法律コラム

立ち退き

2026/01/08

大家都合で退去を求められたら?立ち退き料の相場・内訳や交渉のポイントも解説

大家都合で退去を求められたら?立ち退き料の相場・内訳や交渉のポイントも解説

突然、大家から退去を求められると「きちんと補償してもらえるのか」と心配になるものです。賃貸物件からの立ち退きでは、退去の要請に至った事情など、さまざまな状況を考慮して立ち退き料を受け取れることがあります。

大家都合で退去を求められたケースでは、多くの場合で立ち退き料の請求ができます。新たな生活を始めるために、正当な補償を求めることが大切です。

この記事では、以下の内容を紹介しています。

  • 立ち退き料とはどのようなお金なのか
  • 一般的にどのくらい受け取れるのか
  • 立ち退き料を受け取るまでの流れ
  • 立ち退き料が支払われないケース
  • 交渉をスムーズに進める方法

大家都合による退去を求められたときのトラブル解決に役立つ内容です。ぜひ参考にしてください。

 

1.立ち退き料とは

立ち退き料は、賃貸物件の貸主が、借主に対して立ち退きを要求する際に支払われる金銭のことです。

立ち退きを要求する理由に、後述の正当事由が不足しているときや、正当事由かどうかについて貸主と借主で折り合いが付かない場合に支払われます。

立ち退き料について、詳しくは以下の記事でも紹介しています。
立ち退き料はいくらもらえる?相場や条件などを徹底解説

1-1 大家都合で退去する際の立ち退き料の相場は法律では規定されていない

借地借家法では、後述のように立ち退き料を支払うことで正当事由を補えることが記載されていますが、金額に関する規定はありません。「いくら受け取れるのか」という点に関しては、一般的な相場をもとに、借主と貸主の双方がお互いの状況などを考慮し、交渉した上で決定されます。

当事務所で取り扱ったご依頼でも立ち退き料が提示されるケースが多いのですが、これは貸主の「無用な争いを避けてスムーズに退去してほしい」という意図の現れです。

詳細は後述しますが、大家都合の退去であっても、立ち退きトラブルを取り巻く状況や契約によっては立ち退き料が受け取れないこともあります。

1-2 立ち退き料は大家都合による退去の「正当事由」の補完になる

借地借家法第28条では、貸主が借主に対して「普通借家契約」の解約や更新拒絶を主張するとき、「正当事由」が必要とされています。正当事由とは、解約や更新拒絶が認められるための必要な合理的または社会通念上相当な理由のことです。

立ち退きの申し出に正当事由があるかを判断する要素は複数あります。実務では「正当事由が不十分でも、立ち退き料の提示により補完できる」とされるため、訴訟に発展した場合でも立ち退き料の有無は重要な判断材料になっています。

なお、前述のように立ち退きの申し出に正当事由が必要なのは「普通借家契約」の場合のみです。期間限定であることが前提の「定期借家契約」では、その限りではありません。

普通借家契約と定期借家契約の違いは以下の通りです。

普通借家契約
  • 更新を繰り返して長期的に住むことが前提
  • 貸主からの更新拒絶や解約に正当事由が必要
定期借家契約
  • 契約期間満了で終了することが前提の契約
  • 契約終了に原則として正当事由は不要
  • 契約締結前の借主への事前説明と書面による交付、契約期間満了の1年〜6ヶ月前までの貸主からの通知が必要

借地借家法に関する詳しい内容は以下の記事でも解説しています。
借地借家法28条とは?立ち退きを求められたときに正当事由が必要な理由と対処法を解説

 

2.大家都合で退去する際の立ち退き料の相場

弁護士に依頼せず、個人で交渉した場合は、概ね家賃の6〜12ヶ月分が相場となっています。貸主と借主が双方の状況や立ち退きの背景などを話し合い、交渉した上で決定されるため、明確な相場はありません。

立ち退き料の計算方法は複数あり、それぞれ状況に適したものを活用することになります。詳細は以下の記事で紹介していますので参考にしてください。
立ち退き料の相場はいくら?住居と店舗の計算方法と適正額を受け取るための対策を解説

 

3.大家都合で退去する際の立ち退き料の内訳

立ち退き料の算出に大きく関わってくるのが、退去・転居に伴い発生する費用や損害です。では、大家都合で退去を求められた場合、どのような項目を立ち退き料に含めることができるのでしょうか。適正な金額を受け取るために、一般的なものを理解しておきましょう。

3-1 引越し費用

通常、引越し費用は立ち退き料に含めることが一般的です。

大家によっては、引越し業者への支払い全額は認めないと主張するケースもあります。この場合でも荷造りや輸送、開梱にかかる作業料や段ボール代は立ち退き料に含められます。

