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立ち退き

2026/01/23

老朽化による退去で立ち退き料は支払われない?相場と正当の事由の判断は?

建物の老朽化を理由に大家から退去を求められても、立ち退き料をもらえる可能性は十分あります。本記事では、立ち退き要請を受けた住民の方向けに、建物の老朽化が正当の事由に当たるかどうかの判断基準や立ち退き料の相場(内訳)、過去の判例を解説します。
老朽化による退去で立ち退き料は支払われない?相場と正当の事由の判断は?

「建物が老朽化したため建て替え工事を計画しており、退去してほしい」「安全性に懸念があるから部屋を明け渡してほしい」と貸主から連絡が来た場合、どのように対応したらよいのでしょうか。安全面を考えればやむを得ないように思えますが、貸主の一方的な都合とも言い切れないため「立ち退き料を受け取れないのではないか」と不安になる方も少なくありません。

本記事では「建物の老朽化」に焦点を当てて、立ち退き料の相場や内訳、交渉時のポイントを分かりやすく解説します。法的な判断基準や、適切な補償を得るために押さえておきたい対応策が分かります。

【この記事で分かること】

  • 建物の老朽化が法的に正当の事由として認められるのか
  • 老朽化による退去でも立ち退き料がもらえるのか、その可能性と金額の相場
  • 適正な立ち退き料を受け取るために、貸主側と交渉する際の重要ポイント

老朽化による退去時でも立ち退き料はもらえる可能性がある

建物の老朽化を理由とした退去要請でも、立ち退き料をもらえる可能性は十分にあります。「老朽化が理由なら仕方ない」と、不利な条件で合意してしまわないよう注意しましょう。

なぜ立ち退き料がもらえる可能性があるのか、その法的な根拠について詳しく解説します。

立ち退きを要請するには正当の事由が必要

鉄筋コンクリート造のマンションは、税法上の法定耐用年数が47年と定められており、築年数が経過すれば建て替えが検討されるのは事実です。しかし貸主と普通借家契約を交わしている場合、借主(住民)が住み続ける権利は借地借家法という法律で強く保護されています。

そのため住み続ける権利が不当に失われることがないように、貸主側の都合で契約の更新を拒絶したり解約を申し入れたりする際は、借地借家法第28条に基づき、正当の事由が必要と定められています。

(建物の賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
“第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

※出典:e-Gov法令検索.「借地借家法 第二十八条」,(参照2025-11-11).

この条文のポイントは、貸主都合の退去には正当の事由が必要で、その判断材料の一つとして財産上の給付(=立ち退き料)の申し出が考慮されると定められている点です。

例え老朽化が立ち退きの理由であっても、貸主側の正当の事由を補うために、借主は立ち退き料を請求できる可能性があります。

※参考:国税庁.「主な減価償却資産の耐用年数表」,(参照2025-11-11)

アパートやマンションの老朽化は正当の事由に当たらない?

住民の安全のために建物を取り壊すと説明されると、やむを得ない事情(正当の事由がある)ように感じます。事実、一口に老朽化といってもケースによって判断が分かれる場合もあり、一概にまとめることができないのです。

裁判所が正当の事由の有無を判断する際は、以下の要素を総合的に考慮します。

判断要素 概要
建物の現況 老朽化の程度(例:倒壊の危険性の有無)
大家側の事情 建て替えの必要性(例:具体的な計画)
借主側の事情 住み続ける必要性(例:居住年数、転居の困難さ)
財産上の給付 立ち退き料の提示額が十分か
その他の事情 家賃滞納の有無など、これまでの経過

重要なのは、単に築年数が経過しているだけでは老朽化と見なされず「正当の事由がある」とは認められにくい点です。老朽化の程度によって正当の事由が認められるケースについては、後述します。

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提示された立ち退き料が適正か分からない、貸主側から「老朽化だから立ち退き料は出ない」といわれた、立ち退きの期限が迫っていて不安といったお悩みは、立ち退き交渉に強い弁護士への相談をおすすめします。弁護士法人ライズ綜合法律事務所では、立ち退きに関するご相談を無料で承っておりますのでお気軽にお問い合わせください。

