立ち退き
2026/03/30
借地借家法第28条における正当の事由とは?分かりやすく事例とともに解説

「老朽化で立ち退いてほしいといわれたが、20年以上住んだ家を離れたくない」「店舗の更新を拒絶されて今後の事業が不安だ」といったように、突然の立ち退きの要請に戸惑う方は少なくありません。法律を調べたくても専門用語は難解で、内容を読み解くのは骨が折れる作業です。
本記事では、立ち退きを求められた借主の権利を守るために役立つ、正当の事由や立ち退き料に関する基礎知識を分かりやすく解説します。最後まで読めば、貸主の要求が妥当かをある程度まで判断でき、冷静に次のアクションへ踏み出せるようになります。
【この記事で分かること】
- 借地借家法第28条の正当の事由を構成する具体的な要素
- 自身で交渉する場合の立ち退き料の相場と請求すべき費用の内訳
- 実際の裁判例から見る立ち退きが認められるケースと拒否できるケース
そもそも借地借家法とは?
借地借家法とは、土地や建物の賃貸借契約に関する法律です。不動産の契約において立場が弱くなりやすい借主を保護することを目的としています。
また本法は民法などの一般法より優先して適用される特別法に該当します。つまり、借地や借家に関するトラブルが発生した際は、民法よりも借地借家法が優先されます。たとえ契約書に借主に不利な特約があっても、本法に反する場合は無効とされるのが原則です。
例えば、契約書に「貸主の要求があれば借主は即座に立ち退く」という条項があっても、借地借家法の定めに反している場合には、その条項は法的な効力を持たない可能性が高いのです。
借地借家法第28条を分かりやすく解説
借地借家法の中でも、建物明渡請求や更新拒絶の攻防において核心となるのが「第28条」です。この条文には、貸主側から契約を終了させるための極めて厳しい条件が記されています。
借地借家法第28条の条文
第28条は借地借家法の中でも建物の賃貸借について定めた「第三章 借家」に含まれる条文です。居住用アパートや店舗、事業所として建物を借りる際の、契約終了に関するルールを規定しています。
実際の条文は以下の通りです。
”第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。”
一見すると難解ですが、ここには借主を守るための正当の事由という重要な概念が記されています。
※出典:e-Gov 法令検索.「借地借家法」第二十八条.
https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090#Mp-Ch_3-Se_1-At_28 ,(参照2026-02-20).
更新拒絶や解約の理由とされる「正当の事由」とは?
条文を分解して整理しましょう。まず条文の後半にある正当の事由とは、貸主が借主に対し賃貸借契約の更新拒否や解約を要求するための、法的に合理的な理由です。
また条文冒頭の「第26条第1項」は、期間満了の際に契約を更新しない旨の通知について定めた項です。つまり、第28条は建物の契約を更新しない、または解約を申し入れるには客観的に納得できる正当な理由が認められなければならないという趣旨を述べています。
例えば、貸主に「物件を売りたいから出ていってほしい」といわれたとしても、それだけで正当の事由としては認められないのが一般的です。借主の住む権利は、貸主の個人的な売却都合よりも法律によって強く守られる傾向にあります。
正当の事由の判断には複数の点が考慮される
条文の中盤では、正当の事由と認めるか判断する際に考慮すべき事項が具体的に列挙されています。整理すると、以下の4つの要素を総合的に判断することになります。
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要素 |
説明 |
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1.建物の使用を必要とする事情 |
貸主と借主のどちらが、より切実にその建物を必要としているか |
|
2.建物の賃貸借に関する従前の経過 |
これまでの家賃の支払い状況や、貸主・借主の信頼関係 |
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3.建物の利用状況及び建物の現況 |
建物の使い方や、老朽化による危険性の有無 |
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4.財産上の給付の申出 |
立ち退きに際して、貸主が十分な立ち退き料の支払いを申し出ているか |
裁判所はこれらを秤にかけて、明け渡しが妥当かを判断します。借主・貸主の生活の状況や、これまでの経緯、建物の状態、引き換えとなる給付があるかなどが細かく考慮されます。
