲介手数料は0.5ヵ月とされています
  • 売買の場合…売買金額の3%+6万円(売買価格によって異なります)そもそも物件を購入した場合の仲介手数料は対象外となります。

売買で移転先を確保した場合は、不動産会社への仲介手数料のほか不動産取得税や登録免許税も立ち退き料として要求できる場合があります。

4-3 敷金・礼金

転居先が賃貸物件の場合、移転先物件の貸主に敷金・礼金の支払いが発生することがあります。この場合、新たに発生する敷金・礼金は以下の範囲で立ち退き料に含め要求できることが一般的です。

  • 敷金…転居前の物件との差額
  • 礼金…全額

転居前の敷金は全額返還が原則のため、立ち退き料には含まれません。退去により返還される敷金よりも転居先の敷金が高く、それを借主が負担できないなどの場合に、その差額を立ち退き料に含めて要求できます。

4-4 家賃が上がるときはその差額分

転居後の賃料が変わらなければ、できるかぎり立ち退き前の転居先の広さ・間取り・築年数・利便性や周辺を含む住環境の水準を維持できることが、借主にとって望ましいといえるでしょう。

しかし、たとえ転居先が転居前と同程度の住環境を維持できたとしても、必ずしも家賃の額を維持できないことがあります。転居前の住環境を維持することを前提として、転居後の家賃が転居前よりも上がった場合、それが適正な相場水準であれば差額分は消費税と合わせて立ち退き料に含め要求できます。

4-5インターネットや電話の回線移転費用

生活するうえで、インターネットや電話は欠かせないインフラの1つです。転居前と同じ住環境・生活水準を維持するための観点からも、回線を移転するための費用は消費税と合わせて立ち退き料に含め要求できると考えられます。その観点から、電気・ガス・水道の移転または開設に要する費用も同様です。

このほか、冷蔵庫やエアコンなど生活に必要な家電製品を転居先に移転・設置することで発生する電気工事の費用についても同様と考えて差し支えないでしょう。

 

5.立ち退き料はいくらもらえる?

立ち退き料の算出方法および金額は、法律では何も規定されていません。そのため、借主・貸主の双方が互いの状況を交渉したうえで決めなければなりません。

立ち退き料の計算方法としては、様々な計算方法があり、どのような計算方法が適切かというのはまだ決まっておりません。移転費用や賃料差額を計算する方法や賃料の数か月分を立退料として計算する方法、借家権価格を計算する方法などがあります。

相場の1つに、借家権の相当額(建物の積算価額×30%)に移転費用および家賃上昇分(1年〜3年分、消費税含む)を加算して算出する方法があります。しかし、計算の要素に双方の主張が入ることもあるため、結局は双方の交渉と合意によって決まります。

 

6.立ち退き料をもらえないとき

貸主と借主では、立ち退きを求める正当な事由についての考え方が異なることがあります。このような場合、借主が立ち退き料の支払いを要求しても貸主が拒否するかもしれません。以下では、貸主が立ち退き料を支払わないときに取るべき対処法についてご説明します。

6-1 直接交渉はしないほうがよい

立ち退き料の支払いを巡る交渉は、まず貸主・借主の当事者同士で話し合うべきという考え方もあります。

しかし、話し合いがまとまらず当事者間で感情的なもつれが発生すると、貸主が立ち退きを要求する理由に「お互いの信頼関係が失われた」というものが加わることになりかねません。こうなると、本来もらえるはずの立ち退き料が少なくなる可能性があるため、貸主との直接交渉はしないほうがよいでしょう。

また、当事者同士で話し合う時点で、立ち退くことを前提する話になってしまうため、立ち退き料の交渉としては、相手が優位に進む可能性があります。

立ち退き料の提示や交渉には、法的な知見や駆け引きの技術が必要になります。立ち退き料に関する交渉は、弁護士に依頼するようにしてください。

6-2 立ち退き料について入居者側から訴訟は起こせない

立ち退きを求められたときの立ち退き料に納得いかなくても、貸主を相手取って借主から訴訟は起こせません。しかし、貸主が建物の明け渡しを求めて借主を提訴してくることはあり得ます。

立ち退きを巡る調停や裁判における和解や判決は、立ち退きを認め、正当な事由の補填として立ち退き料の金額を決定することがほとんどになります。多くが立ち退き料の金額の決定です。そのため、立ち退きを巡る調停や裁判を提訴された場合、速やかに専門家である弁護士に相談し、交渉を進めることが重要です。立ち退きを巡りトラブルになったときは早めに貸主へ立ち退き料の支払いが必要であること、金額次第で解決できることを納得してもらうための交渉が重要です。

 

7.立ち退き料に関する解決事例

繰り返しになりますが、立ち退き料を巡る貸主とのトラブルは当事者間だけで解決しようとせず、弁護士に依頼するようにしてください。ここでは、弁護士に依頼したことで解決した事例を紹介します。

7-1 立ち退き料の支払いを拒否する貸主との交渉

老朽化した賃貸マンション建て替えのために貸主から退去を要請されたAさんは、貸主に立ち退き料について質問したところ「そんなもの払わない」との回答でした。貸主は老朽化物件の建て替えであれば貸主都合退去であっても立ち退き料は発生しないと勘違いしていたようなのです。

Aさんから相談を受けた弁護士は、貸主と交渉し借地借家法や最近の判例などを根気よく説明しました。その結果、Aさんは納得できる水準の立ち退き料を受け取ることができました。

7-2 著しく低い立ち退き料の増額

賃貸物件で飲食店を経営していたBさんは、貸主から提示された立ち退き料の金額に疑問を感じ、弁護士に相談しました。

弁護士が貸主から提示された立ち退き料の算定根拠をみると、それには移転に伴う休業損害や退去先の改装費用を何も考慮していませんでした。弁護士は貸主に休業に伴う売り上げ減少や退去による得意先喪失も考慮に入れる必要があると貸主に交渉し、立ち退き料の増額に成功しました。

 


まとめ

賃貸物件の借主は借地借家法で保護されており、貸主から退去要請があったときは立ち退き料を要求できる可能性が高いです。

一方、立ち退き料の金額を巡る貸主との交渉には、法律の知識や特有の交渉技術が必要になります。相場通りの立ち退き料を受け取るためには、弁護士に依頼したほうがよい結果になる可能性は高いでしょう。そのため、ひとりで悩むのではなく、立ち退き料の交渉を取り扱っている弁護士に相談するようにしてください。

弁護士法人ライズ綜合法律事務所では、立ち退き料の交渉について実績が豊富な弁護士が多数在籍しており、依頼者に寄り添いながら貸主と交渉します。提示された立ち退き料の金額に納得いかない、貸主との交渉に不安な方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。東京弁護士会所属。

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