なお、特段の事情がなければ、引越し業者の個別の見積りではなく「用対連基準(※)」に従い、物件の面積値をもとに概算で請求を行うのが一般的です。

一方で荷物の量が多い、新居までが遠いなど特別の事情がある場合は、交渉によって引越し業者の見積りを基準に実費を請求することもあります。また、世帯人数、部屋の大きさ、引越しの時期などによっても異なります。

※国が定める公共事業用地の取得に伴う損失補償基準

3-2 新居契約時に発生する敷金・礼金・仲介手数料など初期費用

転居先探しで不動産会社の仲介を利用した場合や、新居の契約で支払う敷金・礼金・仲介手数料などの初期費用も立ち退き料に含めることができます。

それぞれ金額や条件は次の通りです。

仲介手数料(賃貸の場合) 最大月額賃料の1ヶ月分(法定上限)
仲介手数料(売買の場合) 法定上限による
※売買価格が400万円を超える場合は売買金額の3% + 6万円
礼金 全額請求が可能
敷金 現在の物件との差額

3-3 賃料差額

転居先として現在と同水準の利便性や広さ・間取りなどを維持した物件を探しても、転居後の家賃が現在の家賃より上がる場合があります。この場合は、一定期間分の賃料差額の請求が可能です。

近年家賃相場は上昇傾向にあるため、引越しによって家賃が上がることは十分考えられます。「(新しい入居先の賃料ー現在の賃料)×1~3年分」の計算式から家賃差額を算出した上で補償することが多い傾向です。従って、家賃の上昇分が適正な相場の範囲であれば、立ち退き料として認められる可能性があります。

3-4 インターネットや電話の回線移転費用

「転居前と同様の生活や住環境を維持する」という観点から、インターネットや電話回線の移転費用も請求できます。

これには、回線の移転で必要となる工事費などが含まれます。請求の際は、金額の妥当性を証明するため、領収書など適正額であることを証明する書類が必要です。

3-5 営業(休業)補償(店舗・事業所など事業用物件の場合)

物件を事業用に使用していた場合、営業停止中の売上の損失や、顧客の減少による損失も立ち退き料として請求できます。

大家都合の退去により、事業用物件が使用できなくなる場合、休業や廃業を余儀なくされることもあります。この場合の補償もしっかりと計算した上で立ち退き料に含めることが大切です。

物件を店舗として使用していた場合、居住用物件の場合に発生する補償に加え、利益の補償も必要になることから、立ち退き料は高額になる傾向にあります。

営業補償に含めることのできる代表的な項目は以下の通りです。

  • 従業員の賃金
  • 休業中に発生する固定費
  • 立地に優位性がある場合はその喪失に関する損失
  • 顧客の減少の損失

これらを具体的に積算し、見積り書や営業資料などと共に提示することで、より合理性のある立ち退き料が主張できます。

店舗の立ち退き料については、以下の記事でも紹介しています。
店舗立ち退きを要求されたらどうする?立ち退きまでの流れと注意点について解説

 

4.大家都合の退去でも立ち退き料がもらえない可能性があるケース

大家から退去を求められたケースでも、立ち退き要求の背景や状況によっては立ち退き料を受け取れない、または相場より少額になることがあります。代表的なケースを見てみましょう。

4-1 借主に契約違反がある

立ち退きの申し出のきっかけは大家都合でも、借主に契約違反があるケースでは、立ち退き料が受け取れない場合があります。

代表的なケースは以下の通りです。

  • 家賃を長期間(3ヶ月以上)滞納している
  • 物件を無許可で第三者に転貸している
  • 故意または重大な過失により物件に損害を与えている
  • 大家やほかの入居者への重大な迷惑行為がある
  • 騒音や悪臭などの迷惑行為が続いており注意しても一向に改善されない
  • 物件を公序良俗に反することや犯罪・反社会的な用途に利用している
  • 無許可で改装やリフォームをした
  • ペット不可の物件でペットを飼育している
  • 予定の業種と異なる店を営業している
  • 住居用の物件で店舗の営業をしている
  • そのほか重大な契約違反が認められる

4-2 建物の老朽化による取り壊しで正当事由が十分である

住人の安全性に危険が及ぶほど建物が老朽化している場合、十分な正当事由があるとされ、立ち退き料が支払われないことがあります。

一般的に建て替えを検討するのは築30年~40年程度からといわれていますが、正当事由を満たすほどの「建物の老朽化」は、単に築年数が経過して古くなった程度では足りません。耐震性の劣化や建物の損傷により、居住を継続することに危険が伴う必要があります。

あくまで、取り壊しや建て直しに緊急性、重要性が高いケースが対象です。

4-3 定期借家契約期間が満了になった

定期借家契約の期間満了で退去するケースも、立ち退き料は受け取れません。例えば「契約が満了した後に親戚が使う」といった、一見大家都合に見える場合でも、事前に了解を得て定期借家契約を締結している以上は、原則、期間満了により契約は終了します。