例えば、建物の老朽化が進んでいて危険だという現況があっても、それだけで正当の事由が認められるとは限りません。貸主が十分な立ち退き料を提示し、不足する正当性を補っているかどうかが、判断を左右する大きなポイントです。
この点について次項でより詳しく解説します。
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借地借家法第28条における正当の事由の判断基準
それでは、借地借家法第28条で定められた正当の事由の有無を左右する4つの具体的な判断項目についてさらに詳しく見ていきましょう。裁判所は貸主と借主、双方の事情を多角的に比較して明け渡しの妥当性を判断します。
建物の使用を必要とする事情
これは貸主と借主のどちらが、より切実にその建物を使用しなければならない理由があるかを比較するものです。特に、他の物件では代替しにくい切迫した事情がある場合には、正当の事由が認められるかどうかを大きく左右します。
例えば、80歳の貸主が自身の介護のために子供夫婦と同居する必要があるため、唯一所有している賃貸物件を明け渡してほしいと求めている場合には、貸主側の必要性は認められやすいです。しかし、借主側も高齢で20年以上居住しており、近隣に頼れる知人や医療機関が集まっているといった事情がある場合には、双方の必要性を慎重に比較することになります。
他にも、現在営んでいる事業を継続するためにどうしてもこの場所でなければならないといった商売上の必要性も考慮されます。
建物の賃貸借に関するこれまでの経緯
賃貸借契約が締結されてから、更新拒絶に至るまでの貸主と借主との間の経緯も考慮されます。まず重要な判断材料となるのが契約期間です。20年、30年と長期間継続してきた契約であれば、借主の生活基盤が固まっていると判断されて、借主を保護する方向に働きます。
次に賃料や更新料の支払い状況も重要です。滞納が繰り返されていたり、長期にわたる不払があったりすると信頼関係が破壊されているとして、貸主側の正当の事由が認められやすくなります。その他、騒音やマナー違反などの迷惑行為による苦情の有無といった信頼関係を損なうような事情も判断材料に含まれます。
30年間一度も欠かさず家賃を払い続けてきた誠実な借主に対し、貸主が「利用したくなった」という理由だけで契約の更新を拒絶しても、これまでの良好な経過を鑑みれば正当の事由があるとは認められない可能性が高いといえるでしょう。
建物の利用状況や現況
建物が契約通り正しく利用されているか、物理的な状態がどうなっているかを確認します。
利用状況については、無断転貸が行われていないか、居住用契約にもかかわらず事業用として利用するといった規約違反がないかが問われます。また契約は続いているものの長期間空き家状態になっている場合、借主側の必要性が低いと判断され、貸主側の正当の事由が認められやすいです。
現況については、建物の老朽化の程度や耐震性が焦点です。放置した場合に倒壊の危険があるなど、安全上の問題が客観的に証明される場合は、正当の事由を補完する強力な根拠となります。例えば、自治体から耐震補強の勧告を受けているような深刻な現況の場合には、明け渡しの必要性が認められやすいです。一方、貸主が「建物が古いから壊したい」と主張しても、実際には表面的な劣化だけでリフォームによる維持が可能な程度であれば、正当の事由があるとは認められにくい傾向にあります。
明け渡しの引き換えとなる財産上の給付
実務上、非常に重要なのが立ち退き料による補完です。これまで説明した「建物の使用を必要とする事情」「建物の賃貸借に関するこれまでの経緯」「建物の利用状況や現況」の3つの観点だけでは、貸主側の立ち退きの要求が正当だと認められない場合は、貸主から財産上の給付(多くの場合立ち退き料の支払い)を行う旨の申し出をすることで、不足している正当の事由を補える場合があります。つまり、最終的に正当の事由があると認められるかどうかを、立ち退き料が握るケースが多いのです。
例えば、貸主側の建物を使いたい理由がそこまで切実ではなかったとしても、借主が新しい住まいを見つけるための移転費用、今までの居住権に対する補償として十分な立ち退き料を提示すれば、裁判所により正当の事由があると判断されることがあります。
退去要請に伴う立ち退き料の目安と内訳
では、立ち退き料の目安はどれくらいなのでしょうか。
立ち退き料の目安
前提として、立ち退き料の金額は借主が被る具体的な不利益を考慮して個別に決定されるものであり、法律で一律に定められているわけではありません。以下に示す相場は、借主自身が貸主と直接交渉を行った場合の一般的な目安です。
- 居住用:家賃の6~12カ月分程度
- 事業用:業態や規模により大きく変動しますが、一例として家賃の数年~4年程度
事業用の場合は、移転による顧客離れのリスクや高額な内装工事費が発生するため、居住用より高額になるのが一般的です。また建物の状況や借主側の事情によっては、これ以上の金額が認められることもあります。
【事例で紹介】立ち退き料とは?賃貸での相場金額や計算方法の内訳は?
