法律コラム

立ち退き

2025/06/27

立ち退きを請求されたらどうする?弁護士に依頼するメリットを徹底解説

立ち退きを請求されたらどうする?弁護士に依頼するメリットを徹底解説

1.立ち退き要請に直面したら

1-1 突然の立ち退き要請にどう対応すべきか

ある日、大家さんや管理会社から「契約を終了したいので退去してほしい」と言われたとしたら、どのように対応すればよいでしょうか。これまで問題なく利用していた住居や、長年営業を続けてきた店舗に対して突然「立ち退いてください」と言われたとき、多くの方は戸惑い、不安を覚えることでしょう。

しかし、ここでまずお伝えしたいのは、立ち退き要請を受けたからといって、即座に退去しなければならないわけではないということです。建物賃貸借契約においては、借主(賃借人)の権利が借地借家法という法律によって強く保護されています。たとえ契約期間満了や更新拒絶の申し出があった場合でも、それが法的に正当とされるためには「正当事由」が必要とされます。

また、立ち退きの要求には法律上の根拠だけでなく、借主にとって合理的な補償(いわゆる立ち退き料)を伴うことが実務的には不可欠です。たとえば事業用物件の場合、立ち退きにより売上が減少したり、顧客を失ったりすることは避けられません。その損失を補償するための交渉が非常に大切となります。

ところが、現実には貸主側の一方的な通知や、強引な説得によって借主が不利な条件で応じてしまう例も後を絶ちません。「契約だから仕方がない」「相手が弁護士を立ててきたから従うしかない」と諦める前に、まずは契約書や通知文の内容を丁寧に確認し、自身の権利と義務を正確に把握することが大切です。

このような局面でこそ、弁護士のサポートが力を発揮します。法的観点から契約内容や貸主の主張を分析し、交渉の可否や補償の妥当性を客観的に評価することが可能です。交渉の場においても、借主の意向を的確に伝え、不利な条件を回避するための戦略的支援が期待できます。

本コラムでは、立ち退きに関する基本的な法律知識から、立ち退き料の交渉、裁判例、税務上の扱いまで、借主の立場から必要な情報を網羅的に解説していきます。突然の立ち退き要請に直面された方が、冷静かつ法的に正当な判断を下し、納得のいく解決を目指すための指針となることを願っております。

 

2.立ち退きの法的基礎知識 — 借地借家法と正当事由

2-1 借地借家法が借主を守る理由

賃貸借契約に基づいて物件を借りている方にとって、最も大切なのは「法律に基づいた正当な立ち退きかどうか」を見極めることです。

その判断基準の中心となるのが、借地借家法(しゃくちしゃくやほう)と呼ばれる法律です。この法律は、住居用・事業用を問わず、借主を強く保護する目的で定められており、契約終了や立ち退きに際しては貸主側に一定の制限を設けています。

特に注目すべきなのが、「正当事由(せいとうじゆう)」の存在が必要だという点です。これは、貸主が契約の更新を拒否したり、契約を解約して立ち退きを求める場合に、その申し出が合理的・相当な理由に基づくものでなければならない、というルールです。

2-2 正当事由の判断基準とは

借地借家法第28条において、正当事由は以下のような要素を総合的に考慮して判断されるとされています。

  • 貸主および借主双方の建物使用の必要性
  • 建物の賃貸借に関する従前の経過(賃料滞納の有無など)
  • 建物の利用状況
  • 建物の現況(建物の老朽化や建替えの必要性)
  • 貸主による立ち退き料の提示の有無とその内容

たとえば、「建物が古くなったから壊して建て替えたい」という理由だけでは、正当事由が認められないこともあります。逆に、借主に賃料の長期滞納や重大な契約違反があるような場合には、立ち退きを命じられる可能性も高くなります。

2-3 普通借家契約と定期借家契約の違い

また、契約形態によって対応が異なる点にも注意が必要です。建物賃貸契約には大きく分けて「普通借家契約」と「定期借家契約」の2種類があり、それぞれ借主の保護内容が異なります。