アパートやマンションの老朽化で退去する場合の立ち退き料の相場

立ち退き料には法律で定められた明確な定価がないため、貸主から提示された金額が妥当なのかは、簡単に判断できないものです。

ここでは、借主自身が交渉をした場合の一般的な立ち退き料相場をご紹介します。立ち退き料は個別のケースによって判断が分かれるため、あくまでも目安としてお考えください。

賃貸物件の立ち退き料相場

ご自身で大家側と交渉した場合、賃貸物件(アパート・マンション)の一般的な立ち退き料は、現在の家賃の6〜12カ月分に相当する額が多いとされています。例えば、家賃10万円の物件の立ち退き料は60〜120万円程度です。

ただし、先述したように立ち退き料は正当の事由の判断要素によって、大きく変動します。また弁護士が交渉する場合、借主側の事情や大家側の事情の強弱を整理し、実費を積み上げることで、相場よりも高い立ち退き料を請求できるケースも少なくありません。

なお、裁判所が立ち退き料を決める際、家賃だけを根拠に計算することはほぼありません。家賃の〇カ月分という計算方法は、あくまでも、簡易的な計算方法と考えてください。

店舗用物件の立ち退き料相場

店舗や事務所などの事業用物件の立ち退き料の相場は、家賃の2〜4年分が目安とされています。店舗用物件の場合、引っ越し費用などに加えて営業補償(休業中の利益、顧客喪失の損失など)が含まれるため、住居用よりも高額になる傾向にあります。

特に営業補償の算出方法は、業種や経営状況によって全く異なるため、相場という考え方自体が馴染みにくく、個別に算定して交渉することが重要です。

老朽化でも退去費用を出してもらえないケースもゼロではない

借主は借地借家法に基づき立ち退き料をもらえる可能性が高いですが、老朽化が極めて深刻な場合は、退去費用を出してもらえない、または低額になるケースもゼロではありません。これは老朽化の程度が著しく、住民の安全確保が優先されると客観的に判断される以下のような場合です。

  • 行政から避難勧告が出ている
  • 衛生状況が著しく悪化し、居住不可能な状態である
  • 取り壊しを承知の上で入居した(定期借家契約など、期間満了で終了する契約)

上記のようなケースでは、大家側の正当の事由が認められ、立ち退き料なしで退去が命じられる可能性があります。築年数が古いというだけで、これに該当することはまずありません。

立ち退き料の内訳

先述した立ち退き料の相場は、あくまでもおおよその目安です。適正な立ち退き料を算出し貸主と交渉をするには、その中身(内訳)を理解しておくことが重要です。

家賃10万円の物件から13万円の新居に移転する場合を例に、主な内訳を見ていきましょう。

項目 費用の内容・具体例 目安金額
1. 引っ越し費用 引っ越し業者代、不用品処分費など 10万円程度
2. 移転先確保費用 新居の礼金、仲介手数料など 30~40万円程度
3. 借家権価格 住み続ける権利の補償など (新居の家賃 – 現在の家賃) × 1~3年で計算 36~108万円程度
4. 営業補償(店舗のみ) 休業補償など 個別算定

例えば、この条件で内訳ごとに算出金額を足し上げると以下のようになります。

  • 引っ越し費用10万円 + 移転先確保費用30万円 + 借家権価格72万円(2年で算出) = 112万円

立ち退き料の相場や内訳についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。

大家都合による退去時の立ち退き料の相場は?内訳や判例を紹介!

建物の老朽化だけでは正当の事由が認められなかった判例

ここでは貸主側が建物の老朽化を主張しても、それが正当の事由として認められなかった判例をご紹介します。

【判例1】築約50年、倒壊の危険が認められなかったケース(東京地判令2・3・13)

築約50年の建物で、大家が300万円の立ち退き料を提示した事例です。 裁判所は、建物の壁のひび割れや漏水などが見られず耐震性能の検証がされていない点などから、倒壊する危険があると認められないと判断。借主が長期間生活の本拠としてきた事情も考慮し、賃貸借継続に対する期待を保護する必要性は高いとして、正当の事由はないと判断しました。

【判例2】築57年、補強が可能と判断されたケース(東京地判令元・12・12)

築57年の戸建住宅で、大家が840万円の立ち退き料を提示した事例です。裁判所は専門家の意見書に基づき、早急な建て替え工事が必要とはいえず、補強は比較的簡単に行えると判断。さらに借主が高齢で重い疾病を抱えている状況から、転居が生命・身体に関わる懸念になるとし、立ち退き料を検討するまでもなく正当の事由は認められないと結論付けました。

※参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構.「築後57年を経過した木造平屋戸建て住宅の貸主からの解約告知に、正当事由は認められないとされた事例」,(参照2025-11-08).