立ち退き料の内訳
立ち退き料の算出はケースによって違いますが、基本的には借主が次の場所で同様の生活や事業を再開するために必要な費用がベースとなります。一般的には、以下のような「移転費用」「新居契約時の初期費用」「新しい家賃との差分」「営業補償」といった項目が含まれます。各項目の具体的な中身を見ていきましょう。
移転費用
移転費用とは、現在の住居や店舗から別の場所へ引っ越しをするために発生する実費全般を指します。具体的には、引っ越し業者への支払いの他、インターネット回線や固定電話の移設工事費、それに伴う各種手続き費用などです。また移転作業に伴う交通費や、新居のクリーニング費用なども対象となる場合があります。
さらに、移転先として選んだ新居がまだ工事中である、前の住人の退去待ちで自身の入居が遅れたりする場合は、一時的な宿泊先としての仮住まい費用に加え、荷物を預けるトランクルーム代なども、移転費用の一部として考慮される場合があります。
新居契約時の初期費用
新しい住居や店舗を契約する際に、一時的に発生する各種費用も立ち退き料に含まれます。具体的には、不動産会社に支払う仲介手数料、礼金、火災保険料、保証会社利用料、鍵交換費用などです。なお、敷金は契約終了時に借主へ返還される性質の費用(預け金)なので、原則として立ち退き料の補償対象には含まれない点に気を付けましょう。
現在の家賃と同程度の物件を借りるケースでも、仲介手数料1カ月分、礼金1カ月分、火災保険料や保証料などで家賃の3〜4カ月分程度の初期費用がかかるのが一般的です。これらは借主だけが負担すべきものではなく、交渉上、立ち退き料として請求対象となり得る費用です。
新しい家賃との差分
現状の賃料と引っ越し先の地域の賃料相場との差額が補償される場合があります。借主は現在の住居の家賃で住み続ける権利が法律で保護されているため、貸主の都合でその権利を失うことによる負担増を補填するという考え方です。この補償は賃料差額方式という手法で算出され、目安として家賃差額の2年分(24カ月分)程度となることが多いですが、明確な定めはなく、最終的には交渉や判例により決定されます。
例えば、周辺の家賃相場の高騰で、現在と同じ条件の部屋を借りるのに月々2万円高くなる場合は、その差額2万円の24カ月分に当たる48万円が将来の家賃負担増に対する補償として立ち退き料に上乗せされる計算です。これは、借主が現在の有利な賃料の条件を失うことに対する損失を正当に評価するための重要な項目です。
営業補償
店舗や事務所、その他の事業所として物件を利用していた場合は、立ち退きに伴う営業上の損失が補償の対象です。考慮されるのは、移転のために一時休業を余儀なくされる期間の営業利益の損失や、移転を既存の顧客や取引先に周知するための広告宣伝費、広報費などです。また移転により顧客離れが起きるなど、将来的に見込まれる損失(営業権の喪失)も検討材料となります。さらには、休業中の従業員への給料や、やむを得ず解雇する場合の費用、通信費や保険料などの休業中も発生し続ける固定経費も対象です。
例えば、地域密着型で長年営業してきた店舗が立ち退く場合は、場所が変わることで長年の常連客を失うリスクは極めて高いといえます。そのため、単なる引っ越し費用だけでなく、移転後に売上が安定するまでの期間の損失を補填する営業権の補償が、立ち退き料の大きな割合を占めることになります。
借地借家法第28条に関する事例・判例
裁判所がどのような基準で正当の事由の有無や立ち退き料を判断しているのか、具体的な事例を見てみましょう。貸主側の事情と借主側の事情がどのように天秤にかけられ、最終的にどのような金額で和解や判決に至るのか、実際の判例を基に詳しく解説します。
アパートにおける賃貸借契約解約申し入れの事例(東京地判 令2・2・18)
築46年が経過し、老朽化が顕著なアパートにおいて、貸主が耐震不足による倒壊の危険と建て替えを理由に借主(居住用)へ解約を申し入れた事例です。借主は長年居住しており、賃料の滞納もありませんでした。貸主側は正当の事由の補完として、100万円の立ち退き料を提示しましたが、借主側は350万円が妥当と主張して対立。