前述の通り、定期借家契約は原則更新を前提としていないため、立ち退きを求める理由がどうであれ、当初の合意に基づき賃貸借契約が終了したに過ぎないのです。

貸主は契約期間満了の1年〜6ヶ月前までに借主に通知を行うことで、契約を終了させて明け渡しを要求できます。

4-4 大家が自ら物件を使用することになった

大家が自分で物件を使用するため退去を求められた場合、正当事由に該当し立ち退き料が支払われない可能性があります。

ただし、よほどの事情がなければ立ち退き料の提供なしでは正当事由は認められません。ただ「住みたいから」というだけの理由では立ち退き料の支払いが必要になることが多いです。

正当事由として認められやすい例としては、以下が挙げられます。

  • 大家の通院先が物件の近くにある
  • 子どもの学区を変更したくない
  • 物件の近くに住む両親に介護が必要
  • 経済的に困窮しており、ほかの賃貸物件を契約できない
  • 大家の本業で物件の近くに転勤する
  • 介護などやむを得ない事情で親と同居する家が必要

このように、その物件が必要である、ほかに住む所がないといった事情が必要です。

4-5 物件の競売で大家が代わった

居住中の物件が競売にかけられ、大家が代わった場合は立ち退き料の支払いは受けられないことがあります。具体的には、物件に抵当権登記設定がされた後に、借主が賃借を開始して物件の引き渡しを受けたところ、その後、当該物件に設定された抵当権に基づき物件が売却され、物件の所有者が交替になる場合があります。

上記の場合、借主の賃借権は物件の新所有者に対抗することができず(借地借家法31条参照)、借主は立ち退きに応じなければならない義務があります。

上記の場合には、例えば、賃貸物件に投資用不動産ローンなどの担保として抵当権が設定されているケースがあります。競売によって抵当権が実行された際、抵当権が賃借権の設定より先に登記されていると、抵当権が優先されて借主は立ち退きを拒否できません。

新たな大家と再度賃貸借契約を結ばないのであれば、6ヶ月以内に退去が必要です(民法395条1項参照)。

他方で、抵当権が設定される前に賃貸借契約を結んで物件の引き渡しを受けているケースや、抵当権に基づかず(担保権を有しない一般債権者の申立てによって)物件が競売にかけられたケースなどは、借主の賃借権を物件の新所有者に対抗して(借地借家法31条)、立ち退きを拒否できることがあります。また、新たな大家が早く物件を使いたい場合は、立ち退き料と引き換えに早期の退去を依頼されることもあります。

 

5.大家都合で退去する際の交渉から立ち退き料をもらうまでの流れ

実際に、大家から立ち退きの通知が届いたら、どのように対処すれば良いのでしょうか。冷静に対応できるよう、立ち退き料を受け取るまでの流れを解説します。

立ち退き料を受け取るまでの流れや対応方法に関しては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
立ち退きを求められたらどうする?確認すべきこと、初動の対応方法を解説
立ち退きを請求されたらどうする?弁護士に依頼するメリットを徹底解説

5-1 立ち退き理由の説明・通知を受ける

まずは大家側や管理会社から、立ち退きの理由や背景について通知が届きます。書面で行われることもありますし、対面で説明されることもあります。

退去要請の通知日や内容を残すため、一度は証拠としての記録が残る内容証明郵便が送付されてくることが一般的です。

5-2 契約と通知内容を確認する

通知が届いたら、その内容と現在の賃貸借契約の内容を確認します。

重点的にチェックするのは以下の条項です。

賃貸借契約書
  • 契約形態
  • 契約期間
  • 更新や解約に関する事項
立ち退きの通知書
  • 立ち退き請求の理由
  • 立ち退きを求める時期
  • 補償の有無

5-3 弁護士に相談する

大家側からの要求を法的に精査するため、弁護士に相談してみましょう。立ち退き料が相場より大幅に低額であるなど、不当な要求が含まれていることもあるためです。

弁護士に依頼するまでは、自己判断で行動せず、相手方からの連絡には「確認中」として保留にするのが良いでしょう。

5-4 弁護士に立ち退き料の交渉を依頼する

弁護士への依頼が決まったら、補償など相手方への請求に関して打ち合わせます。方針が決まったら、あとは弁護士に交渉の代行を依頼できます。

大家側から「立ち退き料を払うので早くしてほしい」などと直接連絡が来る可能性もありますが、冷静に「代理人を通して」と伝え、直接対応しないことが大切です。

5-5 調停や裁判によって解決する

交渉が決裂した場合、調停や裁判によって解決することもあります。弁護士に依頼している場合、こちらの対応も任せることができます。

なお、借主側から立ち退き料請求の調停を申し立てたり、訴えを起こしたりすることはできません。立ち退き料の請求は、立ち退きの要求を受けて行われるものだからです。交渉が決裂した場合は、大家側からのアクションを待つことになります。