これらの判例のように、単なる築年数だけでは老朽化 = 正当の事由とは認められません。大家側が倒壊の危険性を客観的に立証できず、むしろ補修・補強が可能と判断された場合、立ち退き要請自体が棄却されたり高額な立ち退き料の支払い命令が下されたりする可能性もあります。

建物の老朽化が正当の事由と認められた判例

一方、老朽化が正当の事由として認められ、住民の立ち退きが認められた判例もあります。

【判例1】築95年超、耐震性・耐火性の問題が考慮されたケース(東京地判平25・12・11)

築95年以上が経過し、国土交通省が発表した「地震時に著しく危険な密集市街地」に所在する木造建物の事例です。貸主側は、建築士の診断に基づき耐震性・耐火性の問題を理由に建て替えの必要性を主張しました。裁判所は、借主が高齢であり転居の負担が大きい状況である事情を考慮し、最終的に、貸主側が立ち退き料(移転費用や差額家賃相当)として215万円を提供することを条件に、正当の事由を認めました。

【判例2】築45年超、アパート全体の著しい老朽化により建て替えが妥当と判断されたケース(東京地判令2・2・18)

築45年以上が経過したアパートについて、貸主が老朽化と倒壊の危険を理由に立ち退きを求めた事例です。建物全体の老朽化が顕著で倒壊の可能性が高く、耐震工事や修繕ではなく取り壊しの必要性が高い状態でした。裁判所は、借主側の居住の必要性も考慮し、立ち退き料100万円(当時の家賃の20カ月分以上)の提供をもって正当の事由を補完するものとし、貸主の請求を認めました。

※参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構.「築後45年以上を経過したアパートの賃貸人からの解約申入れに、正当事由の補完として立ち退き料100万円をもって認容した事例」,(参照2025-11-08).

立ち退き交渉の流れ

貸主から立ち退き要請の通知書が届いた場合、交渉は以下の流れで進みます。

  1. 立ち退き要請の通知書(解約申し入れ書など)が届く
  2. 通知書の内容(退去理由、期限、立ち退き料の提示額)を確認する
  3. 弁護士などの専門家に相談する(推奨)
  4. 貸主と交渉を開始する
  5. 交渉成立(合意)
  6. 合意書(覚書)を締結する
  7. 新居探し・引っ越し準備を進める
  8. 物件を明け渡し、立ち退き料を受け取る

交渉が成立したら、口約束で済ませてはいけません。立ち退き料の金額・支払い時期・退去日などの重要な合意事項は必ず日付と署名・押印のある合意書や覚書といった書面に残してください。

立ち退き料は、通常、物件の明け渡しと同時に(または明け渡し後に)支払われるケースが多いです。しかし、新居の契約金や引っ越し費用などが捻出できない場合もあるでしょう。その場合は、明け渡し前に立ち退き料の一部を受け取れるよう交渉をしておくことが大切です。

建物の老朽化による立ち退き料を交渉する4つのポイント

貸主側から提示された立ち退き料に納得できないと思っても具体的に何をすればよいか分からないという方も多いでしょう。

老朽化による立ち退き交渉を有利に進めるには、冷静な判断と綿密な準備が不可欠です。ここでは、交渉で特に重要な4つのポイントを解説します。

交渉内容は全て記録に残す

交渉の基本ですが、貸主や管理会社とのやり取りは全て記録に残しましょう。書面やメールはもちろん保管し、電話や対面での会話は相手の了承を得た上で録音をして、いつ・誰が・何を発言したかを細かく記録に残してください。