裁判所は、建物の老朽化が進んでおり収益物件としての機能維持が困難である点、耐震性の観点から建て替えの必要性が高いことを認めました。一方、借主が長年誠実に居住しており生活拠点としての期待を保護する必要性も一定程度あると判断。結果、貸主側の事情だけで直ちに正当の事由があるとはいえないものの、相当程度の根拠はあると結論付けられました。
最終的に、貸主が申し出た立ち退き料100万円を支払うことにより正当の事由が補完されると認められました。これは当時の賃料(4万8,000円)の約20カ月分以上に相当し、移転先の紹介事実や固定資産税評価額などから総合的に算出されています。
店舗物件における賃貸借契約解約申し入れの事例(東京地判 平24・4・17)
不動産業者である貸主が取得したビルを自社で高層ビルへ建て替え、有効活用するために、同ビルの一室で中華料理店を営む借主に明け渡しを求めた事例です。本件物件は都市再生緊急整備地区内に位置しており、地域の再開発という公益的な側面も含んだ建て替え計画でした。
裁判所は、建築後50年以上が経過し建物の機能的陳腐化が進んでいることや、大都市中心部における敷地の有効利用という建設計画の合理性・相当性を認め、貸主側に建物使用の必要性があると判断しました。しかし、借主にとっても店舗を継続したいという要望は合理的であり、移転に伴う顧客喪失などの経済的損失は極めて大きい点も重視されました。
貸主側の必要性が借主側の事情を上回るとまではいえないため、高額な立ち退き料による補填が条件となり、最終的に4,600万円の支払いが命じられました。内訳には鑑定人が算出した店舗の立ち退き料相当額(約4,462万円)に加え、営業所所在地の変更に伴う印刷・貼付費用(約90万円)などが含まれ、営業継続の権利を重く評価したケースです。
戸建て物件における賃貸借契約解約申し入れの事例(東京地判 令元・12・12)
築57年の木造平屋戸建ての貸主が、老朽化と耐震性の不安を理由に解約を申し入れました。貸主側は840万円の立ち退き料提示を行いましたが、借主は80代と高齢で、重度の肺気腫などの持病を抱えており、住み慣れた場所からの転居は健康を著しく損なうとして明け渡しを拒否しました。
裁判所は、建物が古いことは認めつつも、一級建築士の意見を踏まえ、直ちに倒壊の危険があるほどではないと判断。さらに、高齢の借主にとって長年住み慣れた環境からの転居は、生命や身体に関わる事態を引き起こしかねないという懸念に合理的な根拠があるとし、借主側の建物の使用を必要とする事情が極めて高いと評価しました。
このケースでは、貸主が840万円という一定の立ち退き料を提示していたものの、借主側の居住継続の必要性がそれを大きく上回ると判断されました。結果、立ち退き料による補完を検討するまでもなく正当の事由はないとされ、貸主側の請求は棄却。借主はそのまま住み続けられることになりました。
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まとめ
借地借家法第28条は、貸主からの建物明渡請求に対し、借主を守る強力な砦です。もし不当な要求や低額な提示に困惑しているなら、ライズ綜合法律事務所へご相談ください。
ライズ綜合法律事務所では、不動産鑑定士と連携した精緻なシミュレーションに基づき、根拠のある立ち退き料を試算した上で交渉を行っています。15,000件以上の相談実績を誇り、居住用から店舗まで幅広く対応可能です。無料相談を受け付けていますので、まずは一人で悩まず、お気軽にお問い合わせください。
【ご相談専用フリーダイヤル】
0120657001(9:00-21:00土日祝も受付中)
このページの監修弁護士
弁護士
三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)
中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。
都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。