5-6 退去手続きを進める

退去が決まったら、転居の準備を始めましょう。新居の手配や引越し業者の準備など、漏れのないよう計画を立てます。

退去期日に間に合わないとトラブルの元になるため、余裕を持って計画的に進めることが大切です。

5-7 立ち退き料を受け取る

立ち退き料は、通常退去完了後に受け取れます。借主によっては、立ち退き料を受け取ったにも関わらず退去しないケースもあるためです。

訴訟で決着した場合は「引き換え給付」が基本となるため、退去と同時に立ち退き料の支払いが行われます。

ただし、交渉で折り合った場合は「引越し費用分だけ先に欲しい」など、柔軟に条件を提示することができます。支払い方法や時期も調整できる場合があるため、こちらも弁護士と相談してみましょう。

 

6.大家都合で退去する際の立ち退きに関する解決事例

ここで、当事務所で取り扱った大家都合での立ち退き要求事件を一つ紹介します。

東京都の賃貸アパートにお住まいの30代女性は、ある日管理会社から取り壊しを理由に立ち退きを求められました。提示された立ち退き料は20万円と非常に低く、引越しの経費すら賄うことができません。管理会社に抗議しても「入居者全員同額なので」と一切取り合ってもらえませんでした。

女性は困り果て、当事務所に連絡されました。弁護士が法的根拠をもって交渉にあたった結果、立ち退き料を260万円まで増額することに成功。女性も無事新居に移ることができ、新たな生活を始めることができました。

立ち退き料は、状況しだいでこのように大幅に増額できることもあります。泣き寝入りせず、専門家に相談することが大切です。

 

7.大家都合で退去する際の立ち退き交渉をスムーズに進める方法

賃貸物件の立ち退き交渉は、備えのないまま始めてしまうとトラブルに見舞われることも少なくありません。スムーズに進めるためのポイントを紹介します。

7-1 トラブルを避けるために記録と証拠を残す

交渉ごとには「言った」「言わない」は付きものです。無用なトラブルを防ぐためにも、記録と証拠を残すことが大切です。相手方とのやりとりは、なるべく文書やメールで行うようにしましょう。

特に、以下の内容は条件交渉において非常に重要です。後から合意の内容を確認できるよう、必ず書面にしておきましょう。

  • 条件に合意した日付
  • 立ち退きの期日
  • 立ち退き期日を過ぎた場合の対応
  • 立ち退き料の金額
  • 現在の物件の敷金の返還
  • 立ち退き後に残置物がある場合の対応
  • 定めた条件で立ち退きに合意している旨
  • 入居者と大家の署名と捺印

7-2 弁護士に相談・依頼する

立ち退き交渉は、弁護士に相談することをおすすめします。有利に進めるには法律の専門知識が不可欠であり、依頼することで以下のようにさまざまなメリットがあるからです。

  • 借主としての権利を守り冷静で戦略的な対応を取れる
  • 契約書や通知書の内容を法的観点からチェックできる
  • 大家側とのやりとりを分析し借主の法的な状況を明確にできる
  • 大家や管理会社との交渉を任せられる
  • 交渉記録や合意内容を文書化できる
  • 訴訟に至った場合でも対応を任せられる

「いきなり立ち退きを要求されて右も左も分からない・・・」という場合でも頼もしい味方になってくれます。

 

8.大家都合で退去する際の立ち退き料で損しないために|弁護士の活用と相談のすすめ

立ち退き交渉の最初の対応を誤ると、補償を受けられなくなったり、契約上の権利を意図せず放棄することになりかねません。退去の申し出や通知があった場合、まずは落ち着いて情報を整理し、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に依頼することで、大家側との交渉や合意書の作成、税務処理の確認など、法的なサポートを幅広く受けることができます。

ライズ綜合法律事務所は、立ち退きトラブルに限った1万5,000件を超える相談実績・3000件以上の解決実績を誇る法律事務所です。これまで培った圧倒的なノウハウで、最適な形での解決をお手伝いします。

立ち退きトラブルの相談料は無料で、全国対応が可能です。お悩みの方はお気軽にご相談ください。


 

このページの監修弁護士

弁護士

三上 陽平(弁護士法人ライズ綜合法律事務所)

中央大学法学部、及び東京大学法科大学院卒。
2014年弁護士登録。

都内の法律事務所を経て、2015年にライズ綜合法律事務所へ入所。
多くの民事事件解決実績を持つ。第一東京弁護士会所属。

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