普通借家契約:契約更新が前提であり、貸主が更新拒絶や解約をするには「正当事由」が必要。

定期借家契約:あらかじめ契約期間の満了で終了することが定められており、原則として正当事由は不要。ただし、借主への事前説明と書面による契約が必須。

つまり、自分がどの契約形態で物件を借りているかを正しく理解することが、対応方針を立てるうえで非常に重要です。

立ち退き要請においては、貸主側の主張が「正当事由」として法的に認められるかを冷静に判断する必要があります。そのためには、借地借家法に関する正しい知識と、契約書・事実関係の整理が欠かせません。

次章では、交渉の鍵を握る「立ち退き料」について、相場や算定要素を詳しく見ていきます。

 

3.立ち退き料の相場と算定要素

3-1 立ち退き料は「義務」ではないが交渉材料

立ち退き交渉の中でも、借主にとって最大の関心事のひとつが「立ち退き料」です。

「いくらもらえるのか」「そもそも支払ってもらえるのか」といった疑問は、立ち退き要請を受けた瞬間からつきまとうものです。ここでは、立ち退き料の法的位置づけや、算定において考慮される具体的な要素について解説します。

3-2 立ち退き料の金額に影響する要素

まず前提として、立ち退き料は法律で必ず支払われるものと定められているわけではありません。借地借家法上に「立ち退き料支払義務」という明文規定は存在せず、あくまで交渉により取り決める“任意の補償金”です。

ただし、実務上は「正当事由が不十分な場合、立ち退き料の提示がそれを補完する」とされており、裁判においても重要な判断材料になります。

つまり、借主にとっては、「立ち退くこと」によって生じる損失を金銭で補う合理的な根拠があり、当然に主張・交渉すべきものなのです。

3-3 適正な補償を得るための準備

立ち退き料の金額は、借主が被る不利益の大きさによって変動します。実際に交渉や訴訟で重視される要素は次のようなものです:

  • 引越し費用(住居用の場合の実費)
  • 原状回復費用(契約で定めがある場合)
  • 新居・新店舗の契約費用(敷金・礼金・仲介手数料)
  • 営業補償(事業用の場合、営業停止中の売上損失、顧客減少など)
  • 借家権の経済的価値(立地や営業年数により評価されることも)
  • 精神的苦痛・生活への影響(転居先の確保が困難な場合など)

これらの事情を具体的に証明する資料(見積書、賃料明細、営業報告書など)を整えておくことが、交渉の説得力を高める鍵となります。

立ち退き料は“請求できる根拠がない”と誤解されがちですが、実際には交渉上きわめて重要な要素であり、きちんと準備すれば適正な補償を受け取ることが可能です。

次章では、弁護士が実際にどのように立ち退き交渉を進めていくのか、その実務的なアプローチについて詳しく解説します。

 

4.立ち退き交渉の実務 — 弁護士の視点から

4-1 交渉前にやるべき情報整理

立ち退き問題において、もっとも重要なのは「交渉の進め方」です。

借主が自身の正当な権利を主張し、適切な補償を受け取るためには、感情的にならず、法的な視点を持った冷静で戦略的な対応が必要です。ここでは、弁護士が関与することでどのようなメリットがあり、どのように交渉を進めていくのかを実務的な流れに沿ってご紹介します。

立ち退き交渉では、「何を根拠に」「どのような条件で」立ち退くかを明確にすることが重要です。そのためにまず行うべきは、以下の情報整理です。

  • 賃貸借契約書と更新履歴
  • 賃料支払いの記録(滞納の有無)
  • 通知文や交渉記録(書面・メール等)
  • 営業実績、生活状況の証明
  • 引越しや移転にかかる費用の見積もり

これらの資料は、貸主側の主張に対抗するための「証拠」となり、交渉において非常に大きな意味を持ちます。

4-2 弁護士が交渉に加わるメリットとは

交渉の場面で弁護士が代理人として関与することにより、次のようなメリットが得られます。

  • 相手との力関係を是正できる(特に相手が不動産会社・弁護士を立てている場合)
  • 冷静かつ論理的な交渉が可能になる
  • 交渉過程を記録に残し、後の紛争リスクを最小限に抑えられる
  • 不利な条件を防ぎ、有利な補償条件を引き出せる