後々の言った・言わないの水掛け論を防ぎ、ご自身の主張を守る重要な証拠となります。

老朽化の根拠となる資料を提示してもらう

貸主が老朽化を立ち退きの理由として主張する場合は、客観的な根拠を示す以下のような証拠の提出を求めましょう。

  • 耐震診断書
  • 建築士による建物の劣化診断書
  • 行政からの指導や勧告の書面

もし貸主がこれらの具体的な資料を提示できない、あるいは危険性が低い内容である場合、強い正当の事由にはなりません。差し迫った危険性が立証されなければ、立ち退き料の増額交渉も可能になる場合があります。

立ち退き料の内訳を提示する

増額を要求する際は、感情的に提示額が低いと主張するだけでは意味がありません。なぜ、いくら必要なのかを具体的に示すことが重要です。交渉材料としては、主に以下の2点があります。

  • 退去にかかる実費の積算
  • 特別な事情(住み続ける必要性)の主張

退去にかかる実費の積算とは、立ち退き料の内訳で解説した項目に基づき、引っ越し業者の見積もりや、近隣で同等レベルの新居を借りる場合にかかる費用などを具体的に積算して提示することです。次に特別な事情(住み続ける必要性)の主張とは、高齢で引っ越しの負担が大きい、子どもの学区を変えられないといった個別の事情を具体的に主張することです。これらの事情は、それだけで立ち退き料の内訳となるほどの要素ではないものの、貸主が理解することで立ち退き料に反映してもらえる可能性がゼロではありません。

なるべく早めに弁護士へ相談する

立ち退きの通知書を受け取ったら、なるべく早い段階で立ち退き問題に強い弁護士へ相談するのがおすすめです。

弁護士に依頼する代表的なメリットは以下の通りです。

  • 法的な状況判断ができる
  • 適切な立ち退き料を試算できる
  • 交渉を代行してもらえる
  • 相手方の態度が軟化する可能性がある

中でも法的な状況判断は、弁護士へ相談する大きなメリットの一つです。建物の老朽化が法的に見て正当の事由としてどの程度強いのかを、客観的に判断できます。

また精神的負担の大きい交渉の代行を全て弁護士に任せられる点も、メリットの一つです。立ち退き交渉を代行できるのは弁護士のみなので、ご自身で対応しきれないと判断したら、早めに弁護士に相談するのが望ましいです。弁護士が代理人となることで、貸主が不当な要求を取り下げたり、交渉時の態度が軟化したりといった効果も期待できるでしょう。

【ライズ綜合法律事務所なら厳密な立ち退き料の試算が可能です】
上記のメリットの中でも、特に適切な立ち退き料の試算は、交渉において重要な武器となります。弁護士法人ライズ綜合法律事務所では、必要に応じて不動産鑑定士とも連携し、過去の判例や個別事情に基づいた厳密な立ち退き料を試算します。まずはお気軽にご相談ください。

まとめ

建物の老朽化を理由に立ち退きを要請されるケースは少なくありません。特に築40年以上も経つと安全上仕方ないのかなと思いやすいですが、本記事で解説したように、必ずしも法的な正当の事由が強いケースばかりではありません。

そのため、建物の状況や貸主・借主の事情などを総合的に判断し、適切に立ち退き料へ反映することが重要です。特に倒壊の危険性などの客観的な証拠を貸主が提示できなければ、増額交渉ができる可能性はあります。

提示された金額に納得できない、明け渡し期限が迫っていて不安だという方は、立ち退き交渉の専門家であるライズ綜合法律事務所にご相談ください。弁護士法人ライズ綜合法律事務所は、相談実績16,000件以上、解決実績3,000件以上の豊富な実績があります。当事務所の強みである不動産鑑定士と連携した厳密な立ち退き料の試算に基づき、納得できる適正な立ち退き料を得られるように全力でサポートいたします。

ご相談は無料です。建物の老朽化を理由に立ち退きを要請されたら、まずはお気軽にお電話ください。

このページの監修弁護士

弁護士

久松亮一(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

東京大学法学部、及び法政大学法科大学院卒。
2012年弁護士登録。

弁護士歴10年以上の知見を活かし、法律の専門家として、債務整理・慰謝料請求・立ち退き問題など、同事務所が取り扱う幅広い法律問題に従事している。