特に、弁護士が作成する「合意書」は、将来的なトラブル回避において非常に有効です。立ち退き料の金額、支払期限、明け渡し日、原状回復義務など、あいまいになりがちな条件を文書で明確にすることで、双方の誤解や後悔を防ぐことができます。

4-3 トラブルを未然に防ぐ交渉のポイント

  • 口頭での合意には応じず、必ず書面で確認する
  • その場での即答は避け、持ち帰って検討する
  • 自らの損失や影響を“見える形”で提示する
  • 交渉がこじれた場合は、調停や仮処分などの法的手段も視野に入れる

弁護士は、これらの対応すべてにおいて「戦略」と「法的正当性」を担保する存在です。借主一人で交渉に臨むのではなく、専門家を介すことで心理的な負担も大きく軽減されます。

立ち退き交渉は、単に金額のやり取りではなく、事業や生活に直結する重要な局面です。弁護士とともに戦略を立てることで、交渉を優位に進め、納得のいく条件で合意に至る可能性を高めることができます。

次章では、こうした交渉が決裂した場合や裁判に至った事例から学ぶ「裁判例とその教訓」について取り上げます。

 

5.立ち退きに関する事例とその教訓

5-1 正当事由が否定されたケース

立ち退き問題が交渉で解決しない場合、最終的には裁判で争われることになります。裁判所は、法律上の「正当事由」の有無や、立ち退き料の妥当性、借主の生活・営業への影響などを多角的に検討し、退去の可否を判断します。ここでは、実際の事例をもとに、借主が学ぶべき実務上の教訓をご紹介します。

正当事由が否定された事例

あるテナントビルの建て替えを理由に立ち退きを求めた事案では、借主である飲食店が20年以上にわたり営業しており、地域に根ざした事業を展開していたこと、移転先が見つからないこと、営業継続に大きな支障が出ることなどが認定され、「正当事由がない」と判断しました。

この事例から分かるのは、貸主側の事情(建て替えなど)だけでは不十分であり、借主の不利益とのバランスが強く考慮されるという点です。営業年数や地域への定着度、移転困難性は、判断に大きく影響します。

5-2 高額な立ち退き料が認められたケース

立ち退きが認められたが高額補償が命じられた事例

一方で、建物の老朽化により立ち退きを求めたケースでは、借主の契約期間が比較的短く、貸主の建物使用の必要性が高いと認められたことから、明渡しが認容されました。ただし、借主が事業用に使用していたため、営業補償・移転費用として月額賃料の24か月分を超える立ち退き料の支払いが命じられたという点が注目されます。

このように、立ち退きが認められる場合でも、十分な補償が伴わなければならないという実務の原則が事例でも確認されています。

5-3 契約手続きの不備が借主に有利に働いた例

定期借家契約の形式的ミスが借主有利に働いた事例

ある事業用定期借家契約のケースでは、契約書に「更新しない旨」は明記されていたものの、借主に対する書面による事前説明がなされていなかったため、定期借家契約の有効性が否定されて、普通借家契約として借主の継続使用が認められました。

これは、形式的な契約手続きの不備でも借主に有利な結果をもたらすことがあるという、実務上非常に重要な教訓です。契約内容の有効性は常に検証対象であり、貸主側の手続きの甘さは交渉材料にもなり得ます。

事例からわかるように、立ち退きの可否や補償額は、契約内容だけでなく、借主の営業実態や生活事情、交渉経緯などの総合的な要素で判断されます。交渉が不調に終わっても、法的に主張できるポイントが多く存在することを知ることが重要です。

次章では、弁護士に相談・依頼することで得られる具体的なメリットについて詳しくご紹介します。

 

6.弁護士に相談・依頼するメリット

6-1 法的立場を正しく理解できる

立ち退きの通知を受けたとき、多くの借主がまず思い浮かべるのは、「これって本当に応じなければならないのか?」という疑問です。そして、「弁護士に相談するほどのことなのか」と迷われる方も少なくありません。ですが、立ち退き問題は法的な複雑さと交渉の難しさを併せ持つ問題であり、弁護士への早期相談・依頼によって、解決の方向性が大きく変わる可能性があるのです。

立ち退き要請を受けた際にまず必要なのは、自分の法的立場を正確に理解することです。たとえば、契約が普通借家契約なのか定期借家契約なのか、更新拒絶や解約申し入れに法的な正当性があるのか、立ち退き料の支払い義務が生じる状況か否かなど、判断には法律の専門知識が求められます。

弁護士に相談すれば、契約内容や事実関係をもとに、自分にとって有利・不利な要素を整理し、今後の対応方針を明確にすることが可能です。

6-2 交渉の主導権を取り戻すには

立ち退き交渉では、相手方(貸主)が不動産業者や弁護士を代理人に立てていることも多く、借主が一人で交渉に臨むと心理的に圧倒されがちです。しかし、弁護士が代理人となれば、法的根拠に基づいた交渉ができ、対等な立場で交渉を進めることが可能になります。

また、交渉過程で作成される合意書や覚書についても、弁護士が関与することで不利な条項を回避し、トラブルを未然に防ぐことができます。

6-3 裁判を見据えた初期対応の重要性

交渉がまとまらず、調停や訴訟に発展することもあります。最初から弁護士が関与していれば、証拠の収集や主張の整理が的確に行われており、裁判にもスムーズに対応できます。逆に、初期対応を誤ると、のちの裁判で不利に働くリスクもあるため、早期相談は極めて重要です。

6-4 経済的メリットと弁護士費用の考え方

「弁護士に依頼すると費用がかかるのでは?」と心配される方も多いですが、実際には、適正な立ち退き料の獲得や契約条件の改善など、経済的利益が上回るケースがほとんどです。弁護士費用は、得られる補償やリスク回避効果と比較して合理的な支出といえるでしょう。

立ち退き問題は、法的・感情的・経済的に複雑な要素を含んだ問題です。一人で抱え込まず、まずは法律の専門家に相談してみることが、安心と納得につながる第一歩です。

次章では、ここまでの総まとめとして、借主が納得のいく解決に向けて取るべきアクションを整理します。

 

まとめ

一歩踏み出す勇気が状況を変える

賃貸物件の立ち退き要請は、借主にとって生活や事業の基盤を揺るがす重大な問題です。突然の通知に困惑し、「本当に出て行かなければならないのか」「補償はもらえるのか」といった疑問を抱えるのは当然のことです。しかし、ここまでご覧いただいたとおり、立ち退きに関しては法的なルールがあり、借主の権利は決して弱いものではありません。

立ち退き要請への対応でまず大切なのは、「即断・即答しないこと」です。感情に流されることなく、まずは契約書と通知内容を冷静に確認し、自身の法的立場を正しく把握しましょう。

契約の種類(普通借家か定期借家か)、正当事由の有無、立ち退き料の提案内容など、検討すべき要素は多岐にわたります。こうした判断に迷う場合は、専門家の力を借りることが最も合理的な選択です。

弁護士に相談すれば、法的に正当な立場かどうかを明確にでき、交渉の方針も整理されます。さらに、適切な立ち退き料の交渉、合意書の作成、必要に応じた訴訟対応、税務面でのサポートなど、「納得のいく着地点」に向けた実践的なサポートを受けることができます。

また、立ち退き料の金額や受け取り方法によっては課税関係が生じるため、税理士との連携も重要です。法務・税務の両面からの支援体制を整えることで、安心して将来の計画を立てることができるようになります。

交渉においては、「すぐに応じれば早く終わる」という考えが一見合理的に見えるかもしれませんが、一度退去すれば元に戻すことはできません。だからこそ、時間をかけてでも、自分にとって最も有利かつ納得できる条件を引き出すことが大切なのです。

立ち退きは“逃げるべき問題”ではなく、“向き合って解決できる問題”です。弁護士をはじめとする専門家の助けを得ながら、状況を正しく理解し、冷静に対応すれば、納得のいく形で新たなスタートを切ることができます。

もし今、立ち退き問題でお悩みであれば、まずはお気軽にご相談ください。

私たち弁護士は、あなたの権利と生活、事業を守るために、全力でサポートいたします。

 


 

このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。

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